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エデンの園の作り方  作者: ミルクリガー
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プレウラ王国Ⅴ


ショタ王子が地面に這っている。




その元凶は目の前の人物。


かなり大柄な漢だ。2メートルはある。手には大きな柄の無い刀を持っている。体のあちこちに甲殻のようなものがあり、人のそれとは違う。異種だろう。


全身は紫がかっており、呪い憑きなのは確実。




名前 【 ヨーグ・ロンド 】

性別 【 雄 】

種族:種族値 【 蟷螂人族 】:【 31 】

職業 【 盗賊 】

LV 【 40 】

HP    0/4200

MP   0/2000

可動性 【 6000 】

筋力  【 5000 】

耐久性 【 500 】

知性  【 900 】

運   【 55 】

技量  【 6000 】

啓蒙  【 0 】



【 呪印 】


≪呪祖の媒介者(仮)≫

攻撃に≪呪病の媒介者≫を付与する。


≪狂乱≫

自我の放棄と引き換えにステータスの上昇パッシブ




呪病の媒介者の変異後か。

でも上位の呪印に変化している。こいつが今回の騒動の元凶か。

ステータスが俺のそれと似ている。HPが無いことも鑑みて首を刈り取らないと死なないのだろう。




瞬間、相手が動く。

今度は動きが見えた。刀を剣で受け止める。

力は互角か、こっちが上。こいつは俺が引き受けるしかない。


「スズリさん!殿下をお願いします!ロッドさんっ皆さんを退避させてください!私がやります!」


ショタ王子は気を失っている。回復は受けているようだが追いついていない。

相手が動く。

上段の斬り下ろし、横なぎ。

自我が無い割には芸達者すぎないか。

ひたすら弾く。

弾ききれなくて傷をもらってしまう。常に回復魔法を掛けておこう。

脇腹、肩、足、と傷が増えてはふさがる。

涙が出てくる。


「あ゛あ゛あっ!!」



と横なぎの攻撃を仕掛けると相手は一歩後ずさる。

何かしら相手の隙を誘わなければ攻撃は通らないだろう。


手持ちのスキルで使えそうなのは炎輝魔法だろうか。

輝属性の魔法ならできるだろう。フラッシュバンの応用だ。


相手にとって不足無し。現代日本の科学をお見舞いしてやろう。

次はこちらから動いてやる。

斬りかかり、刃に魔力を込め、剣が砕けないように力を込める。




そこからはひたすら互いの攻撃を弾く戦いとなった。

弾いて、斬って、弾いて、斬る。

傷だらけになっても一瞬で塞がり、また傷つく身体は、俺の心を表しているようだった。




と、相手に一瞬のスキが生じた。

好機。左手に魔力を溜め、炎輝魔法をイメージ。

唱える。



「ポリゴンフラッシュ!!!」



現代科学の応用。相手は強烈な光の明滅で意識を失う。

自我が無くても体は止まる。



すると、相手は体勢を崩し、動きは一瞬止まった。

そこで仕掛ける。



右足で相手の膝を思い切り踏みつけ破壊。倒れたところで上半身に組み付く。

肩口に剣を無理やりねじ込み、俺の体重を使って頭をねじ切る。




ブチブチブチッと音がして首が落ちる。


頭を失った首は血を吹き出している。

初めて人を殺した。


「ハァ、ハァ、…」



体力はギリギリ。精神もMPもギリギリだ。かなり危ない戦いだった。

剣術スキルを取っていなかったら完全に負けていた。

すぐさまショタ王子を見る。

血は止まらず、体を呪いが浸食している。

駆ける。


ショタ王子に近づき声を掛けようと、した。



「大丈夫です、がっっ!」




首の無い盗賊が自身の首を片手で持ち、もう一方の手に持った刀で俺の首を刺す。

ロッドが叫ぶ。


「昆虫種の神経節だ!!」



神経節って、あれか。死んだ後も動くっていう各部位の脳的な。

殺意高すぎだ。そのやる気をもっと他に向けろよ。


上半身を逸らして無理やり刀を引き抜く。

振り返って山賊の腕を落とす。首は転がっていき、そのまま体は数歩歩いて絶命した。



魔力が足りない。


≪邪神の寵愛≫効果を発動。

精神を削って死亡を回避する。

その間で回復した魔力でショタ王子を助けよう。


守るって言ったからな。

ショタ王子の手を取る。



「がふっっ。だ、大丈夫です…か。」

「お、、、、、、れは、、、、良いから。」



強がる。ショタ王子死にかけじゃん。

頭がぐらぐらする。吐き気もやばい。自分の存在がどこまであるのか分からない。



「…守ると…言いました。」



最大級の強がりだ。無理やり治し、そう告げて俺は意識を失った。

あ、相手はいくら可愛くても男だ。強がりすぎたかもしれない。

ドジったな…。





             *




長い夢を見ていた気がする。

異種族を求めて異世界に行った夢だ。

起きて周りを見回しても何もない。色もない。

これが死なのだと、そう思った。



でも、声が聞こえた。

『まだお前の番じゃない。』


男の声だ。ひどく昔に聞いたことがあるような、そんな親しみを覚える声だった。

その意味を理解する前に、意識が覚醒した。





俺はベッドで寝ていた。



「知ってる天井だ。」



お決まりのセリフを吐く。見える風景は宿、緑人の風の自室だ。

日差しが気持ちいい。



と体を起こすと、蜘蛛さんがすごい勢いで顔に張り付いてきた。


「わぶっ」


変な声が出た。絵面がエイリアンだから遠慮いただこう。


「アトラさん、顔に張り付くのは止めませんか?前も言ったでしょうに…。」


と張り付く蜘蛛さんを顔から取り、手の上に乗せる。


「置いて行ってごめんなさい。心配かけました。」


蜘蛛さんの頭を撫でる。手に張り付いて離れてくれない。

少し撫でていると入口から気配がした。


「お邪魔します。」


サラさんだ。


「おはようございます。」


と告げると彼女は涙目になりながら飛んできた。


「やっと起きましたね!!待ってたんですから!!」


と、その声に気づいてダースさんも入ってきた。


「よう、兄さん。やっとお目覚めかい?」


そんなに寝てたの?


「どれくらい寝ていたのでしょうか?」

「5日です!!ずっと虚ろに呟いてたんですよ!もう戻ってこないと思ったんですから!」


とサラさん。

俺、頭おかしくなってたのか?


