第ニ章 特EP 『不足と充足』
「ハハハハハッ!」
全てが新しい発見で、楽しく走り抜ける。
初めて見た動物をいたずらに狩り、つまらん、とつぶやいてまた走り出す。
川を見つけてしばらく遊び、また走る。
人間を見つけた。他の動物と違って道具を使っている動きを観察する為、自分を認識されないように力を使う。
光と認識の精霊アリストテレスは、人間の動きを知る事を娯楽にした。
そして、人間は道に沿って動いている事に気づく。
道に沿って走る。
小さい街を見ては通り過ぎ、また走る。
大きい街に着き、しばらくは街の近くを動き回った。人が人を誘拐している場面を見たり、街の外では人が人を狩っているのを見て、人狩りを狩って金を手に入れた。
自分が人の姿に見えるよう認識させる力を使い、人が食べているもの、飲んでいるものが美味しいと知る。
気まぐれに街を移動して新しい発見をする事を楽しんだ。
他の精霊の気配を感じてはいた。気が向いて、精霊の一人に話しかけた時、生まれて初めて、殺すのも嫌なくらい関わりたくないとトラウマを植え付けられた。それ以来関わるのをやめた。
服も武器も魔導製品も十分に楽しみ、次をどうするか悩んでいる頃、行った事がない村の情報を知って移動した。
中立国所属にはなっているが、特にどこからも関与されない辺境の村。
誰にも気づかれずに村人の会話を聞く。
「あの子は普通じゃない。」
「やっぱり化け物なんじゃろう。放っておくわけにはいかんな。」
「しかし、あの子を殺せば竜が黙ってないだろう。」
「せっかく剣士様たちが来ているんだ。竜は任せればいいだろう!」
村人が子どもと竜を殺すか否かをずっともめている。
「ふむ、さっさと決まらんかのぉ。」
アリストテレスは、人が人を傷つけること自体は興味がないが、何が起きて結果がどうなるかは興味があった。しばらく聞くことにした。
* - * - * - * - * -
少女は、竜といることで心が安らいでいた。
自分がどこから来たのかわからない。
ある日の夜、気づいたら村の入口に立っていた。
怪しまれ追い払われる寸前、この村で子どもの先生をやっている女性が少女を引き取ってくれた。
それからは先生に勉強を教えてもらったり、花を植えたり、他の村人の手伝いを一緒にやったりして、受け入れてもらった。
しかし、先生と子どもたちで初めて近くの山に登った時に事件が起きた。
それまではいなかったという赤い竜がそこにいた。
少女たちをちらりとは見たが、特に何をするでもなく、静かに横になっている。
みんなが恐怖に染まる中、少女だけは近づき、竜に抱きついた。
竜もそれを嫌がることなく受け入れていた。
正気に戻り始めた子どもたちが少女を化け物と呼び始めた。
それからというもの、先生以外は誰も少女に近づかなかった。
寂しさから、何度も山に登って竜との時間を過ごしていた。
そして、そのいつもの帰り道、アリストテレスと出会った。
「おっ、変な気配はおぬしか。ここで何をしている。」
「・・・・。」
「んー?それじゃ名前は?」
「・・・・。」
「なんじゃ、喋れんのか?」
「・・・・リジェネだよ。」
「リジェネか。わしはアリストテレスじゃ。おぬし、一体なんなんじゃ?人間ではなさそうじゃが。」
「・・・・。」
「なんじゃ、悲しい顔して。ん、おや?」
少女の存在感で気づかなったが、近くに別の存在がいることに気付いた。
「ハハハッ!なるほど!自分が何者かわかっておらんのか!いや、わしも今気づいたんじゃが!しかし、そうか!そういう生まれ方もするんじゃな!これは面白い発見をした!よし、可哀想なおぬしにまじないをかけてやろう。」
おびえた少女の頭に手を乗せる。
「アサイン。」
少女は自分の体が光ったように見えた瞬間、そのまま眠りに落ちた。
翌日、目を覚ました少女が見たものは、村に来た時から自分を育ててくれた女性が、目の前で他の村人に斬られているところだった。
「――――っ!!」
「に....げて......。」
わけがわからないまま少女は逃げた。逃げて、また赤い竜に会ったらきっと落ち着ける。それに頼るしかなかった。
しかし、その願いも叶わなかった。赤い竜が血を流し、今にも息を止めそうな状態になっている。
「よし!もう一息だ!」
剣を持つ人、杖を持つ人、弓矢を持つ人が竜に向かって武器を構えている。
それでも少女は竜の前に立った。
「おい!なんでお前がここにいる!?」
「あの村人たち、自分たちが始末するって言ってたのに逃げられたのか。」
「子どもを殺すのは気が引けるけど仕方ないね。」
なんで竜を襲ったのか。なんで先生が斬られたのか。
なんでこんな目にあうのか。なんでこんな時にも涙が出ないのか。
赤い竜に触れながら眠る前の出来事を思い出す。
思い出して――――。
少女と竜の周りに少しずつ赤と黒の光の渦が発生し、ゆっくり廻り始めた。
全体を包み込むほどに広がった渦が速度を増し、姿を飲み込んでいく。
この日、赤い服を纏ったリジェネは久しぶりに笑うことが出来た。
後日訪れた傭兵団と商人たちが見たものは、目から光を失い、排せつしようと衰弱しようと、その場から動こうとしない村人たちの姿だった。




