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蠢く悪意

 スロープ達は動かなかった、いや、動くことを許されなかった。それは元々生物に存在する本能に近い。自然には弱肉強食がある。その強者には弱者はかなわないとわかる尺度だ。

 ルスにはその絶対的な強者に入り組まれている。

 ならばなぜルーナの時には逆らったのか。

 それはおそらく、ルスの姿が完全だったからなのかもしれない。

 ルーナには申し訳ないが、スロープの王として不十分な存在だった。

 そう、竜であるために必要なツノと、翼がなかったからだ。


「ルーナの感情が嫌という程歪んでいたから飛んできたけど……あのバカは私の妹に何をしているの?」

「ルスお姉ちゃん、あの」


 ルスの翼から弾けて聞こえる雷鳴が明らかに切れている音だった。俺まじやばい。死んじゃう。


「あなたは……」

「私? そこにいるバカ妹の姉。ルスシンセザリック。竜だけど、よくわからない状況に首を突っ込んだかもしれないわね……」


 見下した目でアリアを見ているルスは言葉を口にした後、ちらりと後ろを見てスロープ達を見た。


「竜だ、俺たちの王がいる」

「なんで……じゃああいつは」


 理解ができていない様子。ルスは狼狽えるスロープ達を見た後、虫けらを見るかのように俺たちをみて状況を把握したのか「はぁ」とため息をついた。

 ふと、視線が俺と交わった気がした。うっ、と俺の声がつまるのを確認した様な行動をした後ルスは息を吸った。


「同胞達よ、私の友人達に何をしているのだ?」

「……」

「私の友人に危害を加えるというならば、私は貴様達を粛清しなければならない。私はそんなことをしたくはないのだが……」


 バチっと電気が走る音が響いた。

 それに押されたスロープ達はすぐに片膝をついた。


「我が王、我らが主人、我々は奪われた王を取り戻そうと」

「それは私の妹のことか?」


 は、と狼のスロープがいう。


「ならばなぜ、私の妹の願いすら聞き入れないのだ」

「……っ!」


 あの状況ルスがいなくても王はそこにいた。その王が争うことをやめろと言っているのならば、やめているべきなのだ。


「貴様は、貴様達は王の命令に反した。いわば叛逆だ。相違ないな?」

「そ、それは……!」

「今一度問おう」


 ルスの羽から生まれる電流は一層輝きを増した。それは威圧だ。ヒューマンの奴らでさえ、息を呑みその場で与えられるであろう絶望と死を受け入れようとしているくらいの神々しさを持っている。

 その青く、冷たい瞳はスロープ見つめていた。


「彼等は私の友人だ。その友人に何をしようとしているのか」


 その質問に答えは出ていた。認めろと言っている。それ以外は死であるとルスが体現している。

 狼のスロープは口をぎりっと噛み締めた後、目を閉じた。


「なにも……しておりません。我々は……王の新たなる、友人を拝謁しようと……参りました」

「よろしい」


 ルスはそういうと、ルーナを見た。

 ルーナは嬉しそうな、今にも泣きそうな顔をしていた。

 その光景に俺は冷や汗をかきつつも安堵する。

 アリアもきっと同じことを思っているのだろう。

 青く光り輝いていた翼が収束し、本来の色である純白の翼があらわになった。


「……あーあ。せっかく面白い展開だったのに」


 その不満げな声は俺の近くから聞こえた。




 地面から何かが生えた。

 緑色の、ところどころ茶色で土に汚れた人の胴体くらいのうねった何か。

 あたりに漂う土の匂い、石レンガの道を砕き、家をなぎ倒し、大地から伸びたそれはまるで植物が何日もかかる成長を一瞬で伸ばしたかのような。


「ミチナ……シ!」


 ベルの声が聞こえた。把握できない。目の前に起きた事に一杯で、頭が回っていない。ヒューマンの叫び声を耳にした。途中で途切れて、俺の体から魂が抜けるような感覚に襲われる。


 なにが起きた……?


 ブチっと虫の四肢をちぎる音が聞こえた。腕がうねる何かに巻き込まれて千切れていた。痛みなど感じない。頭の処理ができていない。

 知らない間に足も千切れていた。俺の足ってどこに行ったっけ。腕も……。


「あははは! やっぱこうでなくっちゃ」


 その声は前に聞いた気だるげな面白くない声とは一変。楽しそうな声だった。

 どこか狂ってる様なその声に俺は聞き覚えがあった。


「どうも、ミチナシさん。お久しぶりですね」

「……てめぇ」


 もっと早く気付けばよかった。と自分を呪う。

 ルーナの存在をノーバディーの中で知っている奴はごまんと居る。

 しかし、ルーナの存在を一番はじめに知って居る奴は限られて居る。

 蠢く何かに拘束されて居る俺に近づいてきたそいつの姿が現れる。

 瞳は白く濁ったエメラルド色の瞳で燻ぶった感じの金色の髪がもさもさ……。


「ジャック……!」

「大正解。お久しぶりですね。ミチナシさん?」


 片眼鏡をつけていかにも紳士っぽい感じの装いをしているジャックがそこにいた。金の懐中時計をチェーンを垂らしながら持っている奴は終始嬉しそうなかおをしていた。


「てめぇ、まさか魔物だったのかよ!」

「魔物? あんな下等な奴らと一緒にしてもらわないでいただけないかな?」


 笑顔が崩れない。


「でも今まで知らなかったミチナシさんは馬鹿ですね。目の前に敵がいるのをわかりもせずにノーバディーに引き入れてくれたのだから」


 いやはや本当僕の目の前で右往左往していたのは面白かったと腹を抱えて笑っていた。


「なんで……」

「なんで? 一から話さないとダメなんですか?」

「できれば冥土の土産に教えて欲しいもんだな」


 んー。そうですねぇ。とジャックは顎をこすった。


「いいでしょう。僕の目的は簡潔。この国、ノーバディーの壊滅と支配です」


 くるりと踵を返すように回る。


「そのためにはウィッチに誘拐されるように見せなければならない。ノーバディーに入るためには必要だったんです。その時にいたのはミチナシさん、あなただ。辺境の街からきたあなたには偶然にも好都合なモノがあった」

「……ルーナか」


 ぎりっと歯を鳴らした。


「あなたには感謝しています。あと少しでノーバディーの壊滅が遂行できる」

「……」

「ミチナシさん、もう会うことはないでしょう」


 俺のボロボロの服に手をかけるとヒョイっと持ち上げる。首が閉まって血が頭に回っていないのだろうか。いや、出血多量で頭に血が上ってない。

 ちらりと下を見るとそこは天空のごとくノーバディが足元に小さくあった。


「さようなら」


 ジャックは俺から手を離した。重力は逃すまいと言わんばかりに俺の体に手をかける。

 ゆっくりとした時間をジャックをみた。


 ……クソが。



 悪態をつきながら、俺はノーバディーの大地へと叩き落とされた。

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