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勝てば官軍

 ぞりぞりと音を鳴らしながら腕が再生するとその腕は形を変える。

 鋭利な針のように鋭くなると、動けない俺に向かってきた。おそらく攻撃をした場所を捕捉してきたのだろう。

 しまったと油断した。近くにはベルがいたのだ。


「ベル!」


 俺は力を振り絞りベルを突き飛ばす。ベルが吹き飛んだ直後に俺の体は巨人の腕に貫かれると、釣り針のようにぐんと引っ張られた。


「ミチナシ!」


 俺を心配する声が聞こえた。だけど座らない首が後ろを見たときにはもう空中に浮いていた。


 あぁ、やばいな。これ。


 命を三百も削り、精神力もすべてないガス欠の俺はもはや痛みすら感じていなかった。

 胸がぽっかりと空いた俺は吊るされたかのように無気力だった。


「とりあえず、休ませてくれないかな……」


 正直疲れた。新記録達成だよ。本当。

 この一瞬で三百回近く死んでるんだからもう本当やめてくれないかな。


「あーれれ? ミチナシさんじゃないですか。死んだと思っていたんですよ?」


 あぁ、ムカつく声が聞こえてきた。本当やなやつだ。

 ジャック。見た目は人間。心は悪魔。巨人の肩近くまでいくとやや煤けた状態だが、ピンピンしていた。

 俺がまだ元気だったらぶん殴ってやりたい。


「……」

「あれ? だんまり? 僕と話すのは嫌いですか?」


 話せれないんだよ。ど真ん中貫かれて絶賛死んでるんだよ。心臓も動かないから頭に血が回らないし。


「ところであの馬鹿でかい魔法。どうやって使ったんですか? 正直びっくりしましたよ」


 あの規模は高いのか。あれは竜の魔術式を編み込んで作ったものでな。

 まぁ、その媒体はボロボロになってもう使えないけど。


「だけど残念でしたね。豆の巨人はそんな炎では消し炭にはなりませんよ」


 豆の巨人……。なんだそのクソなネーミングセンス。


「でも本末転倒です。やるだけやってなにもならず、そしてノーバディーの大地を焦土にしただけだ。ミチナシさん。これで貴方の作戦は失敗になった」

「……は」


 嘲笑。

 いや、純粋な笑顔。

 はたまた息を吐いただけの作り笑い。


 どれなのかは笑った本人の俺ですらわからない。


「どうかされたのですか?」

「油断大敵って……知ってっか?」


 俺は悪戯に邪悪に口を三日月に歪めた。

 それと同時に轟くような雷鳴が聞こえる。


「な……!」


 驚いた顔をしても、もう遅すぎる。


 ピクリとも動かなかった腕が今だけ動いた。じわじわとナメクジのように治っていった右腕がハエを掴むかのように動き出し、ジャックの胸ぐらを掴んだ。

 悪いがお前はここで死んでもらう。言葉にはできなくても睨めばわかるだろう。

 落ちる雷。青く光り輝くその光はまさしくルスの全力の一撃だ。


 だけど目標を俺にするのは本当いただけない。


「へ、ざまぁ……みろ」


 痛みは一瞬だった。落ちる雷は脳神経を焼き切り、そしてその余波がジャックを襲う。

 掴んだ胸ぐらから雷が伝わると、ジャックの体がバチンと全身の筋肉が引きちぎれるような音が聞こえた。

 力なく崩れるジャック。さっきまで煤けた顔ではなく、ちゃんとこんがりと焼けていた。

 多分、俺も、真っ黒に焦げてるだろうな。胸ぐら掴んだ腕は炭になってぼとりと音を鳴らして落ちたし。

 あぁ、疲れた……。

 体を貫いていた植物の蔓も黒焦げになり俺の体から消滅する。うつらうつらと眠たい感覚に襲われる。

 まーた、自由落下かよ。俺どれだけ空から落ちるの?

 俺は心臓が動き始めるのを確認してから目を閉じた。




「ミチナシお兄ちゃん!」


 俺の名前を呼ぶ声に意識を戻す。

 綺麗な空だなぁ。真っ青だ。と感慨していたが、次第に意識がもどってきた。


「……は、うまくいった……な」

「バカ! そんなこと言ってる暇ないでしょ!」


 ルーナが泣きながら俺に叱責する。ルーナの後ろにはルスと、ベルがいた。ベルは俺が突き飛ばしたからか手などに擦り傷があった。


「ミチナシ本当無茶なことするよね」

「はは、……正直この手くらいしか思いつかなかったぜ」


 正直な話。俺のこの死亡は【想定内】だ。

 三百回死に絶え、そして弱ったところを不意打ちのごとく頭を潰す。

 それが昔から元いた世界でいう。【勝てば官軍】ってやつに近いのだろうか。


 その代償が、俺の体がボロボロになることだけど。


「ミチナシお兄ちゃんの体がどれだけ生き返ると言っても限度があるよ!」

「ははは……でもこれでこの国の状況は好転した」


 じくじくとトカゲの尻尾のごとく生えてくる痒みと痛みに俺は耐える。

 いつもより治りが遅い。いつもならすぐに治るはずなんだけど……。


 ふと思い出した。大学生で習ったこと。


 ヘイフリック限界。


 細胞分裂の限界。


「……俺の残りは短いのか」


 寿命を察した気がした。

 もう長くない。もう治らないかもしれない。


「ミチナシお兄ちゃん? どうしたの?」


 悲しそうな顔をして俺を見るルーナに俺はこの事実を伝えることはできなかった。

 横一文字で口を引き締めた後、口を開いた。


「ちょっと疲れたんだ。休ませてくれ」


 本当に疲れた。

 もう動きたくない。考えたくない。

 そんな態度を示すと、ルーナは視線を落とし、「わかった……」と答えた。


 突然。


 ズシンと揺れた。俺の体が、ノーバディーが、大地が。

 揺れたのは巨人だった。


 完全に完治した巨人は様子がおかしかった。


 頭が無くなり、体だけになったのだろうか。

 いや、ジャックは死んだのか? 確認はしていない。やつはまだ巨人の上にいる。

 人の指揮はアリアに任せている、

 またいつも通り巨人の足止めをすればあとは消耗戦となるが、きっとスタミナが切れるのはこっちだ。

 頭痛と、貧血で回らない頭で考える。

 巨人を殺す方法を。

 俺と同じ死なない体。その巨人はどうやって治った?

 豆の巨人って誰が言ったっけ。


 そうだ。ジャックだ。


 豆の巨人。

 豆粒の巨人?


 いや、きっと植物から作られたものだ。

 豆で巨人。


 ジャックと豆の木?

 巨人はどうやって倒された?


 大地。


 がちりと噛み合った気がした。

 動かない体はもう動きたくないと訴えている。しかしこの状況で俺は何もやらなくていいのか?


 そんなわけがないだろう?


 俺はベルを見る。ベルは、ん? なんかあった? みたいな顔をしているが、現時点で一番暇そうなのはお前なんだよ。

 だから全然申し訳ない気持ちで言わず、命令口調でこの場にいない鍵を呼び出すように言った。


「ルーナ。アイを呼んでくれないか?」


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