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ところ変わって辺境領

Side.7


Side ??


辺境領ジュリオ。第三王子のロミオ殿下が治められるこの地は隣国である紹稀国との境を森で区切られた、いわば戦場地帯であった。この地は砦と城壁で守られた僅かばかりの土地があるいわば防衛の拠点。


「あの、……おじさん。」


おじ……10歳の少年から見れば確かに24歳の俺はおじさんかもしれないが、少し悲しくなった。老け顔なのは認める。


「なんだ、少年。あと、ティボルトと呼べ。」


「じゃあ、ティボルトさん。弟たちを助けてくれてありがとうございます。あと、兄も、姉も助けてくれてありがとうございました。」


「……俺はロミオ殿下の意志に従ったまでだ。感謝を伝えるならロミオ殿下に伝えてくれ。明日には王都に向かうのだから。」


この少年は他の二人よりも少し年上だった。と言っても6歳、に5歳の面倒を見ているから年上らしくしているが、彼だって10歳。まだ遊びたい盛りだろうに、彼は必死に弟たちを守ろうとしていた。まあ、彼のような症状は貧困層のここに来たばかりの少年たちによくみられる行動なので、我らはいつものように飯を一緒に食べながら、剣術や魔法を教えて子供らしさを取り戻させる。


かく言う俺も同じように接されて、そしてここまで育った。騎士団長には感謝してもしきれない。


そんな折に今の少年と同じ年に此処に来たロミオ殿下と出会った。彼は一人で来る気だったらしいが、幼馴染みであったブルータスも付いてきた。どちらも子供とは言い難く化け物であった。その言葉を呟こうとしたときのブルータスは俺を殺す勢いで剣を俺に突きつけたのだった。


『もし、その言葉を言うならば私は貴方の首を一突きします。』


その時の眼はマジだった。普段、飄々としているブルータスの琴線はどうやらロミオ殿下であると知った。それが俺の今の主と、同僚との出会いであった。まあ、ブルータスは同僚と言ってもロミオ殿下とブルータスは同じ年なので俺が8歳も年上であるのだが。


「おじさん!!何惚けてるんだよ!!」


「あー、すまん少年。君がここに来たばかりのロミオ殿下と重なってしまってな。」


「ロミオ殿下ってあの『忌み子』の兄ちゃん?」


「『忌み子』?」


「姉ちゃん……黒曜の事をみんなそう呼ぶんだ。『黒い髪と黒い目は厄災をもたらす』って言われてる。……あ、俺はそんなこと思ってないからな!!」


その言葉を聞いて俺も嘗て思ってしまったことを思い出した。あの魔力に、あの戦闘スキル。化け物と思わない方が無理だったかもしれない。だが、世の中には努力でその化け物の領域に行く規格外(ブルータス)だっているわけだ。


「じゃあ、少年、良いことを教えてやろう。君の姉君が紹稀国(そちらの国)で『忌み子』と呼ばれているらしいが、ソネット王国(こちらの国)では『双黒』と呼ばれて敬われている。」


「好かれているってこと?」


「そうだな。我が国では『双黒』が生まれるとお祭り騒ぎだ。ロミオ殿下が生まれた時はそれはもう国中でお祝いをして、花火だって上がったな。いつだったか会った王太子殿下が『私の時よりも盛大で思わず笑っちゃったよ』なって言っていたぐらいだ。少年の姉君が我が国で生まれていたら平民であろうとお祭り騒ぎになったのだ。」


「ティボルトさん……俺の話聞いて貰ってもいい?」


その言葉に頷いた。少年は複雑そうな顔でポツリ、ポツリと話し出した。彼が自分の事を話すのは初めてだったかもしれない。


曰く、彼は孤児院で育った。その孤児院はロミオ殿下が連れて行った二人、琥珀と黒曜、それ以外にも二人、合わせて四人の給金で何とか賄う生活だったらしい。貧しいながらも必死でやりくりして、生きて来たらしい。そして血のつながりがない兄弟が沢山いた、と。

少年もそんな中で育った故に、帝から『魔力が高いから魔道師団に入るように』と、指示を受けた時はよくも考えず、弟たちと兵士について行ってしまった。着いた先で自分たちが姉の人質だと気づかされた。

