魔法使いのジジィがうざい(by勇者)
「だぁぁぁもぅ、うぜぇ!なんだあのジジィ!」
ダン! と勢い良く酒場のカウンターに酒が入ったコップを叩きつけた男がいた。彼の名前は【ユウスケ・ホンダ】といい、日本からこの異世界に召喚された勇者である。そんな彼の心の中はイライラが募る一方だ。
日本からこの異世界【ウノムーゲ】に召喚された時は混乱したが、漫画やラノベのように自分が勇者になると分かった時は有頂天になった。勇者といえば、強くて・かっこよくて・みんなの注目の的で・何よりハーレムを築けるという存在であるとユウスケは認識している。そして、テンプレどおり魔の王を倒してほしいと国の王に言われ身体作りとしてむさ苦しい騎士たちに1年ほど鍛えられたのだ。男ばかりで異世界で定番の娼館にもいけない生活だったがハーレムのために彼は我慢した。さらにこの世界について知る為に、座学を半年ほど教わり遂に魔王討伐の旅が始まったのだ。
そして、お供として彼の予想していたテンプレ通りのメンバーが集まった。騎士の中の一輪の華、【剣王】のスキルを持った女騎士・サヤ。【万人の耳】のスキルを持つ回復呪文が得意な聖女・キルト。傭兵だが、国一番の弓の使い手・ノック。女だけ、まさに仮ではあるがハーレムである。さぁ、出発という時に王直属の騎士が勇者に耳打ちをした。
「勇者さま、申し訳ございません。あと、もう1人いるので待っていただけますでしょうか」
「?あと、1人いるのか…まぁ待つよ。仲間は多いほうがいいからね」
「すいません。もうすぐ来ると思いますので」
「でその子の役割は?」
「魔法使いです」
魔法使いといえば、ミニスカートに巨乳かスレンダーというはっきり分かれる体型に可愛らしい三角帽が定石だ。いまかいまかと待ちわびていると、しわくちゃのローブを着た老人が小走りにやって来た。なにか伝言か?とユウスケは思ったが、老人の口からは信じられない言葉が出た。
「魔法使いのスネークという者です。どうかよろしくお願いします」
ユウスケは開いた口がふさがらなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そこからは、全てが台無しになった。彼女たちを自分の物にすべくこっそり考えていた計画を行ったが全てが失敗に終わった。軽いスキンシップのつもりで手で身体を抱き寄せようとしたら
「ユウスケ殿、嫁入り前の女性にそれはいかがな物かと…」
「いやなに、仲良くなろうとね」
「なるほどそれはいいことですな。ですがみだりに女性に手を出さないようにしてくださいね」
ピンチの時に颯爽と現れて、自分にときめかせようとした時も
「よし、ここは二手に分かれよう。スネークさんはサヤとノックと組んでくれ、俺は戦闘力があまりないキルトと組む」
「わかりました」
森の中に入り、用を足すといって少しキルトから離れ魔物の好きな蜂蜜を木に塗った。数分もしないうちに、蜂形の魔物が現れた。これ幸いポイント稼ぎと思ったら、昔の漫画で見た心の壁みたいなのがキルトから出て魔物を撃退してしまった。話を聞くと、これまたスネークがくれた魔道具らしい。この道具のせいで、ピンチの時に颯爽と現れ助けてくれる勇者さま というのは出来なくなってしまった。
ほかにも、こっそり水浴を覗こうとすると邪魔をするし(隠密スキルMaxなのに何故見つかった?)娼館に行こうとするも、不思議な術のせいでいけないし。言葉遣いをいちいち指摘された。勝手に村の頼みごとを受けては報酬を受け取らない、と言った具合にことごとく彼をイラつかせた。いっそのことパーティからクビにしてしまいたいが、国王が特に目をかけているのでそれも出来ない。
そして明日はいよいよ魔族の本拠地『魔王城』へと攻撃を仕掛ける。最高のコンディションで戦う為に、今日ははやくに休みましょうと、スネークはいったのだがユウスケはそれを守らずに夜更かしをした。日本にいた頃ではこの程度は夜更かしにならない。それに女神様からのチートもある、その考えでこっそり酒場に行き呑んでいたのだ。
だが、それが甘かったのだ。未成年が、慣れない酒を呑んで二日酔いにならないわけが無い。しかも出発は日の出と共にだったため寝不足でもある。勇者のコンディションは最悪である。
「ユウスケ殿、顔色が優れませんが大丈夫ですかな?」
「うるさい、少し黙っていてくれ」
「体調が優れないようでしたら魔法薬を飲みますかな?」
「黙れ!」
