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私の恋した相手はヒトデでした。

作者: 花水木

Twitterで「#フォロワーさんが5秒で考えたタイトルからあらすじを作る」というタグで募集したとき、Kei.ThaWestさんから寄せられたのが、この「私の恋した相手はヒトデでした。」というでした。

浦島太郎にヒトデを混ぜた雑なあらすじを送りつけたのですが、「これくらいならさっと書いて短編で投稿できるのでは」と思って書いてみた感じのやつです。

割とノリで書いたやつなので、まあ多少のツッコミどころは大目に見て下さいませ。

 むかしむかし、あるところにTaroたろう Tha Urashimaうらしまという漁師がいました。ある日Taroは漁を終え、砂浜を歩いていました。その日はあまり魚がとれなかったので、しょんぼりと下を向いて歩いてたTaroでしたが、わいわいと騒ぐ声が聞こえて、そちらに顔を向けました。すると、何人かの子どもたちが集まって何かをしているようでした。


「坊やたち、もうそろそろお天道様が沈んでしまうよ、早くお家にお帰り」


 はるか昔のこと、夜空に輝くお星様なんてまだない時代です。月のない夜は本当に真っ暗で、危ないのです。


「なんですか、おじさん。僕たちは遊んでいるのです。邪魔をしないで下さい」


 子どもたちの中で一番利発そうな子が、口答えをします。


「私はまだおじさんではない。見なさい、まだ髪がふさふさとしているだろう」


「でも生え際は後退してるじゃん!」


「そうだそうだ、はーげはーげ」


「はげじじいじゃん、はげじじい!」


 子どもたちはケタケタと笑いながら、Taroのことを馬鹿にしてきます。しかしTaroは大人です。怒鳴ってしまいたいのをぐっとこらえて、子どもたちに言い聞かせます。


「私ははげじじいではないよ。ふさふさお兄さんと呼びなさい」


 そのときです。子どもたちの(あし)の間から、小さな甲羅(こうら)がちらりと見えました。子どもたちは、小さな亀を囲むように集まっていたのです。


「おい、君たち。その亀はどうしたんだ。まさか、幼い亀1匹を寄ってたかっていじめていたんじゃないだろうな」


「だったらどうしたっていうんですか?」


 子どもたちの生意気な態度に、Taroは今度こそ我慢ができませんでした。左手をぐっと握って上に向けると、横向きにした右手の先をのっけて、こう叫びました。


「スト○ウム光線!」


 子どもたちは、ぽかーんと口を開けて、固まってしまいました。しばらくして、ふと我に返った子どもたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていきます。


「ままぁ、変なおじさんがいるぅー!」


「ぱぱぁ、あのおじさん、怖いよー!」


 Taroは人間として大切な何かを無くしてしまった気がしましたが、ともあれ、子亀を助けることはできたので、気にしないことにしました。


「さあ、お家へお帰り。乱暴な子たちに、もう捕まるんじゃないよ」


 そう言ってTaroは、亀を海へ帰してやるのでした。





 次の日のことです。

 この日も漁の調子はさんざんだったので、Taroはしょんぼりと浜辺を歩いていました。


「もし、そこの方」


 話しかけられて顔を上げると、そこには息を呑むほど美しい1人の女性が立っておりました。羽衣(はごろも)のような水色の(よそお)いもいかにも高級そうで、まるで転生者の特典として連れてこられた駄女神様のようでした。とてもこんな(ひな)びた場所にいる女性とは思えません。


「貴方は、きのう私たちの王女を救って下さったお方ではありませんか?」


「王女様、ですか? 私が助けたのは、小さな亀の子どもですが」


「その方は、私たちが仕えている王のご息女なのです。どうも、ありがとうございました」


 女性はそう言って、丁寧にお辞儀をします。Taroは女性の言うことがよく分かりませんでしたが、あやしい宗教団体(しゅうきょうだんたい)勧誘(かんゆう)かもしれないと思い、適当に話を合わせて帰ってしまうことにしました。


「そうだったのですね、そんな高貴なご身分の方とは存じ上げませんでしたので、何かご無礼があればおゆるし下さい」


「いえ、無礼などと、とんでもないことにございます。主君も大いに感謝しており、是非城までお招きしたいと申しておりました」


 そら来た。Taroは心の中でそう呟きました。彼女に付いていけば、勉強会(セミナー)に参加させられるにちがいありません。気づけばTaroも、亀を王様だと思い込んでいることでしょう。