姉の命か、少年たち三人の命か、両天秤を姉に問うたという。


姉は迷いもせずに自分の命を選んだ。


そのことが少年にとって深い傷になってしまったのだろう。


自己犠牲とは聞こえはいいが、遺された者にとっては深い傷になる。少年も、その弟たちもそうであったのだろう。


幸いにして、その両天秤は兄が破壊した。だが、少年たちに、気を失った姉を連れて一人で敵を迎撃しながらここまでくる道のりは彼にとっては傷を深くする旅であった。


無力感、焦燥感、いろんな感情を経験したのだろう。今にも泣き出したいだろう。それを堪えて喋る姿は昔の俺と重なっていく。


「だから、俺、強くなりたい。」


そう言い切った少年。風が吹く音が少し耳に残った。その言葉の意味をこの少年は分かっているのだろうか?その真意を確かめるべく、口を開きかけた。


「いいじゃん、私はそう言う心意気は好きだよ。」


急に現れた男。金髪のその男は見覚えがあった。


「れ、レイア殿下!?な、何故ここに!??」


「ん?やあ、久しぶり、ティボルト。遊びに来たよ。」


遊びに来たというこの方は現状、我が国で二番目に地位の高い王太子殿下で、俺は泡を吹いて倒れたい気持ちを必死に抑えていた。王太子殿下の特殊能力(ギフト)は瞬間移動で、嘗て来たことのある場所であれば、どこでも行ける。ついでに言えば、本人だけでなく、数人……訂正、やろうと思えば王都の主力を一気に辺境に連れて来られる。


現に、先の停戦に持ち込んだ決定打は王太子殿下の特殊能力(ギフト)によるものだ。


「琥珀の言っていた金剛(こんごう)くんは君かな?っていうか合っているかい琥珀?」


そう言って後ろでリバースしている男は見覚えがあった。見事なリバースで、とりあえず目の前の少年の目元を覆ってやった。流石に敬愛する兄のそんな姿を見たくはないだろう。


「あれ、琥珀、私の部下になるならばこのぐらい耐えられないとダメだよ?今回は他の側近も連れて来て居ないのだから君が守ってくれないと困るのだけれども。」


いやいや、無理ですって王太子殿下。その特殊能力(ギフト)はほとんどの人間酔いますって。前回の大量移動の時だって出てきたとき先頭集団は王太子殿下の直属部隊なので涼しい顔していましたが、後ろの方は今の琥珀殿よりも悲惨でしたから。見かけに騙されて敵が逃げてくれて本当に良かったですよ。


「すみま……うっ、」


「いや、王太子殿下、何故こちらに?あと何故琥珀殿が殿下直属部隊の服を着ていらっしゃるのですか?」


とりあえず、琥珀殿が回復するまでの間、俺が聞きたいことを聞く方向にすることにした。


「ん?子供たちが心配だって言っている琥珀に提案したんだよ『私の部下になるならその子たちと黒曜の面倒みられるぐらいの給金上げるよ~』って。そしたら飛びついてくれたから部下にしちゃった。」


いや、しちゃった、じゃねぇだろ!!どう考えてもおかしいだろ!!もともと敵国の一師団率いてた人間だぞ!?そんな簡単に部下にしていいんかよ!?


「問題ないよ。だって私、王太子だもの。この国で二番目に偉いからね!」


いやいや、そう簡単に信用していいのか?スパイとか疑わなくていいのか?……って、あれ?俺、口に出したっけ?


「昔からティボルトは顔に出るから分かりやすいね~。あと、安心して、ロミオに琥珀の心を読んでもらったし、何ならオセロに5歳から現在の19歳までの琥珀の人生120倍速でダイジェスト上映されたから、やましいことなんてこれっぽちもないよ!!ちなみに琥珀はどうて…」


「子供の前で何言ってんじゃボケぇ!!」


思わず、手が出た。王太子殴ると不敬罪とかいろいろあるが、そんなん気にしてられるか!!思わず叩いた王太子殿下の頭からパンッっとめちゃくちゃいい音が鳴った。


「容赦ないな~。安心してよ、ティボルトみたいに女に騙されて、金巻きあげられるようなことはなかったんだから。」


「いや、俺の過去をさりげなくバラさんでくださいな!あと、琥珀殿の私生活もバラさんでくださいな!!」


「あ~そうだよな、琥珀兄ちゃん童貞だよな。……琥珀兄ちゃん忙しくて、女の人と付き合うことできなかったもんな……。」


「ちょ、少年!?君の歳でそんなこと言わないで!?可哀想でしょ、お兄ちゃんが!?」


「まあ、確かに未使用ですが、そろそろ使ってやらないとですかね?」


「いや、お前まで乗ってくるな琥珀殿!!突っ込み追い付かねぇよ、お腹いっぱいだよ!!」


このあとこのボケボケ集団と共に王都に来るように指示が下りるまで、部下たちは笑いたいが笑ったら終わると思い、必死で笑いを堪えていたらしい。


絶対権力の前で笑ってはいけないとは何たる苦痛だったろう、と部下たちにはひっそりとビーフジャーキーを置いて行った。ちなみに、この砦では全面禁酒である。


この時、不穏な空気はもう、砦を超えて王都に向かっていたのだと気づきもしなかった。




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[気になる点] ツッコミがいないボケ集団で唯一のツッコミをやらざるを得ない姿に涙が禁じ得ない(笑)! 鍛えろ腹筋!!
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