「それは…、追加の宿泊料を払わないとですね。」


とジョーク。

それに対してサラさんが声を上げる。


「そんなものはいいんです!ずっといてもいいんですから!!」

「いや、それは流石によくねぇだろ…」

「ダースさんは黙ってて!」


やーい、ダースさん負けてやんの。部屋の隅で小さくなっている。

あ、そうだ。


「あの、サラさん。手を良いですか?」


童貞はサラさんの手を握る。柔らかい。


「ヒール。」


サラさんの首筋に見えた傷が治っていく。



「えっ、これ、治らなかったのに…。」

「あの傷はサラさんには似合いませんからね。」


と格好つける。自己嫌悪だ。


「うっえぐっ…。」


とサラさんは泣き出してしまった。

やめてよ、女の子泣かせたみたいじゃん。

いや、これはこれで…。



とりあえずは休もう。

それからは半日ほど寝て、体調は万全になった。

サラさんが何かと看病しようと来たが、俺はもう28歳の大人だ。恥ずかしいのでご容赦頂いた。



次の日、体調が万全になった俺は冒険者ギルドへと向かった。

サラさんが「まだダメです!」と言っていたが、隠れて出てきた。

中に入るとたくさんの人がおり、めちゃくちゃ見られた。

見知った人物を発見。ロッドだ。こちらに気づくなり声を掛けてきた。




「お!!サンジョーさん!無事だったか!」

「はい、何とか。戻ってくるのに随分とかかってしまいました。」

「いやいや!あんた不死身か?半分首が取れてたんだぜ!?」

「そ、そうだったのですか…。殿下は助かりましたか?」

「ああ。あんたが治して元気だ。ずっとぼーっとしてたけどな。」



がははとロッドが笑うと、周りの人も話を聞きに来た。

あの後、事態の収拾のためギルドの職員が大勢来たという。

ロッド達はそのまま国に戻り、事後の処理はギルドが受け持った。ワイバーンの処理やショタ王子の護衛なども受け持ってくれたという。



「何とかなりましたね。私も瀕死でしたのでご迷惑をおかけしたと思います。」

「いいってことよ!今じゃサンジョーさんはこのギルドで話題になってるぜ!不死身の人類族ってな!」

「それは…、少し恥ずかしい称号ですね。」


はは…、と苦笑い。変に目立ちたくはない。



「安心するといいさ、サンジョーさんについては俺がみんなに話してる。俺と同じタイプの人類族ってな。」

「はは、安心できそうです。」


あ、と聞き忘れていた。


「ロッドさんは報酬など頂けましたか?」

「ああ!がっぽり頂いたぜ!俺は何もしてないが、技者を討伐したってな!あ、技者はサンジョーさんが倒したカタナを持ったやつだ。」


技者か…確かに強かった。


「良かったです。わたしは何かいただけるんでしょうか?」

「サンジョーさんにはそのうち行くだろうぜ。さすがに何もないってことは無いだろ。」

「でしょうか。良かったです。」



その後はロッドに昼飯を奢ってもらい、商業ギルドに向けて出発した。



中に入り、受付の人にバードックさんを呼んでもらう。

アポなしごめんなさい。


と、出てきた。




「おお!ご無事でしたか。サンジョーさん!」

「ええ。さすがに知ってらっしゃいますか。」

「もちろん!技者と竜種の対処などよく聞く話ではありません!報酬も弾むことでしょう。」

「特に案内などは来ていないのですが、もらえるでしょうか。」

「はい。聞くところでは、貴族による恩赦の授与が行われる可能性があるとか…。真偽はまだわかりませんがね。」

「変に目立ちたくはないのですがね…。」

「はは、無理でしょう!さて、今日はどんなご用件で?」



あ、そうだ。今日ここに来た目的は二つ。回復の挨拶と、新居の相談だ。

あのまま緑人の風でお世話になるわけにはいかない。

金銭的には余裕があるが、余裕のあるうちに大きなものは買っておきたい。



「はい。新居の相談に参りました。」

「ほう、新居ですか。」

「はい。現在は緑人の風にて寝泊まりしているのですが、落ち着ける場所を早めに確保しておきたいのです。今なら金銭的余裕もあるのでね。」

「ふむ…そうですな…。」


そう言うと扉を開けて外にいる人物に少し話し、戻ってきた。