「お招き頂き大変光栄ではございますが、家に年老いた母がおります。母を置いて1人で遠方の城に伺うことはできかねます」


「ご心配なさらないで下さい。城はここから小半時(30分)もかかりませんので」


 話がいよいよあやしくなってきました。ここから小半時でいける場所に、城なんてあるはずがありません。不思議に思っていると、海の方からざばーんという音がして、中から立派な亀が現れました。


「城へはあの亀の背中に乗って向かいます。さぁ、どうぞ」


 そう言って女性に手を握られた途端、Taroは全てがどうでも良くなってしまいました。無理もありません。生まれてこの方女の子と手を繋いだことがなかったTaroが、絶世の美女に手を握られて冷静でいられるはずがないのです。


 気づけばTaroは、美女と2人、大きな亀の甲羅にまたがっていて、亀の身体は海の中へと沈んでゆくところでした。


「えっ? ちょ、ま、待って、死ぬ、死ぬから!」


 叫び声を上げながら海に沈んだTaroは、水中なのに呼吸ができていることに気がつきます。困惑しているうちに、あっという間にお城に到着してしまいます。そこには、確かに立派なお城がそびえ立っていました。


「どうぞ、中へお入り下さい」


 女性はそう言って、Taroに中に入るよう促します。


「貴女は一緒に来ないのですか?」


「私が仰せつかったのは竜宮城までの案内にございます。ここから先は、城内の担当が案内致します」


 それを聞いて、Taroはとても残念に思いました。そして、気づいたときにはこんなことを口走っていたのです。


「私と結婚してくれませんか?」


 それを聞いた女性は、寂しそうに笑います。


「今はこんな姿をしておりますが、実は私はヒトデなのです。少し時間が経てば私は、ものも言わなければ動きもしない、ただのヒトデに戻ってしまいます」


 それを聞いても、Taroは諦めませんでした。


「それでも構いません。私は貴女に妻になってもらいたいのです」


 ヒトデの女性は少しの間キョトンとした顔になり、それからくすくすと笑い始めました。


「それでは、Taro様が竜宮城を出る際に、もう一度お気持ちをお聞かせ下さい。変わりの無いようでしたら、是非共に連れて行って頂きとうございます」


 そう言って彼女は、花のような笑顔を咲かせました。


「貴女の名前をお聞かせ頂いても構いませんか?」


「名前はございません。単にヒトデとお呼び下さいませ。さ、城内へどうぞ」


 ヒトデに背を押され、Taroは名残惜しそうな顔をしながらも、竜宮へ入ってゆきました。






「Taro様、ようこそ竜宮へ。先日は私を救って頂き、どうもありがとうございました」


 城に入ったTaroを出迎えたのは、昨日助けた亀でした。といっても、今は美しい乙女の姿をしています。


「申し遅れました。わたくし、乙姫と申します。さあこちらへどうぞ、おもてなしの用意は整っておりますよ」


 頬が落ちそうなほど美味しい料理に、呑んだことのないほど美味しい酒。隣座る乙姫はもちろん、食事を運んでくるのはみな目も眩むような美人ばかり。東の襖を開ければ満開の桜が花びらを散らし、西の襖からは燃えるような紅葉が楽しめます。そんな中でもTaroは、ヒトデの微笑みがどうしても忘れられません。


 昼となく夜となく続いた宴も三日目になった頃、Taroは乙姫に訊ねられます。


「Taro様。貴方はどうしてそのように寂しげな顔をしていらっしゃるのでしょう。お気に召さないことがございましたか」


「これだけの身に余る歓迎を受け、気に入らないなどということがあるはずもございません。ただ、家に残して来た母が気になるのです。いつまでもここにいたいのはやまやまですが、そろそろお暇しなければなりません」


「そうですか……お母様がいらっしゃるのなら、仕方ありませんね。ご心配をおかけするといけませんから、お帰りになった方がよろしいでしょう」


 それだけ言うと、乙姫は顔を伏せてしまいました。それから、再び顔を上げてこう言います。


「Taro様、私を共に連れて行っては頂けませんか。ご迷惑でなければ、私はTaro様と添い遂げとうございます」


 今度は、Taroが顔を伏せてしまう番でした。乙姫様の目に浮かぶ涙を、真っ直ぐ見ることができなかったのです。それでも、Taroははっきりとこう言うのでした。


「申し訳ございません、乙姫様。そういうわけには、参りません」


「……そうですか」


 乙姫様は今にも泣きそうな様子ですが、なんと声をかければ良いのか分かりません。


「Taro様を城外までご案内さしあげなさい」


 お付きの者にそれだけ言うと、乙姫様は走り去ってしまいました。Taroは案内されるままに、城を出ます。そこには、来たときと同じように、大きな亀とヒトデが待っておりました。


