第一章 3 『笑顔って』
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自分の家の天井か。
考えるのがめんどくさい。もう少しだけ寝ちゃおうかな。
「起きた!!」
「ぅうわぁぁっ!?」
視界の外から急に大きい声をかけられたとはいえ、ビックリしすぎだぞ自分。
すごくニヤニヤした顔がこっちを見ている。知ってる顔だ。
「昨日はごめんね。お兄ちゃん!」
「は......!?」
俺に妹!?いや、一緒に助け出されたこの女の子は年下だったってことか!そうだな!そうだ!いきなり頭使わせるとか、つくづくこの子とは相性が悪い。
「おはよう、ロキ。ベルちゃんに思いっきり負けたみたいだけど、体は大丈夫?」
「ちょっ!?」
やめて母さん、笑顔で言わないで。年頃の男の子の傷を抉らないで。
「ベルちゃん自分が元々どこにいたのか覚えてないらしいの。他の街でベルちゃんを探してる人がいないか、お父さんがあちこち連絡してるから、それまではうちで預かることになりました!」
「そ、そうなんだ。」
「よろしくね!」
父さんは、ここフランジャーマの街の代表だからすぐに連絡がつくだろう。
そういえば、誘拐されて運ばれている時に聞いた泣き声とは違うな。
「で、なんでお兄ちゃん呼びなの?」
「たぶん私も10歳だけど、この家に後から来た身分としては下だから!」
「いや、ロキって呼べばいいじゃん!」
「反応が面白そうだったからでした!」
うん、もう考えるのやめよう。たぶん10歳ってのもよくわかんないし。
顔を洗って、ご飯を食べた。平和な日常にありがたみを感じる。
そして母さんに連れられて、父さんいる役所に向かった。
「体に異常はないかい?」
「とりあえず大丈夫そう。」
誘拐犯たちが血まみれで倒れている状況に説明がつかないこと。部屋の床にスイッチがあり、地下に繋がっていたこと。それらを街の騎士団が調査中だと教えてもらった。
そしてあの日、同じく誘拐された女の人がいたらしく、おそらくその人が自分の前の犠牲者かもしれないらしい。なんとも言えない気持ちだ。
「それで、ロキはどうして外に出れて、ベルちゃんの牢屋の鍵を開けれたんだ?」
「.........。」
「ロキ?」
......あの研究って本当に全部がダメなものだったのかな。
忘れていたけど、この力はすごい気がする。
今は体に異常がない...調べた方がいいのかな?
いや、脳にルーン文字が刻まれたってどう反応するかな...。
「起きたばかりで辛いことを思い出させて悪かった。」
「へ?あ、いや...ちょっと待って。」
心配させてしまった。今ここには家族とベルだけだし......言おう!
「心配させてごめんなさい。えぇっと、大ごとにしたくないのと、自分で調べてみたいのと、色々頭の中で考えてた。驚かないで聞いて欲しいんだけど、実は......。」
全てを話した。話した上で、
「悪運強いね!」
「母さん!これ急死に一生を得た息子の苦労話だからね!?」
問題の自分の体。脳にルーン文字を刻むなんて聞いた事がない上、物を変化させる原理がわからない。
父さんが今の技術について簡単に教えてくれた。
体内のマナはそのままでは使えない。
魔石作りとルーン文字を刻む時に使う。
体内のマナが回復する時間は人それぞれ。
魔石は、体外で凝華する事で作れる。
人によって凝華する時間は違う。早い人でもそれなりに時間はかかる。
ルーン文字は魔石と組み合わせて使う。それが魔導製品。
つまり体内に魔石を作ってルーン文字を起動させたわけではない。
それじゃあなんなのか。ありえなくても体内のマナを直接使ったと仮説して、今回出来たトゲの量から、一瞬でそれだけのマナを使うなんてありえるのか。
そもそも体内のマナの量は人によるし、多い人でもきっと同じ量を出せるのか疑問だ。
魔石作りと比較して、今考えられる技術では想像がつかない速さと量。
現実離れした話をさらに現実離れさせただけだ。
「ロキ、この事は家族の秘密だ。異常があったら言いなさい。下手に知られると誰に連れて行かれるかわからない。」
「そうするよ。それから学園に入ったら自分で調べてみる!」
13歳になる年になったら学園に入れる!色々勉強して自分を研究しよう!
「お兄ちゃんを研究するの楽しみ!」
「待てっ!変なこと考えるな!!」
「学園に入ったら兄の徹底研究!逃げられないように体も鍛えないと!」
学園に入るまでは武術を習おう!平穏な学園生活が遠ざかる!!
ベルの元の家早く見つかってくれ!!学園来なくなる可能性よ、来い頼む!!