「専門のものを呼びました。少々お待ちください。」

「いえ。ありがとうございます。」


それから不動産の方が来るまで、今回の戦闘で起きたことについて話した。

とても楽しそうに聞いてくれたが、楽しいことではないんだよ?瀕死でした。

ドアがノックされ、入ってくる。


「失礼します。」


不動産屋さんだ。

簡単に立地について話す。


少々治安が良く、閑静な住宅街がいい。商業区ではなくて庶民街の方が予算的にもいいだろう。家は改築されます?

みたいな感じだった。

それから建物を見に行き、3か所目で決定した。


お金は少し高かったのでローンを組んだ。溜まったら一括にしてもいいともことだ。

なんでもありだな。




さて、新居だ。

庶民街から少々商業区に近く、大通りから外れた閑静な住宅街。

家はと言えば2階建ての一軒家。入り口からリビングがあり、二階への階段がある。


部屋は多く、一人暮らしには大きすぎる。

この家を一人で?と不動産の方が疑問を持っていたが、バードックさんが裏で何か動かしたのだろう、かなり抑えた額で契約となった。


増築の際は商業ギルドと中央区役所に行かないといけないらしい。

独身貴族生活の始まりだ。


それから2日後、手続きが終わり転居となった。神速の手続きにびっくりだ。

そこでダースさんとサラさんに挨拶をする。



「実は新居を用意しまして。今日で失礼しようと思います。」

「おう!たまには食べに来てくれよ!」


とダースさん。


「え゛…は、はい!」


とサラさん。


「数日は掃除と買い出しで忙しいと思いますので、こちらに食べにきますね。では。」


と童貞は緑人の風を後にした。





その後、残された二人。




「おいサラ、付いて行ってもいいんだぜ?」

「え、でもダースさんが…。」

「ついに隠さなくなったな…。」

「からかわないで下さいっ。」

「ああ…。でもよ、俺を理由に残るのはずるくないか?」

「……。」

「まあ、自分で決めな。」

「…はい。」


三条のいなくなった宿は、前に比べてひと際静かだと、二人は感じた。



緑人の風を後にした童貞は掃除道具の買い出しへと向かった。

結局サラさんとは何もなかった。頑張ってアッピルしたんだけどな。

現実は非常である。それを蜘蛛さんは慰めてくれる。


「アトラさん、顔に張り付くのはやめてください…。」


というと肩に移る。

悲しくなんてないやい。



家に帰ってまずは掃除だ。水回りから始めて2階。その後1階のほこりと蜘蛛の巣を取り、普通に過ごせるものにはなった。もともとそこまで汚れてはいなかった。掃除が大変というよりは新たな家具と生活用品の買い出しが大変だ。


一通りの掃除が終わると時刻は夕方。疲れ果ててそのまま眠ってしまった。


次の日、生活用品を買い込み、家で荷下ろしをした。


回復魔法があるとはいっても精神的な負荷は軽減されない。一息つく。

と、ここで思い出したのが俺の喫煙ライフだ。


あれから目まぐるしく日常が動いていて忘れていた。慌ててたばことライターを荷物の中から探す。底の方に行ってしまっていた。

たばこは少々湿気ており、ライターのオイルは切れていた。こちらで代用できるものがあればまた使いたい。


と、口にくわえて魔法で火をつける。

能力者のような動作を自然とできたことに少しの感動を覚える。


吸うことすら忘れていたのだ。中毒は魔法で治療できた。

この力があれば全国の禁煙外来は店じまいだ。


残りのたばこは15本。どこかで買えるのなら買ってもいい。

この世界で彼女と言えるようなものができれば、それをきっかけにやめてもいいかもしれない。どのみち問題は先送りだ。




と、家の前でたばこをふかしているといつぞやの職質された兵士が敷地に入ってきた。



「お、お前がサンジョーか。」

「あ、どうも、こんにちは。先日は助かりました。私が三条です。」

「国王陛下がお呼びだ。至急王城へ向かえ。」

「あ、はい。たばこは吸われますか?」



呼び出しを食らった。恩赦かなっ。

わくわくの童貞だった。



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