「Taro様、どうぞ」


 ヒトデの手をとって、亀に乗ったときでした。城内から、ぱたぱたと誰かが走ってくる音がしました。


「Taro様、どうぞこれをお持ち下さい」


 乙姫から手渡されたのは、漆塗りの玉手箱です。


「もう一度私と会って下さるお気持ちになったなら、それを持って海へお越し下さい。よろしいですか、決して開けてはなりませんよ」


「……この中には何が入っているのでしょうか?」


「それを考えるのもなりません。次にお会いしたときに再びお預かり致しますので、それまでは開けずにいて下さい」


 乙姫の言葉に首を傾げながら、Taroは「分かりました」と返事をします。


「それではTaro様、またいずれ」


 乙姫に見送られ、竜宮城から旅立ちます。しばらく亀に乗って進むと、元来たときと同じ砂浜にたどり着きます。3日しか立っていないはずなのに、なんだか砂浜に立つのが数百年ぶりのような気がしてくるから不思議です。


「それではTaro様、私はこれで」


「お待ちください」


 海へ帰ろうとするヒトデを、Taroは引き留めます。


「ヒトデさん、私の妻になってくれませんか」


 それを聞いて、ヒトデはたいそう驚いた顔をします。


「乙姫様ではなく、私なのですか?」


「はい、貴女が良いのです。貴女でなければ、嫌なのです」


 その言葉を聞いたヒトデは、驚きのあまりひっくり返ってしまいました。


「ヒトデさん、大丈夫ですか?」


 差し出されたTaroの手を取って立ち上がったヒトデは、今までで一番の笑顔でこう言いました。


「喜んで、お受け致します」


 Taroは、大喜びでヒトデを手を握り、そのまま家へ連れて行きます。お嫁さんの姿をお母さんに見せたかったのです。


 しかし、そこにはTaroの家はありませんでした。Taroの家だけではありません。お隣さんも、そのまたお隣さんも、見たこともない家に見たことのない人が住んでいるのです。3日の間に何があったというのでしょう。


 困ってしまったTaroは、村長さんの家に向かうことにしました。家は変わってしまっても、この辺りで一番大きな家なのですぐに分かります。


「鰻屋さん、鰻屋さん」


「ほいほい、どなたですかい?」


 中から出てきたのは、見たことのない男性。


「この家の禅無(ぜむ)くんと仲良くさせて頂いております、Taroと申します」


「禅無……そんな子、うちにはおりませんが?」


「でもここ、鰻屋さんのお家ですよね? 村長さんの」


「はい、村長は私ですが……禅無……あれ、少々お待ちください」


 村長さんは家の中へ引っ込むと、分厚い古書を持って帰ってきました。表紙には『鰻屋雑記』と書いてあります。


「これは、300年ほど前の祖先が著した本です。ほら、ここに」


 指差されたところには、確かに「鰻屋禅無」と書いてあります。


「300年前……?」


 さらに村長は、その本の中ほどにあるページを読み上げてくれました。


「Taroは漁から帰ってこなかった。今日は天候も良かったのに、どうしたのだろう」


「船は帰ってきているのに、Taroはどこにもいない。神隠しにでもあったのかもしれない」


「もう1週間たった。諦めた方が良いかも知れない」


 そこには、Taroの帰りを待ち続ける友人のようすが、事細かに記されていました。竜宮城で3日過ごしただけのはずなのに、こちらでは300年が経っていた。そうとしか、考えられませんでした。


