再集結
「あ、お帰りミチナシ君」
「お前も元気そうで何よりだ」
たかなんだよその軽いノリは、俺は何度も死んだというのに。
巨人からある程度離れた場所に俺とベルがたどり着くとそこにはそれなりに豪華な屋敷があった。中に入るとアリアが土ほこりで薄汚れていながらただ一人椅子に座っている。彼女の周りに執事はいない。
俺を見るなりおかえりというあたり、生きていると思っていたのだろう。だから俺も皮肉っぽく返したわけだし。
ベルは俺とアリアを見た後、いつもの雰囲気に戻り私関係ないからオーラを出し始めた。
あのなぁ、という冷たい視線を送るがベルはどこ吹く風だ。
ところで、とアリアは口を開いた。
「さっそくだけどあれは……」
あれというのはおそらくあの馬鹿でかいものだろうな。
「魔獣だ。しかも、テイマーがいる」
「テイマー……なるほど、魔獣を操っている奴がいるのね」
物分りが良くて嬉しい限りだ。
「テイマーの名前はジャック。俺がここにくるときに拾った男だ」
「それ、ミチナシ君が悪いんじゃないの?」
やっぱりそのツッコミ来ますよね。
「正直そう思っているから、尻拭いは自分でやる。俺も参加させてくれ」
今回のこの一連の事件はジャックのせいでもあるが、そもそもあいつを連れてきたのは俺のせいだ。だから責任をとるとアリアに伝えた。
「ふーん。じゃあ頑張って」
「……いいのか?」
なにを? という顔をアリアはする。俺はあっけないその反応に表紙抜けた顔をしているのだろう。
普通だったらお咎め受けるはずじゃないか。
「困ってる人がいるなら助ける。それは当たり前のことよ。だからミチナシ君はいたってまともなことをしたわけ、だから咎める必要性はないよ」
アリアは立ち上がり、それに。と言葉を続ける。
「前に言ったよ。ミチナシ君に私の持っているもの全てを貸してあげるって。今がその時なんだよ」
「お、おう」
言い方がやらしい気がする。全部を貸してあげるってなんかなぁ。
アリアもアリアで頬染めてるし、うん。やらしく言っているつもりなのだろう。
「この戦いが終わってから見返りを求めることにするよ」
アリアは微笑みながら俺の元まで歩くと手を差し出す。
「……お手柔らかにたのむよ」
俺はアリアの手を取った。
アリアは破顔する。そして待ってましたと言わんばかりに、
「やなこった」
と悪戯っぽく言った。
「全軍撤退! 繰り返す! 全軍撤退!」
指揮官の声が響く。それを聞いた兵士たちは一目散に逆方向に向かって走り出すことだろう。今は突然のことで兵士たちも万全の準備ができていない。ならば一度引いてそこからどうするかを考えるべきだとアリアに提案をしたのだ。
もちろんアリアもそのことについて同意をし、今の掛け声が出た。
それに対して巨人は追うことはしなかった。ただ逃げ惑う蟻を見るかのような姿だ。
ヒューマンが近くにいた時はまるで遇らうように動いていた巨人は途端に巨木のように石畳を砕き大地に根を張る。それは次の為に力を蓄えるかのようだ。
「ミチナシお兄ちゃん!」
「お、ルーナお帰り」
「おかえりじゃないよ! 無事でよかった……!」
飛びかかるように抱きついてくるルーナに俺はよろめきながらも受け止める。
「なんかもっとボロボロになってるなぁ」
心ではなくて服装の意味だけど……。
「そりゃそうだよ! アイちゃんとルスお姉ちゃんとあの魔物の足止めしてたんだから!」
ルーナのいうあの魔物って、巨人のことだろうか。
三人で足止めできるってある意味すごいな。俺が千人いても足止めできるか不安だ。
「ミチナシ様、無事で何よりでございます」
「アイ、悪いな」
後ろには砂埃で汚れているアイと、同じくボロボロに汚れているルスがいる。アイは相変わらず無表情で、ルスは不機嫌だ。
「あらあら人気ね」
「うるさい」
アリアが無邪気に悪戯に言うのを嫌そうに返事した。
こほんを咳払いをしたアリアは話を切り替える。碧眼のその瞳はいつもの様子ではない。
「……でどうするの? 何か策は?」
「……正直考えていない」
実際異世界に来る前の俺はただの一般市民だ。そんな奴に策があるとかなんとか言われても困るわけで。
ふと机に視線を向けると、紅茶などの茶葉が置かれているがそんな気分ではなかった。もちろんアリアもそれに手を出す気はないのを確認したあと、水が入っているガラス製のピッチャーのようなものを手にし、ベランダへと出た。
そして水を頭からかぶる。冷たいなぁ。よく見ると底に魔術式が刻まれていた。
髪にこびりついていた血糊が溶けて透明だった水は赤みを帯びて滴る。うへぇきもちわるい。さらにゴシゴシと頭をこするとかさぶたのように固まった血がフケのように落ちた。
「ごめんなんか頭がカピカピしていて気持ち悪かったこれで集中できる」
「そ、そう」
突然の行動にびっくりしたのだろう。俺は頭を犬のように振り回して前髪をたくし上げる。
そして元の位置に戻ると椅子に腰掛けた。
「とりあえず今わかったことをいう」
「なに?」
「お相手はこちらを舐めているってことだ」
慢心。傲慢。奴にはそれが見えていた。
蟻のような俺たちが束になっても勝てるわけがないと、そう思っている。
「あれは確かに強い」
一歩で俺たち蟻が踏み潰されるのだから。一撃で俺たちが死ぬのだから。
赤子の手をひねるくらい容易い存在だ。と思っているのだろう。
「でも、強いとしても無敵ではない。最強としても無敵でもない」
弱点はいくらでもある。その弱点を突いてしまえば勝てる見込みはある。
「だから、俺たちは俺たちのやり方ってやつを見せてやろう」
「うん!」とルーナは頷き、「まぁ、そうなるわねぇ」とベルはなし崩し的に同意して、「わかりました。ミチナシ様」と了解したアイ。
俺たちの意見は一致した。




