規格外なのは承知です
Act.21
Side ロミオ
気にしなくても構わない。
その事実が、俺にとっては奇跡に近いのだと気づいた。全力で魔法打っても巻き添えを食らわない。助けるために放った魔法が黒曜を屠ることもない。
そうやって、加減をすることなく戦える奇跡が不思議と心地よい。
ガラガラと音を立てながら崩れ落ちていく城壁。俺の国とは違い、石を積み上げられた城壁は跡形もない瓦礫へと変化していった。
「これだけ派手にやれば流石に心……ぽきっと折れたよね?」
そう言いながら両手で物理的にレンガを折った黒曜。こてっと首を傾げたが、その様子に敵兵たちは足をもつれさせながら逃げていく。可愛い顔なのに、ドラゴンにでも遭遇したかと思うぐらいの勢いで逃げていった。
うん、折れた。アレは折れた。心が。
「ああ、折れただろうな……今回の作戦では『死者を極力出さないようにする』って前提があるが、それにしたって随分とあっけなく逃げていく兵士だな。」
そう言いつつ砦だったはずの場所から逃げていく兵士たちを眺めた。誰一人として俺たちと戦おうとしなかった。恐怖があるなら遠くから弓で射ればいい。だがそれすらもしない。
まあ、弓が射られたところで、叩き落とすんだが……。
「……守っている人間がほとんど、貴族の縁者だからね。」
そう言いながら彼女はスタスタと瓦礫の上を歩いた。急に足を止めた場所で、瓦礫に埋もれた旗を手に取り、そして寂しそうに見つめた。
「ここは都を守るための最後の砦……元々は私たちの養父さま……白金将軍が守っていた場所なの。」
白金将軍、そう聞いて思わず息を呑んだ。ここ数年は病魔と闘っていると聞くが、その前までは百戦百勝と謡われる戯曲もあるほどの猛将だ。本人は先の帝に見いだされた武将で、騎馬部族長であった。彼はその部族長として幾千もの戦で功績をあげて、今ではその騎馬部族は紹稀国の民として認められたと聞いている。
「養父さまは……五歳で父を亡くして、部族の人間に育てられたんだって、それが血は繋がらないけど家族だって……私たちも、家族だって。」
そう言いながら大事そうにボロボロで粉塵にまみれた旗を抱いた。
「だから、『毒』を理由にここを奪った帝を許せない。その『毒』を『解毒』できる能力を持つ翡翠を回復させないことも許せない。……でも、何もできない自分が、一番許せない。」
そう言いながら彼女は初めてしっかりと視線を合わせた。無気力な目ではなく、意志の通った強い目。
「『サクッと』都破壊して、『サクッと』その家族たちを助ければいい。それから『サクッと』腐り切ったところを切って、『サクッと』新しくすればいい。お前と金剛なら出来るんじゃねぇか?」
俺の言葉に彼女は驚いて目を丸くしてから、小さく笑った。
「その言い方、王子様のお兄さまたちにそっくりだよ。」
柔らかに、でも楽しそうに笑う彼女に初めて彼女を見た日を思い出した。戦場で、仲間の無事を喜び、笑った彼女。奇しくもそれは俺が初陣を務めた日の事だった。
「その呼び方やめろ。ロミオでいい。」
思い出してしまったむずがゆい記憶を払拭するように彼女よりも前に出て、都の帝がいるという宮殿を眺めた。あそこまで行って、レイアの兄貴の転移用の魔法陣を描かないとならない。ジーっとそこを見つめながら急に思いついた。
別に行く必要ないよな?
思い立ったと同時に煉瓦の一つに魔法陣を描いた。別に大きさは問わないはずだし、それに魔力を込めてから力いっぱい投げつけた。その煉瓦が肉眼で見えなくなってきた瞬間、ドゴーン!!とものすごい音がして、宮殿の屋根が崩れ落ちた。
「え?」
彼女が困惑した声を後ろで上げた。そりゃそうだよな。ここから宮殿はこの砦が小高い丘にあることを加味しても、軽く㎞は離れているだろう。全力で投げればぶつかるんだな~と少し驚いていたが、彼女はそれ以上に驚いていた。
「……届くんだ。」
そう言って彼女も同じことをしようとした……が、流石に止めた。万が一、届かなくて市街地に落ちたら大惨事になりかねないし、俺は前に似た距離を飛ばしたことがあったのでやってみたのだ。
「まあ、あとは兄貴たちがどうにかするだろう。ここまで頑張ったし、休んでも文句言われねえって。」
そう言って笑えば、彼女も笑った。楽しそうな、その表情は嘗てと変わりなく、めちゃくちゃ可愛過ぎるだろ!!……と心で叫んだ。




