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決戦

「ニールさん! 出過ぎです!」

「はい!」

「ミチナシくん! 私が注意を引くから脇から狙え!」

「了解!」


俺はアレストの指示通りに動く。アレストは魔物を二体に両手剣で斬りつける。どちらも堅牢な腕を持っているために傷は付かなくても注意を引きつけることができたアレストは両手剣の持ち手を変えて全速力で逃げる。しかしそれは直線ではなく、左右に刻みながら走っていた。俺は流れ出る汗を拭う暇もなく、走り出す。そのうちにニールは弓を構え矢を射つが惜しくも外れてしまう。

まだ戦って間もないが囮を使う作戦で魔物の二体のうち後ろに続いている奴は手傷を負わせているため、集中的に倒すなら先だが、機動力は削いでいないために、油断はできない。


巨大な敵を倒すならまず何をする? という戦法があるというなら答えは簡単であり、足を狙い機動力を削ぐことが優先される。


そして動きを封じた時にやってはいけないことは目を狙わないことだ。


「いいか? みんな、体が動かなくなった魔物が目を潰されると生き物のように【恐怖】を覚える。すると暴れ出すんだ。こいつらの体は岩の様に固く一度喰らえばひとたまりも無い」


おっさんの忠告を受けた言葉を思い出す。とにかく足を狙う。とくに狙うなら、関節と太ももの間。靭帯だ。


「…っ!」


片手剣を両手で持つと、縦に振り下ろす。太ももを深く抉る様に斬りつけるとその魔物はガクッと動きがとまる。そして走る勢いを抑えられず横転した。

もう一体の魔物はその光景を見ると咆哮し、アレストに跳躍し、襲いかかる。衝突すれば普通の人間なら死ぬような状況、彼は襲いかかるタイミングで、しゃがむとアレストの行き先には巨木があり魔物は巨木に顔面をぶつけた。しかしアレストは深追いをせず、その場を逃げる様に走り出した。


「深追いはするな! まず相手の体力を奪ってチャンスに攻撃を加える!」

「はい!」


ニールが返事をすると、弓を構える。その行動に反応したもう三体目の魔物はニールへと向かうが、そこに立ちはだかるはおっさんだった。まるで鬼の形相をしたおっさんはこれまでにもない槍術をみせると、三箇所に穴が開く。腕と、わき腹と、そして顔面だ。魔物は絶命し、横たわる。アレストの剣でも弾かれたあの腕が貫通した。おっさんの吐息は白く体が紅潮している。


「すごい……」

「僕らもしっかり戦うぞ!」

「うん!」


ニールが狙いをすまし矢を放つ。それは横転している魔物の眉間に突き刺さると魔物は静かになった。


残るはあと一体。俺とアレストは顔を見合わせる。


刹那


パチンと頬を叩いたような軽い音が耳に届いたと同時に俺の目の前に吹き飛んだニールの体が落ちた。


「……え?」


次の瞬きで気がついたら空中にいた。ふわりと浮き上がったような感覚。目の前には見たことのある腕がある。


あ、これ俺の腕……。


「あ、が……」


声も出なかった。巨木にぶつかり重力に引っ張られる。

ふと思い出した。深追いをした……と。


まだ、馬鹿でかい魔物は俺たちの目の前に【現れていなかった】!


呼吸をする。吹き飛んだ腕はそのままで肩から無くなっていた腕が生えている。


痛みはなかった。


頭部が潰れる音が聞こえた。

あ、やばい。これは死ぬ。


みちゃりと粘性の液体が伸ばされる音が聞こえた。武器は……。遠い。

咆哮が響く。そいつは確かに馬鹿でかい。多分九メートルあるんだろうか。さっきまでより違う。赤黒い体毛だったのが、苔に生されそして青黒い体毛がびっしりと生えている。


「き、さまぁぁぁぁぁぁ!」


おっさんの声が聞こえる。鬼の形相で、疾走する。ドンと刺さる音と同時に衝撃が俺まで届いた。


「やっと見つけたぞ……」


グルルと、喉を鳴らす音が聞こえる。注目がおっさんに行くと俺はゆっくりとその場で起きる。

周りは……アレストも倒れている。ニール……。

ピクリとも動かない。


絶望的だった。


食いしばる。奥歯が砕けるくらいに、体が強制的に蘇生される。痛みはなく。神経が後で繋がる感覚が襲う。それは電源もついてないのに起動した状態でコンセントに差し込むようなものだった。ビクンッと体が震える。


「あ、あぁぁぁぁぁ!」


おっさんは槍で、魔物の攻撃を受け捌き反撃をするが、一目瞭然劣勢だった。何度も襲いかかる巨木のような腕をステップと槍の柄で受け流しながら死角へと入って攻撃を繰り返すが、ひるむ様子がない。まるで生きた台風と形容するしかない。

何かできないか。俺は……!


