そこにあったのはエビフライだった
Act.12
Side ロミオ
ずきずきと痛む後頭部。その痛みに招かれるように意識が浮上していった。まるで水中で人の話に聞き耳を立てるようなふわふわとした感覚。
「そう言うわけで、分かったかい、琥珀。確かに黒曜のファーストキスだったかもしれないけど、人的措置で、要するに人工呼吸のようなモノだったわけだよ。」
「すみません。理解はしていますが、感情が許さないというか……。」
「まあ気持ちは分かるけど落ち着きなさい。こんなのをカウントしたらロミオのファーストキスは私になってしまうしね。」
この声はレイアの兄貴か……。ずいぶんと懐かしい話をしているな、と思った。それこそ俺が初めて『魔力暴走』を起こした時の話で、まだ確か三歳か四歳だった頃だったはずだ。
「ああ、懐かしいですね。その後ロミオが魔力暴走を起こして、兄上が魔力を吸ってくださって、あの後同じ対処法を覚えましたよ。」
ああ、懐かしい。おぞましいような、懐かしいような。そんな気分にさせてくれる思い出だ。しかし、確かに人命救助のための口づけをファーストキスに数えられたら俺は何回他の人間に……数えられない気がしてきた。
「まあ、私が断トツに回数は多いだろうね。すでに三桁超えたし。」
「兄上、その事実はロミオには言わない方がいいですよ。弟との口づけ数える兄がどこに……ここに居ますね。」
「だって、オセロ、君だって覚えているだろう!まだあどけない顔をしていたロミオが私に向かって『キスで助けてくれるなんてお兄様は本物の王子様ですね!』って言っていたの!魔女の物語を読み聞かせた後にアレは不味いって!男の子だってわかっていてもコロッといっちゃうような人間いるって!」
やめろ、黒歴史だ。確かに魔女が王子にキスされて目覚める話をソレに重ねたが、まだ3,4歳のガキの頃だ。意味をよく理解してなかったんだ。勘弁してくれ。
「ああ、あれを見てから私も男性にも気を付けないと、と思いましたね。まあ、おかげで妹たちが生まれた後にはその失敗が妹たちの貞操を守るのには活用出来ましたが。」
オセロの兄貴までそれを言い出すのか!!というか、兄貴たちやたらに妹たちに手を出す害獣駆除が上手いと思っていたが、まさか、俺の所為か?
「分かります。俺も妹を他の猛獣どもに手を出させないように必死で……。」
「分かるよ、琥珀。妹にしても弟にしても兄弟は可愛いものなのだよ。下手に手を出そうものなら地獄に落としてやろうかとは思うね。あ、もちろんオセロも含んでいるからね?」
「結構です、兄上。流石に私まで含まれると困ります。」
「んふふふふ」
いや、兄弟談義って言うか、ブラコン、シスコン自慢をすればするほど笑い声が大きくなってねぇか、ブルータス。笑いすぎてむせ返りやがった。アイツの笑いの沸点は低すぎて時々対応に困る。多分兄貴たちも、無視する方向にしたのだろう。
「もう、いっそ、レイア王太子殿下の、キスで目覚めさせたら、いかがですかね?あははは!!」
「必要ないと思うよ。だって目、覚めているでしょう、ロミオ?」
狸寝入りバレていたか、と諦めて瞼を開けた。だが、何故か、同じベッドで向かい合わされて眠っている黒曜が真っ先に目に入った。
「は?」
俺の声は驚くほどに間抜けな声であった。
「おはようロミオ。そろそろ黒曜ちゃん離してあげてくれるかな?仕方ないから同じベッドに寝かせちゃったよ。」
ぎぎぎ、っとまるで人形にでもなった気分で首を声のする方に向ければ、今にも殴りかかりそうな琥珀を羽交い締めにしながらも爆笑するブルータス。そして琥珀と俺と黒曜が寝かされるベッドの前で壁になっているレイアとオセロの兄貴。
「なにごと?」
俺の言葉は至極正しいと思う。この状況を一瞬で理解できる人間がいるなら会って見たい。是非、部下にお誘いする。
「魔力暴走を起こした黒曜ちゃんの為に頑張ったロミオに、何を勘違いしたのか後頭部殴って気絶させた琥珀の怒りが収まらなくて、ブルータスがロミオ守るために羽交い締めにしていて、私とオセロが説得をしていたところだよ。ロミオが黒曜ちゃんを離さないから面白……離すのが可哀想だから一緒に寝かせて、今ロミオが起きたところだよ。」
面白いって言いかけたなレイアの兄貴。状況は把握した。だが、俺は何度琥珀に殴られるんだ?スペアのスペアとはいえ、これでも王子だぞ?
「色々突っ込みたいが、それは後にする。まず、母上と妹たちは無事か?」
そう言いながら名残惜しい気がしつつも、起き上がり、そして話がしやすい位置まで動いた。
「もちろん無事だ、ロミオ。黒曜さんが母上を守ってくれたし、その後の防御壁の展開も素早く、怪我人は出たが、かすり傷程度だ。宰相閣下がギックリ腰起こしたのが一番重症だな。」
オセロの兄貴の言葉に思わず笑いそうになった。宰相閣下にはあとで湿布か塗り薬でも渡しておこう。ちなみに何故か、ギックリ腰には治癒魔法が効かない。
「宰相閣下は最近多いな、ギックリ腰。40超えると多くなるのか?まあいいや。で、柘榴はどうした。」
「え、聞きたいですか?」
そう答えたのはブルータスだった。
いや、見るべきじゃなかった。
なにがどうなったらそうなった?
「念のために確認する。その……両足で乗っかっているのは……。」
「ああ『業火の柘榴』ですよ~。さっきまでは活きが良かったのですが、三回ほど折って治したら元気がなくなってしまいました。」
にっこり、ととてもいい笑顔で返事をしたブルータス。そんなブルータスの足元に縄でぐるぐる巻きにされた柘榴。頭の赤い色と相まって、完全なエビフライである。ひとつ聞きたいがナニを折って治したんだ?今、柘榴が抑えている所じゃないよな?腕とか、脚ぐらいにしてくれよ?
「いやですね、ロミオ殿下。私だって流石に股間は折りませんよ。そんな鬼畜な所業は出来ませんって、あははは。」
「やめろ、考えただけで寒気がする。」
「酷いですね、ロミオ殿下。私が頑張って、綺麗に縄を巻いたというのに、お褒めの言葉はなしですか?」
そう言われてみれば柘榴を縛る縄が一目一目綺麗に並んでいる。
「いや、何やってんだよ、綺麗なミイラ作ってどうするんだ。」
「いやあ、琥珀殿を止めている間に暇でしたので伸びていた『業火の柘榴』の縄を魔力操作だけで綺麗に巻いてみました!上手に巻けました!」
俺の頭が物凄く痛くなったとだけは言っておく。しかし、このブルータスの行動が怖かったのか、琥珀が落ち着いたのは良かった。ついでに柘榴は悪魔を見るような目でブルータスを見つめているんだが本当に折ったのはどこ?と俺は寝起き早々に色々と考え込むのだった。




