第二章 12 『決意』
「ロキ君はどうしてベル君を助けたいんだ?」
「え?」
事情を説明し、協力を惜しまないと約束してもらった。
レオナルドは真面目な表情で真っ直ぐロキを見つめ、話を続けた。
「これはもう学生の身で動く範疇を超えている。大人が、それも国王が協力をする状況になった。ベル君はこちらに任せて、君は学園に戻るべきじゃないのか。」
「それは・・・!」
「私はお兄ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌!」
「これは一時の感情だけで動くものではない。他の精霊が協力的とは限らないだろう。存在が未知な上、どれだけ時間がかかるかもわからない。魔物に襲われる事もあるだろう。ロキ君自身、危険な道を選び、死ぬかもしれない事をちゃんと自覚出来ているのか。入団テストではベル君を守る覚悟自体はあったが、まだまだ戦力としては弱い。ベル君も目の前でロキ君が死んでしまったら嫌だろう。」
言い返す言葉がなく、二人はお互いの顔を見たあと、うつむいた。
学園から王国までは旅行気分で来て、偶然出会った精霊に世界の危機を聞いて、ヒナタがこの世界に来た理由を聞いて、すべてが急に起きて、受け止めて、なんとかしなきゃと流れで決めたこと。
そもそもロキは、誘拐された時に得た自分の力を知る事が本来の目的で、それはパルによってわかってしまった。ここにいる意味は?ベルを助けたいのは本当だ。それでも一緒にいて実際に助けになれるほどの力量が自分にはあるのか?
ロキはちらりとベルを見ると、静かに涙を流していた。
すぐに否定出来なかった国王の言葉の重さに、胸がどんどん苦しくなる。
二人がかりであっけなく王様に負けた時の記憶が、そこで本当に死んでしまう自分を想像させる。
「君たち自身が迷っている状態では、足を引っ張りかねない。出発を明後日に伸ばして、明日ゆっくり考えてから結論を出すといい。私は周辺国と協力する為に遣いを出しておく。今日は休みなさい。」
ギルドを後にして、ロキたちは宿に戻った。
ベルはヒナタと一緒の部屋にしてもらった。
「ロキは力もなく、意気地もない。」
「わかってるからわざわざ言うな。」
「いやいや、こういうのは口に出してスッキリさせながら考える方がいい。みんなに当てはまるかなんて知らないけれど。」
パルの言葉で、ロキは床から天井に目線を移した。
「はぁ・・・。まぁ、確かに、息も詰まってつらかったし、暗い気持ちを頭の中だけに収めてるよりはマシな気がする。ありがとう。」
「えっ、お礼言われてしまうとは。」
「パルは俺をどうしたいの!?」
「ふふん!私は私の役割りを理解したと言っただろう?力が足りないなら誰かに頼ればいい。頼った上で自分が動いちゃいけない理由なんてない。何とかしようと思っていて、黙って帰ってくるなんてバカなのか。」
それも言われなくたってわかっていることだ。ただ、簡単に考えてしまっていた事を指摘されて、それが間違っていないのも事実だ。
「・・・なぁ。ヒナタが言ってた精霊を退治しても世界が安定するってのは本当か?」
「本当の可能性はある。事実、私が見る違う時間にヒナタの存在はない。つまり、あの子が干渉して変わった世界は私ではわからない。」
「!?それって、ベルが存在するかしないか関係なく未来が変わってるんじゃないのか!」
「そもそも神にとって大事なのは、この世界の有り方が元に戻る事なんだろう。そしてそれはヒナタをこの世界に呼ばないと修正出来ない事態になっている。人間一人一人の未来まで大事にすると思う?」
大事なのは人の未来じゃなく、世界の維持。それはそうだ。世界が壊れてしまっては意味がない。そうなると神を敵に回すことになるのか?ヒナタ以外の精霊を退治する人間が出てきてもおかしくないんじゃ。
もしかして、ベルの存在が知られるのは危ない事なのか?すごく迂闊な事をしてしまったのでは。いや、王様が言っていた危険はこれも含んでいるのかもしれない。あとは、
「他の精霊と戦う可能性ってやっぱりあるのか?」
「もちろんある。精霊は突然生まれて、何をしたらいいのかは自分で決めている。自分以外の存在をどう思うかなんてわからない。私と同時に生まれた精霊は、走ってどこかに行ってしまったけど、どこでなにしているやら。」
王様に会う前、パルが知っている他の精霊の場所を聞いた。
ボナパルト帝国中央都市、帝国の中にあり出身の街フランジャーマ、そしてアビリスタ学園にも実はいるらしい。
ベルが精霊だとわからないように、他の精霊を探すのは簡単じゃなさそうだ。
「俺が出来ることって・・・。」
精霊を探したい気持ちはもちろんある。ただ、自分が行動していいのか、本当にただ迷惑をかけるだけなんじゃないか、と決断を鈍らせる。
研究がうまくいかないとか、ベルとは戦っても勝てないし勉強でも勝てないとか、王様には惨敗するとか。そんな負けの経験が蓄積して、特別な力も強力なものではないという自信のなさにつながる。
さらに、王様に必要とされていない自分への評価が、誰にも必要ともされていない行動なのだと、進もうとしている道への一歩を躊躇ってしまう。
解決出来ない考えが頭を埋め尽くし、あっという間に負の連鎖におちていく。
「今日はどうしようもないな。」
パルは自分の空間に戻っていった。
疲れていたのもあり、ロキはそのまま眠りについていた。
「ロキ!遊びに行こう!」
「ゴッッフ!」
翌朝、ベルが突然部屋に入ってきて、物理的に思いっきりたたき起こされた。
どうしてこんなに元気になったのか見当もつかない。
朝ごはんを食べに行き、美味しいと笑顔を見せてくれながら一緒に食べた。
武器屋に防具屋、装飾品を見て、好みの見た目を話し合った。
そして、王様に勝つ為に作戦会議。
どんな装備があればいいとか、ロキが力を隠さずに戦うならどうやって連携していくとか、パルとヒナタがいる今ならどうやって動くかとか、思いつく限りを話し合った。
「ふぅ!というわけで、お兄ちゃんは絶対についてくること!」
突然のベルの発言に、ロキは目を開いて固まってしまった。
「結局、何を言われたって関係ないのよ!私がついてきてほしいし、巻き込むことはもう決定だから!安心して流されてね!」
あぁ、なるほど。足りなかったのはこれだったのか。自分勝手でも決断してしまえばいんだ。しかも自分をこんなに必要としてくれる存在が隣にいるじゃないか。
「俺もベルと行きたい。精霊も自分で見つけたい。神が邪魔してこようと関係ない。この世界の有り方が変わってしまうなんて知らない!俺はやりたいようにやる!」
「そうそう!世界が変わるのはお兄ちゃんのせいじゃない!」
「おう!世界が変わるのは俺のせいじゃない!・・・え?この言い方は知ってて悪い事してる感じがして罪悪感あるんだけど。」
「関係ないよ!ほら、王様に報告しに行こう!」
ベルに手を引っ張られながら、ロキはどんな事が起きようと、引き返す事はないと心に誓って進み始めた。




