神様というのは
「夜明けまで後どれくらいだ!」
「二時間と三秒……一時間と五十九分です」
「そんな細かいこと聞いてねぇし!」
ルーナ達の元へ行くために俺たちは走っていた。ベル達に王城に向かえと言ったのだからそこ以外寄り道する必要もない。まっすぐ大通り走っていた。
大通りはさっきまで俺たちを追い詰めていた国民はいない。おそらくあの宿を中心に捜索しているのだろう。だが残念だそこには俺たちはいないんだぜ。とざまぁみろと思った。
角を曲がったあたりでアイが口を開いた。
「ところでミチナシ様。何か作戦は?」
「んなもんねぇよ! 無能で何もできない俺に聞くなよ!」
走って、追いついて、事情を話して、アリアにどうにかしてもらうしかない。
あぁ、もう本当他人任せの自分が嫌いになる! いつも他人に任せてばかりの事だし。
最初の魔物も、ダーシュのおっさんが仕留めたし、鳥の魔物も俺は何もせず、ルスが仕留めたし、クモの魔物もアイが仕留めた。
俺は何もできていない生き返るしかできない無能だと思い知らされる。ぎりりと唇を噛んだ。
「私はそうとは思いません」
「……」
走りながらアイは言う。息が上がり返事すらまともに返事ができない中でそれ言いますかね?
「ミチナシ様はたくさん活躍しています。ルーナ様を助け、私に感情を教えてくださり、イザベル様達が幸せに暮らせる方法を見つけてくださりました」
「……」
アイは言葉を続ける。
「だから、ミチナシ様は無能なんかじゃありません」
このやり取りはもう何度もしていると思う。前にもルーナにも言われた。卑屈になるなみたいなことを言われた気もする。
「……アイ、悪いな」
「いいえ、ミチナシ様を貶す他に褒めることも私の役目です」
「今の一言余計だ!」
今の一言で感動する気なくなったわ!
ところでとアイが口を開く。
「私に掴まってくれませんか?」
「あぁ!? 何でだよ!」
「正直な話、足が遅いです。出力を上げて到着時間を短くすることを提案します」
「……それ早く言ってくれないかな!」
もっと早く言ってくれれば俺走らなくてよかったよね!
了解しました。というと足元がバチっと雷が弾ける音がした。出力を上げたのだろう。俺はそれに合わせてアイの腰あたりに腕を巻きつけるように掴まる。
「では、行きます」
ドンッと地面が揺れると一瞬で俺とアイは宙に浮いていた。辺りが真っ暗なんだけど。いや真っ暗なんだけど。月こんな大きかったっけ? いや意識がまだ人類国にあってやっと意識が今に戻ってくる感じがした。追いついてきた?
「お、おおおおおおおおおおお!?」
「ミチナシ様。口を閉じないと舌を噛みますよ」
「んなこと無理だってえええええ!?」
あぁ、空が広い。街が小さい。というどこまで飛んでいるんだ。きっと上空五十メートルは飛んでるな。これだと門とかも全て無視して入れるな。
じゃなくて!
下に向かう重力が無くなると今度は落ちる。怖い! いやほんと怖い! 落ちる落ちる落ちる!
耳が風を切る音が聞こえる。それしか聞こえない。
「うぎゃぁぁぁぁぁあぁ!」
秒速九センチメートルで落下する速度をアイはじっと着地地点の家屋の屋根を見ており、屋根にに着地する瞬間にドンっと衝撃が俺の体に走る。衝撃を殺しきれていない俺の体は千切れそうな勢いで大地に打ち付けられた。
アイはそれをも無視をする。もう一度、電気が溢れ出し爆ぜる音を出すともう一度跳躍をする。
地平線が少しずつ明るくなっていく。もうすぐ夜が明けようとしていた。
「ルーナ! ベル!」
王城に到着するとアリアのいつも付いていた執事が迎えてくれる。執事がいつもより早い徒歩で歩くといつも俺たちを入れていた部屋に通した。
部屋にはベルとルーナが疲れた顔をして椅子に座っていた。
ベルは憔悴しきった顔をしており、ベルは汗でベタベタになった髪をたくし上げ風を送っていた。
「ミチナシお兄ちゃん」
「ミチナシ遅かったわね」
ルーナが立ち上がり俺を迎え、ベルは動かない。
とりあえず無事な様子ではあった。
「大丈夫だったの?」
「一応理解をしてもらって引き取り願ったよ。しかし問題は山積みだ」
なんせ夜明けと同時にスロープの軍勢が攻め込んでくるのだから。
もしこれでアリアが万事休すとなったなら、ヒューマンとウィッチと、スロープの戦争が始まってしまう。
「ミチナシ、なんかないの?」
「アリアに相談する。それしか今はない」
「その私が颯爽と登場よ!」
扉をまた思い切り開いて現れたアリア。もうすこし静かに入ってくれないのか?
「私に話とは? 何かあるの?」
「何もねぇよ。だから相談なんだ」
へぇ? とアリアは目を細めた。
「じゃあ、お互いが持っている情報を交換して話そうじゃない。砂は溢れたら戻ってこないのだから」
「助かる。じゃあさっそくだけど」
アリアが椅子に座り俺も椅子に座る。
「スロープの軍勢がノーバディーに攻め込もうとしてる。そして先ほどスロープに襲われて捕獲したけど逃した」
「なぜ?」
「あいつらの目的はルーナだ。スロープの王。竜のスロープであるルーナの奪還が目的だ」
俺はちらりとルーナをみる。もちろんルーナはなんとも言えない顔をしている。
言いたくなさそうだからそこはスルーしておこう。
「つまりルーナを手放せばここは襲われずに済む」
「え……」
ルーナそんな顔をするな。
「だけどそんなつもりは一切ない、手放す気もないし、ルーナはおれの仲間だ」
「へぇ、割と優しいのね」
「うるせぇ」
俺の知ってることはそれだけだ。と言うとアリアは手にしていた羊皮紙を俺に渡す。俺はそれを一瞥したあとアリアをすぐに見た。
「検死結果よ。そこには魔素回路の痕跡が残るように加工されていて触れた部分が青くなるらしいの」
俺は羊皮紙を広げる。そこにあったのは湖に浮かんでいた木の葉のように血に浸されたものだった。文字はない。前に見た不規則な紋様が一面に描かれていた。
そしてそれは青くない。乾いた血のように赤褐色になっていた。
「スロープは獣化するときに魔素回路を刺激か何かして変化をするんだっけ」
「イザベルはそう言っていたな」
ならばこの羊皮紙にある根拠は、スロープがヒューマンを殺していない。
その事実を証明していた。