「Taroさん、大丈夫ですか?」


「お前たち、俺を騙したなっ!」


 心配そうな顔を浮かべるヒトデに、怒鳴りつけます。


「そ……そんな……私はTaro様を騙すつもりなんて……」


「うるさい! お前の顔なんて、もう二度と見たくない!」


 そういってTaroは足早に立ち去っていきます。ヒトデは必死に追いかけますが、Taroには追いつけません。


 ヒトデを振り切ってしばらく歩いたTaroは、そこでふと我に返ります。


「愛する女性を疑うなんて、俺はなんてことを……」


 慌ててTaroは道を引き返します。「ごめん」と一言、声をかけるために、全力で走ります。そしてついに、Taroはヒトデを見つけました。


「ヒトデ……」


 そこにいたのはヒトデでした。美しい女性の姿ではなく、5本の腕を伸ばしたヒトデでした。日の光に潤いをうばわれ、カラカラに乾いたヒトデでした。


「あ、あそこになんか落ちてるぜー」


「うっわっ。気持ち悪ぅーい」


「――うるせえ、お前ら今すぐ失せろ」


 寄ってきた子どもたちを怒鳴りつけて追い払います。


「おいヒトデ、返事しろ。おい! ヒトデ!」


 呼びかけても呼びかけても、ヒトデは返事の一つもしません。腕一本も、動かしません。


「ままぁ、変なおじさんがいるぅー!」


「ぱぱぁ、あのおじさん、怖いよー!」


 そんな風に逃げていく子どもの声も聞こえません。その場に座り込んで泣いて、泣いて、泣いて、涙の枯れたTaroは、ヒトデを海に帰してやるために立ち上がりました。そのとき、玉手箱の存在に思い当たりました。


「そうだ。どうせ、彼女のいない世界なんて――」


 友人もいない。母親もいない。ようやく得た伴侶は、幸せにしてやることもできずに失った。この世界で、何を望むというのでしょう。 


 自分一人のわがままのために、彼女をこんなところまでつれてきてしまったTaroに、何を望む権利があるというのでしょう?


 そうして全ての望みを失ったTaroは、半ば衝動的に、玉手箱を開けました。すると中から黒い煙が出てきて、Taroを覆います。煙が晴れたころには、Taroの身体は鶴になっていました。


(そうか、俺は飛べるのか)


 Taroはヒトデと玉手箱を脚で掴んで、空へ飛び上がりました。するとすぐに、山の向こう側が見えました。Taroが一生で一度も超えることのなかった山の向こうを初めてみることができました。


 Taroはさらに上ります。今度は、遠くに細長い建物が見えました。家何軒分の高さなのでしょう。あれほど高い塔を建てるのは、どれほど大変だったことでしょう。


 Taroはまだ上ります。するとTaroは、すごいことに気がつきました。なんと、どこまでも続いていると思っていた地面には、終わりがあったのです。自分が住んでいたのは、青い海に囲まれた巨大な島だったのです。


 なおも上り続けると、Taroの頭は何かにぶつかってゴツンと音を立てました。天にたどり着いてしまったのです。そこから見える地面はとても小さくて、それなのに一人ひとりのことが不思議と良く見えました。


(なあ、ヒトデ)


 Taroは思いました。


(ここから、地上に住む人々の様子を眺めるのはどうだろう。禅無やみんなの子孫が頑張ってるのを、見守ってやるのはどうだろう)


 そう思ったとき、突然玉手箱から白い煙が出てきます。その煙がなくなったとき、Taroはヒトデの姿になって天に貼り付いていました。


(Taro様、Taro様)


 隣から、何やら声が聞こえてきます。涼しげで透き通った、聞き覚えのある声が聞こえてきます。


(ヒトデ! ヒトデじゃないか!)


(はい! 再びお話することができて、嬉しゅうございます)


 ヒトデとTaroはのそのそと、お互いの方へ身体を寄せました。ゆっくりとした動きですが、時間ならいくらでもあるのです。お互いの温もりが感じられるほど近寄った2人は、いつまでも身を寄せ合って、地上を見守り続けることにしました。


 それから何千年もたった今でも、Taroとヒトデはたくさんの子どもや孫に囲まれて、私たちを見守ってくれているそうですよ。

special thanks

 Kei.ThaWestさん

 鯰屋/zemさん

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々と世知辛さを感じつつも暖かなお話でした。 でもこの主人公、宗教を警戒しながらもコロッといってしまう辺りが危ういですね。ハニトラご用心……
[良い点] 最後はおとぎ話らしい、ほっこりな感じでよかったです。 [気になる点] 乙姫様がすごく嫉妬しませんかね?
[良い点] これぞ童話! 良いお話しでした……。 (*´д`*) [一言] 良い話を読むとカオスな話を書きたくなるのは何故だろう…………(笑)
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