二話:お母さん
そして分かった事が俺の母親の存在である。
この世界で一番初めに目にした女性が俺の母親だった。
名前はユーリア・ゼノスフィアって言うらしい。ちなみに俺の名前はアトス・ゼノスフィア。毎日耳元で呟くからすぐに覚えてしまった。
日本で言うところの苗字がゼノスフィアで、名前がアトスになるんだろう。
生前では既に父親と母親を亡くしている自分にとっては、新しい肉親が出来て嬉しい気持ちもある反面、生前の自分と同じ20代くらいの女性に世話をされるという複雑な気持ちもある。
ロングの金髪に顔は整っており、豊満な胸、そして笑顔になると太陽を思い起こさせる程の眩しい笑顔を見せる。
そんな中で一番困ったのは授乳の時だ。
服を捲って授乳させようとするのだが、身体は赤ん坊でも精神年齢は20代の俺がそんな事していいのか?と疑問になり、嫌がってみたら
「お母さんのおっぱい、嫌い?」
とか泣きそうになりながら言うから目を閉じてなるべく何も感じないようにしながら最速で終わらせた。
決して俺は見ていない。これだけは信じてほしい。
というかユーリアは俺に対して過保護が過ぎる。俺が柵に頭をぶつけて大泣きした事件では俺より泣いていたかもしれない。
大丈夫?大丈夫?ってずっと声掛け続けてくるし、夜中も俺に付きっきりになって……
「私、今日からアト君と一緒に過ごす!」
とか言って周りを困らせたりしてるし……
でも、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。心配してくれるのも俺を想っての事だろうし。
ユーリアの一日はゆっくりとしている。
朝起きて、俺の世話をしてから朝食を食べ、俺の部屋で編み物や刺繍、読書をしたりする。ここでメイドの人達と一緒にお茶会をしていたり、時々散歩と称して俺の事を抱き上げて外に連れて行ったりしてくれる。
メイドの人達はユーリアが強制的にお茶会に誘い入れている。そんな事してこの人達大丈夫なんだろうかと毎回疑問に思っているが、特に何も無さそうなので気にしないことにした。
そして昼食、この時間帯だけは俺の部屋にいない。どこかに出掛けるがすぐに戻ってくるが、いない時間帯のお世話はメイドさん達がやってくれている。
そしてまた俺の部屋で趣味の時間を過ごす。たまに俺と一緒になってお昼寝の時間を楽しむ事もあり、後は夕食を食べて自室に戻っていく。ずっと俺の部屋にいるため世話もユーリアが一人でこなしている。
そんな生活を毎日送っているが、ユーリアのスタイルはずっと維持されて、一体どんな超人的肉体をしているのかと疑問に感じてたりする。
そしてユーリアは不思議な力を持っている事も先日判明した。
俺がベッドで寝ている時にユーリアが俺の頬をツンツンと指先で突いてきて俺が嫌がると、またニコニコしながらツンツンとしてくる。
母親としては息子と遊んでいるつもりなんだろうが、此方としては眠りを妨げられて不快にしか感じなかった。
その内に苛立ちまくってそっぽ向いて反応しなくなったら泣きそうになりながら
「アト君~ごめんね~」
と言ってきたが更に無視を続けると
「アト君、お母さんの大事な所見せてあげるから許して!ね?」
とか言って頭を撫でてきたので仕方なく無視を辞めてやった。決して大事な所が気になった訳じゃないからな!
振り向くとユーリアの右の瞳だけが青く光り輝いていた。それと同時に浮かび上がっている紋様。
何だっけこれ……確か……魔法陣?
「良かった~!アト君、機嫌直してくれたみたい!」
「これね!お母さんの大事な魔眼なの!この青いのが魔力の魔眼でね───────
---
そっから先の話は全く頭に入ってこなかった。
俺はファンタジーな世界に転生してしまったらしい。今まで動物の耳やら尻尾やらはコスプレだと思い込んでたし、特殊メイクでもしてるものだと思い込んでたけど、瞳が青く光り輝く原理を俺は知らない。
そして魔眼という単語。中学時代の同級生がそんな単語を口走っていた気がする。その時の彼はファンタジーにのめり込んでいたから、その系統の単語だろう。
ならきっとここは魔法やらが存在するファンタジーな世界なんだろうと確信に近い何かを感じ取っていた────