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巨人狩り

 

「朝かぁ」


 外は夜明けを迎え、赤く燃え上がる日が登ろうとしていた。

 これで意識失って眠ってるのを省いたらほぼ二日寝てないってことになるよなぁ。

 ボサボサの髪の毛を掻き毟るとまだ微妙に血の塊が手に付着した。

 俺の周りにはルーナとルスが手を繋ぎながら眠っている。久しぶりに双子が一緒になっているのだから邪魔しないようにしておこう。と思いこの部屋から出ようとしたのだが、二人はそこから行くな。と釘を刺してきた。


「俺なんか悪いことしたっけ」


 いや、したことがないぞ。そんなこと思いながらぼんやりと外に出る。

 その光景には異物と思われる巨大なものがある。

 結果的に一日中ずっと動かなかった魔獣は俺たちが動き出すのを待っているのだろう。殺意を込めて睨みつけるがもちろん動くわけがなく俺も俺でバカバカしいと嘲笑した。

 全く、舐められたものだな。

 こんこんと扉を叩く音が響いた。


「はい」

「旦那様? イザベルですの」


 扉を開けるとネグリジェのイザベルがいた……ネグリジェ!?

 開いた口から閉まらなくなった。声を出そうとした瞬間、その開いた口を塞ぐように彼女は柔らかい手で塞いでくる。


「しーっ! ですの。いまこの状況見られて困るのは旦那様ですのよ?」


 たしかに、ロリ二人を部屋に招き入れ、オウセクシーボインの女性と仲睦まじくしていたらベルはなんていうだろうか。

 何言ってんだ俺。

 鈴のごとく叫びちらし俺のことを何か言うに違いない。

 こくこくと首を縦に振ると柔らかい手が離れた。


「よろしいですの。改めて旦那様。おはようございます」

「おはようって言っても、俺ずっと起きてるんだけどな」


 まぁ、意識を失ったを寝ていた。とするなら徹夜ではないのだが……。

 中に入ってもよろしくて? と聞いてきたので中に入れる。

 イザベルは椅子に座ると、俺も向かいの席に座った。


「旦那様が言っていた例のものは全部準備できたのですのよ。突然だったからびっくりしたですのよ?」

「悪いな……」

「あんな馬鹿でかいもの作らせてなにする気ですの? まさか私を孕ませて子どもをつくる気ですの?」

「この状況で話すことじゃないよねそれ。昨日言ったよな。あの巨人を倒すためのものだって」

「そうは聞きましたけども」


 その代物で俺の全財産はすっからかんだ。


「で、できたんだな。正直まだ時間かかると思っていたけど」

「ウィッチを舐めないでくださいですの。あれくらい朝飯前ですのよ」


 頼もしい限りで何よりです。

 ネグリジェ姿の彼女は足を組む。ただでさえスケスケの服なのにそんなことされてしまったら俺の視線がそっちに行ってしまう。

 堪えろ、堪えるんだ俺!


「でも、あれすごい重たいし大きいので私たちじゃ運べないですの」

「あぁ、それならなんとかなる」


 ほう、とイザベルが興味を持った顔をした後、微笑んだ。


「なるほどなるほど、面白いですの」

「そうだろ?」

「じゃあ、私はこれで失礼しますのよ?」


 立ち上がり扉へと向かう。

 俺はすぐに立ち上がり、扉を開けるとイザベルはありがとうと言って外に出た。


「あとは俺だけか……」

「んー……ミチナシお兄ちゃん?」


 ルーナが起きた。ボサボサの髪を手櫛で整えている。


「ルーナおはよう。よく寝れたか?」

「うー、うん。ルスお姉ちゃんがそばにいてくれたからぐっすりだよ」


 確かに歯ぎしりのベルよりはマシなのだろう。

 それに何百年も一緒に寝ていた仲なのだから心を許せる人がいるだけで寝心地がいいのだろう。


「今日はたくさん動いてもらうからまたよろしくな」

「いいんだよ。個はミチナシお兄ちゃんのモノなんだから」


 言い方が変だから直すけど、多分仲間だからという意味だよね?

 まぁその辺りは気にしないでおこう。気にしたら負けだ。

 そう思っている間にベルが扉を勢いよく開けて入ってくる。その後ろにはアイもいた。その勢いよく開けた扉の音にルスも目を覚まし、大きくあくびをする。

 これで全員集まったでいいかな。と確認し、みんなが話しているところで俺は声をかけた。


「じゃあ、まず作戦なんだけど……」




 火蓋は突然切られた。

 一発目から巨人に向かって飛んでいったのは大量の弓矢だ。今ノーバディーに残存する兵士全員が巨人に向かって撃ち放たれる。

 それに対する巨人はぞわりと気配が動いた。

 それまでただの巨木のように屹然したその姿はパントマイムのような魔法の時間が溶けるかのように動き出し、手と思われる枝を一振りした。

 それに伴い発生する突風。土も巨人が砕いた瓦礫も巻き上げ、まるで砂嵐のように矢を撃ち放った兵士達に襲いかかる。


「前列隊! 盾を展開!」


 その掛け声と同時に一番前にいた兵士は盾を横一列に並べ隙間なく立てる。

 突風を凌ぐために後ろにいた弓兵達は屈むと盾を持つ兵士を支えようと全員で堪えていた。突風が過ぎると、今まで眠っていた巨人はメギっと足から生えていた根を引きちぎった。


