招かれざる客
Act.10
Side 黒曜
なんだかよく分からないが、私の所為で怒られているというのだけは分かった。
クッキーを食べかけのまま固まる私を余所に、先ほどまで私を着飾ってくれていた王女様たちと来た女性。話の流れで彼女が第三王子の母親……つまり王妃様だと知った。
そして、現状、叱られる第三王子と王女様たちを見ながら、口に運ぼうとしていたクッキーを降ろすに降ろせなくなった。
「ロミオ、貴方が気にすべきことでしたよ?せめてこの場でスープを飲んでいたのならば
私はここまで言いませんわ。……ですが、まさか消化の悪い焼き菓子を食べさせているなんて思いませんでしたわ?目が覚めたばかりの黒曜さんの体調をまた悪くさせる気ですか?」
「あの、王妃様、申し訳ございませんが、ロミオ殿下は人の看病に慣れておりませんので、そこは考慮していただけたらと……。」
「ええ、ブルータス。知っているわよ。何せ貴方が熱を出した時にステーキを持ってくるような子ですからね……教育を間違えたかしら。」
ため息を吐きながらも視線をこちらに向けて来た女性。どことなく、第三王子とは似ているように見えた。その笑顔がどこか懐かしく感じた。
瞬間、何かが反射した。
まずい。
そう思うよりも早く、身体が動いてしまった。走った先は王妃様がいる場所で、王妃様を押し倒すようにその場に突っ込んだ。ほぼ同時にその場所にはナイフが突き刺さった。私の故郷でよく使われる呪術が練り込まれたナイフだ。これはかすり傷でも死に至る。
『あ、気付いちゃったか~。残念。』
聞こえた声の方向。そことは反対側の王女様たちが立ち尽くしている場所。今度はそこだ、と思い、魔法陣を素早く描き、防壁を展開させた。
瞬間、爆風が起きた。お茶会の道具も全てが吹き飛び、クッキーも粉々になった。
「きゃあ!」
王女様たちの悲鳴が上がるが、どうやら腰を抜かしただけで、傷はなさそうだった。
「すみません。しばらく、低い体勢で居てください。」
そう言って、周りを見回した。慣れているのか、その場にいる皆が低い体勢で状況確認をしている。低い体勢で居てくれるならば問題ない。
「わあお、流石『忌み子』だね、黒曜。防壁を六重に展開なんて馬鹿じゃないの?」
聞き覚えのある声を確認しながらゆっくりと立ち上がった。ハッとしたように王妃様が手首を掴んだけれども、小さく笑ってみれば驚き、そしてゆっくりと手の力を抜いてくれた。
視線を上にあげる。私の故郷の魔法陣はこちらの国とは違って自国の漢字を使って展開される。その声の主が防壁を私のモノだと判断したのはその所為だろう。
「柘榴。」
茶色い髪に、真っ赤な目。彼は幼い頃から同じ場所にいた。そして、私と同じように『戦い生き残る術』を嫌と言うほど叩き込まれた存在。
「見つけるの大変だったよ、黒曜。まさか琥珀が国境越えると思わなかったな……おかげで孤児院燃えちゃったよ。」
とても楽しそうにそう言う柘榴。まさかと思った。彼の得意魔法は炎で、彼が本気を出したならば、一面、焼け野原になる。
「まさか……。」
「あははは!安心して、まだ生きているよ。今は、ね?」
その瞬間、彼の背後に映し出された映像。魔法で再現されるその光景は言葉にし難かった。焼けていくのは木造の建物。私の育った場所だ。
「大丈夫、ほら、子供たちは無事だよ?」
パチン、と指が鳴らされる。その瞬間、映像が変わった。見覚えのある場所だった。皇帝が私と子供たちの命の選択をさせた場所。
「そんな顔するなよ。前から言ってるじゃん。
『自分を優先して何が悪い?』。」
何も悪びれずにそう言う柘榴。彼は自分の稼いだお金を孤児院に入れるのを反対していた。だけど琥珀を無くしたことで自分の思うままにしたということだろう。
「お前と、琥珀、どっちも『偽善者』過ぎて吐き気がするね。」
その瞬間、自分の中の何かが吹き飛んだ気がした。自分をどういわれるのも気にならない。でも琥珀は違う。そう思った瞬間に魔力が急激に上がっていく。
ただ、何かがおかしい。
「黒曜!ダメだ、抑えろ!」
響いた声。その声の主に振り返れば地面が歪んでいく。その歪む世界で手を伸ばしてくれたのは私と同じ色を持つ王子だった。