辺りを見回すとカバンがあった。それに駆け寄るとアレストが持っていたカバンだった。その中にはまだ割れていないアルコール濃度の高い酒と、火起こし器、そして金属の粉と皮袋に入れられた水。

俺は無い頭で考える。


魔物を倒せなくてもいい。一度怯ませる方法を。


呼吸がしにくい。肺に水が入っているのか。二、三度咳き込むと鮮血がごぼりと溢れ出た。痛みはない。まだいける。まだ戦える。


「おっさん! 俺はまだ生きている! もう少し時間を持たせてくれ!」

「ミチナシ! ……わかった!」


おっさんは魔物をその場を離すように誘導した。

その隙に俺はアレストとニールを運ぶ。重たいが運べないわけじゃない! もっと早く動けよ! 俺!

アレストは息をまだしていたが弱い。ニールの方は首がありえない方向へと曲がっていた。


「アレスト、ニール……悪い、借りるぜ」


その隙に俺は金属の粉が入った袋をもち、アレストから服と武器、ニールから弓と矢をもらう。


うまく行くかわからない。だけど。


「何もしないよりはやらなきゃ変わらない!」


気持ちを引き締めなおす!

その場に落ちていた木の枝にアレストの服を巻きつけると酒を染み込ませる。そして火起こし器で火花を散らせると松明ができた。そして、ニールの矢にも服を巻きつけて、酒を染み込ませる。


「……!」


俺は声にもならない叫びをあげながら走り出す。その場に落ちていた片手剣を拾い上げると魔物の周りを走った。魔物は俺をみた。赤い光を灯した眼光は俺を射殺すような勢いだ。普通だったら死ぬが、あいにく俺は死ねないんだ。


「ミチナシ!」

「おっさん! 俺が囮になる! できるだけ注目を散らしてくれ!」

「あぁ!」


槍を構え直すと注意を俺に惹きつけられた魔物の太ももへ槍を突き刺す。そしてその場を離れるように俺と対角線上に動いた。

魔物は俺とおっさんを互いにみながら、攻撃を加えられては避ける行動をとる。


本当魔物に考える頭がなくてよかった。と俺は嘲笑した。


「おっさん!はなれろぉ!」


と俺が言ったのは一周したとき、魔物の周りを回ったときだ。

手に持っていた酒を一口含み、残りを魔物の背中へと投げ込む。パリンと音がなったと同時に松明を魔物へと向け、口に含んでいた酒を霧になるように思い切り吹きかけた。


それは竜の息吹とは言えない小さなものだったが、勝利への一歩だ。その炎は魔物がかぶった酒に燃え移り背中が燃え上がった。


魔物が初めて怯む。轟々と炎は消えずだんだん広がる。


「苔に生されてるやつが悪いぜ」

「おぉ!」


おっさんが声をあげ、槍で右太ももへと槍を突き刺すことに成功する。しかし長い戦闘に耐えきれず槍が折れる。


「おっさん!これを!」


おっさんは武器を手放すと同時に俺はアレストの長剣をおっさんに渡す。


機動力を封じた。


横に転がり起き上がる魔物は俺をにらんだ。心の余裕ができる。


そうだ俺に来い。


「てめえなんか怖くねぇ!」


松明を携え、片手剣で挑発する。魔物は俺へと突撃してくる。

俺は松明を地面へと叩きつけると、魔物を囲うように白い炎が燃え広がった。その光は目を眩ませるような光量だ。


魔物は突然のことに驚き二度目の怯みをした。


「おぉぉぉぉ!」


おっさんはその隙に今度は左太ももを長剣で切り落とす。

魔物は両手で目を覆っているうちに俺は今度は皮袋に入っている水を取り出す。そして、白い炎へと水をかけた。


それは爆発的な燃焼へとなる。連鎖的に誘爆するその炎は魔物の体を吹き飛ばし、巨木へと衝突する。巨木によるダメージは俺が一番知っている。痛いことも、ダメージが入ることも。ぐらりと倒れ込んだ魔物に俺はそれをチャンスに見えた。


「おっさぁぁぁぁん!」


と叫んだ。今このパーティが用意できる最大の火力を。おっさんの名を呼んだ。


「おおぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!」


それはさっきまで見ていた鬼ではない。この地獄のような戦いを、意味のある戦いを。

俺をここにいるという実感を与える英雄がそこにいる。


矢のように走り抜けるおっさんは長剣を構えて、跳躍し魔物の顔面へと長剣を突き刺した。

轟音が鳴り響く。


数秒の静寂が訪れる。


おっさんは地面へと降り立つとゆっくりと俺へと歩んできた。


戦いは、敵討ちは終わった。

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