コンディションが最高でないまま『魔王城』へ乗り込んだ勇者パーティ。城内にいるモンスターを次々に倒し、魔王の下まで来た。だがユウスケは二日酔いの影響で、普段はあまり減らない体力が徐々に低下していった。魔王との闘いが長引くにつれ、押され気味になる勇者・ユウスケ。
「クハハハ!勇者よ、噂に聞く強さだと期待したがとんだ誤解だったようだな。貴様は弱い!!」
「クソ、クソ、クソがぁ!!!」
だんだん、剣筋が粗くなっていき聖剣がユウスケの手元から離れてしまった。
「とどめだぁ!!」
(これでおわりなのか?そ、そんな…)
魔王の一撃がユウスケに襲いかかったとき、目の前に転移魔法でスネークが現れた。
「ゴパァ!」
「!?」
「剣を!」
「いわれなくても今やろうとしたところだよ!」
だが、魔王を斬るということはその前にいるスネークも斬ることで…ウザイとは思ったが、殺したいほどではなかった。なにより今まで人を斬った事はなかった。一瞬ためらったが魔法使いの目は…穏やかな息子を思う日本にいる自分の父と同じ目をしていた。
『自分ごと斬れ』
覚悟を決め最大の力をもって斬った。魔王は聖剣で心臓を斬られた事により、砂となった。スネークは…穏やかな顔で死んでいた。思い返せば、ウザイと思ったがそれは全て自分のために注意してくれたことだ。自分はなんてダメなんだろう。突然スネークの身体が光り始めた。あまりの眩しさに目を瞑るとそこは、自分が日本から召喚された場所だった。
「ここは、王宮の『召喚の間』?」
「それでは私たちは帰って来たのですか」
「えっと?勇者様が魔王を倒そうとして?ピンチの時にスネークさんが助けて」
「クッ、スネーク殿、貴公の騎士精神忘れません!」
騒がしさに気がつき兵士が勇者達を出迎え、そのあと王への報告となった。
「して、勇者よ。『召喚の間』にいたのだ?」
「はい、俺ん!私達、勇者パーティは先ほどまで魔王城で魔王との死闘を繰り広げていました」
「ほう」
「闘いは激しくなり私は敗北を覚悟しました。しかし、魔法使いのスネークが己の命と引き換えに魔王を倒したのです。その後、魔王は砂となりスネークの遺体だけが残りました。そのときです。スネークの身体が光り始めて『召喚の間』に転移されたのです。」
「そうか。スネーク、惜しい人物を亡くしたな。ところで勇者よ」
「はいなんでしょうか?」
「変わったの」
変わった
確かに自分は昨日の自分とは変わった。以前の自分だったら、王族の前にして敬語など使わずにずけずけと話したてただろう。うざいと思った小言は全部、自分のために言ってくれたことだ。日本から遠く離れたこの世界で彼だけは、俺を『勇者』ではなく『ユウスケ』としてみてくれたのだ。
「それで、勇者よ。そちに尋ねる。この世界に止まるか、もといた世界に戻るかどちらがいい?」
以前の自分なら、ハーレムを目指す為にこの世界に残る選択をするだろう。しかし、今は…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今、日本中で注目を浴びている企業がある。その会社は、新人教育に力をいれ更にリストラされた社員を多く取り入れ業績を伸ばしている。
この会社の社長にインタビューをした記事がここにある。
『なぜ、若手だけでなくリストラされた社員も多く取り入れるのですか?』
『若手はこれから伸びます。そして彼らを教育できるのは人生の先輩方だけなんです』
『周りから新人教育に力を入れすぎとの声もありますが?』
『そんなことはありませんね。今の若い人達は、甘やかされて育った人達が多いのです。自分もその1人だったんです。だから、親のように厳しく時には優しく指導することが大切だと考えています』
『そうですか、インタビューありがとうございます。最後に1ついいですか?』
『はい、なんですか?』
『あの蛇の置物はなんですか?』
登場人物~
ユウスケ・ホンダ→本田祐介
日本より【ウノムーゲ】に勇者として召喚された男子高校生。反抗期MAXな彼だったが今回の出来事で生まれ変わる
スネーク
その正体は、蛇沼影利。神さま見習い研修として魔王討伐の魔法使いとして転生した。しかし、時期が速すぎたので童貞歴が+80年追加された。ユウスケのことを息子のように接し、更生をはかり成功させる。死後(天界に帰宅後)、下界の泉でユウスケのことを見てハーレムを作らなかったことに少し驚いた。
仲間達3人娘
魔王討伐後、実家・故郷に帰り婚約者と結婚し幸せな家庭を築く。子供の名前は、世界のために己の命を差し出した仲間が話していた蛇の名前からつけた。