「第二波! てい!」


 その声と同時に別の方向にいたノーバディーの兵士達が弓をうつ。それに合わせて巨人は方向を変え、また腕を払う。


「ミチナシ! 動いたよ!」

「知ってるわ! それくらい見ればわかるだろう!」


 ベルは俺のそばにいた。正直ベルは今この状況では役に立たない。強いて言えば隠れるためにそばに置いているだけだ。

 その隠れる力を持つ本人がワーワーわめいていては気が散る。

 まずは動き出すことはわかった。


 俺はそれを見届けると、次の作戦に移行する。

 ルーナとイザベルが作ったステッキを持つと真上に向かって炎を撃ち放つ。

 炎は高く鋭く打ち上がるとすぐに炎の勢いが弱くなり消え去った。

 その直後に巨大な文様が光り始めた。


 その規模、ノーバディの三分の一。

 巨人を中心に五百メートル。


 それはイザベルに頼んで置いた巨大なものの力だ。


「魔法機構は連結機能があって、その連結機能を応用すれば範囲内に効果を及ぼすことができるですの。まぁ巨大な石か、なにかの媒体じゃないとまともに範囲指定なんてできないけど」


 そのために俺は手に持っていた金額すべてを使い、巨大な石を五つ用意したのだ。

 イザベルはその石に連結の魔術式と、焦土にする魔術式を刻み込む。


 その石を運んだのがスロープである。


「変化を使えば膂力は上がる。みんなで力を合わせれば運ぶことは容易いだろう!」

「だが、我々はスロープだ! そんなことヒューマンに……」

全個(わたしたち)の命令よ。運びなさい」


 そういうことがあり、石を所定の位置まで持って行ってくれたスロープはかわいそうに感じた。

 しかしそんなことはしようがない!


 その文様は打ち上げた炎と同じように赤く燃え上がると、その大地はすべて焦土のごとく燃え上がる。

 兵士たちはそれぞれが持っていた火除けの魔術式を編み込んだ、魔法機構を使い、焦土から身を守った。

 巨人はその事を知らず、なす術もなく足元からどんどん黒ずみに燃え上がっていく。

 しかし黒ずみの中からまた新しい組織が生み出され、体力を削るには程遠すぎる。


「想定内!」


 俺はステッキを持ち直し、銃のように構えていた。

 汗を流し、一瞬一瞬に消え去る命が、オドに苦痛を感じた。


「ミチ……ナシ……!」


 悪いさっきからブツブツと切れてなに言ってるか聞こえてないんだわ。

 言葉も出ない。精神もすべて底をついている。

 だけど、オドをステッキに詰め込んでいた。


 想像する。

 前にスロープと戦った時よりも巨大で強か燃え上がる炎を。

 猛々しくすべてを灰燼に帰すその炎を。


 心臓の音が止まる。

【オド】が切れた。


 そしてまた心臓が動き出す。


 まだだ。


 さらに連想する。広く輝く力を集約し一点に突き抜ける光を。

 触れた物はすべて闇へと葬りさるまばゆい光を。


 心臓の鼓動が広がったまままた止まった。

 そして【また】動き出す。


 ステッキには俺の命をすべて詰め込んだために一層光り輝く。

 俺の体は、ステッキからこぼれ落ちる魔素の熱で燃え上がった。


 熱い……熱い……死んでしまう。


 だが、まだだ。


 思い出す。

 ルーナの笑顔を、ルーナの悲しんだ顔を。

 すべてを取り戻す正義の力を!


 心臓が大きく拍動した。


 合計【三百人分のオド】を注ぎ込んだステッキは赤く燃え上がり装飾品が溶け始めた。


「いっけえええええええ!」


 そして撃ち放たれたその炎。


 燃え上がり、集約し、光り輝く赤い熱線。

 撃ち放った衝撃に俺の上半身が消し炭になる。


 しかし意識はあった。


 撃ち放たれたその熱線膨れ上がっていくと龍のような顎門を開き、巨人を飲み込もうとする。その光りに触れた巨人は焦土となった傷より酷くボロボロと落ち始めた。

 両腕が消し炭になり、顔らしき場所も半分上がれるように消えていく。


 音が書き換えるように静かになった。巨人も動くことなく、じっと沈黙を宿した。


 しかし、遠くから見てもすぐにわかる。

 えぐれた部分から蛆虫のように再生しかけていたことを。

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