俺の全てをかけて守る。
さてさてさーて、俺が知りたいことを話してくれることを祈りながら、血濡れたナイフを置いた。
まぁ、ナイフを持ったままだときっと警戒するだろうし? 仕方ない。……本当はもっと刺してやっても良かったんだが、俺は一応これでも平和主義だからね。え、嘘だって? もちろん。嘘だよ。
好きなように話してくれてもいいという態度をとった。手ぶらの右手を掌を見せるようにひらひらとさせた。
その姿を確認した羊のスロープ、以下羊は俺の様子を確認した後に口を開いた。
「俺たちは王を連れ戻すために動いているだけだ」
アイの方をちらりと見る。今この状況で相手が嘘をついているか、否かそれがわかるのは機械であり相手の様子を手に取るようにわかる彼女だけだ。そのアイが羊をじっと見ていた後、俺を見てコクリと一度だけ頷いた。
嘘ではないのか。と把握し、俺は口を開く。
「王様? アリアのことか?」
だけどアリアを連れ戻すってなんだ? あいつはスロープなのか? 少なくとも俺が知ってる限りではあいつはヒューマンな気がしたんだけど……。
そんなことを思いちらりとアイを見たが特に反応がない。どうやら違うらしい。羊はアリアを目標ではないと思う。
それを確認した後、俺は口を開いた。
「お前たちのいう王様って誰だよ」
「……」
黙る羊。答えるのを渋るくらいのやつなのかと感じた。
だがそんな時間はない。その姿に俺は目を細めた後ナイフを手に取る。また刺されるのだろうと思い羊は慌てるように口を開いた。
「りゅ、竜だよ!」
条件反射の実験……パブロフの犬かな。いやこいつは羊だったわ。それに多分パブロフの犬とか関係ないかもしれない。
「竜……?」
「俺たちは竜のスロープ。スロープの王を取り戻すためにうごいているだけだ!」
へぇ、竜のスロープは王様なんだな……というか竜ってあれだよな? あの羽が生えていて、火を噴く奴……。
竜といえば知ってる奴が一人いた。
いやまさかそんなはずは……。
そんなことを考えていると後ろで待機していたアイが僭越ながらと言いながら話しかけてくる。
「ミチナシ様。もしかしてルーナ様のことでは?」
竜の力。竜のスロープ。俺たちを狙う理由。
天を仰いだ。空は小さい雲がポツリポツリと月明かりに照らされ、そして星空が見える。はぁ、と白い息を吐き出した。
「……やっぱりそうですよねぇ」
やっぱりマッチポンプじゃねぇかくそったれが。
目頭を押さえた。
つまり、あの時に見かけたのだろう。
それはアリアライオネルがウィッチとの同盟を組んだ時。
あの時に俺はアリアライオネルとウィッチ……イザベル・ジャッククール・ルゥセーブルの間にいて、その締結中にルーナが現れた。
つまりあの時にスロープのこいつらがいた。
「そしてルーナを取り戻すためにヒューマンを殺し続け、スロープのせいだという流れにした後俺たちの居場所をヒューマンに教えて行き先がなくなったところで俺たちからルーナを奪おうとしたわけだな」
そう考えるしかないだろう。そうしなければ合点しない。
「なぁ、お前たちからしたらルーナと俺たちは奴隷関係に見えたのか?」
「何を言っている! この奴隷使いが!」
俺を責めるように口を開いたのはウサギのスロープだ。その赤い瞳は敵意がにじみ出ている。
「ラビット!」
「うるせぇ! どーせ俺たちは死ぬんだ! 死ぬ前に言いたいだけ言って何が悪い!」
「……ひどい言われようだな」
俺は思わず笑った。いやはやあんな仲がいいように見えるものがまさかこうなるとは……。
「俺はルーナを仲間だと思っている。これ以上にない位の大事な仲間だ」
「はっ! ふざけたことを……! じゃあなんで王様のツノは片方しかないんだよ! テメェが奪ったんじゃないのか! 王様の翼を奪ったのは、空を飛べる自由を奪ったのはテメェ自身だろう!」
「そうだ。あいつの自由を、あいつの力を奪ったのは俺で間違いない」
否定しない。実際そうだったのだから。
ウサギの顔がカッと怒りに満ちた。ブチッと、縄がちぎれる音がするとウサギは毛を逆立てながら俺に向かって鋭い爪を剥き出して襲いかかった。
ズグリと胸に突き刺さる。刃物とは違う鈍いものが突き刺さる感覚だった。
「そうなら命を引き換えに償えよ。王様をあんな風にした罪はヒューマンには万死だ」
「あぁ、そうだ」
がふっと咳き込む、口から血が出る。あぁ、痛い。とても痛い。
胸に突き刺さった鋭い爪を持つ腕を掴み引き抜いた。その光景にウサギは驚いた顔をする。
ぽっかりと空いた胸の傷がどんどん治っていった。
「だから、俺は全てをかけてあいつを守る。そのために俺は今ここにいるんだ」
「……」
ウサギはどう思ったのだろう。化け物と思ったのだろうか。ルーナを守ると言ってるのだから信じて欲しい気持ちで一杯だった。
じっと俺を見つめていたウサギは目を下に向けると口を開いた。
「……俺たちは見知らぬ男の手引きで人類国に入った。人数は三十。俺たちはそもそも王様を救い出すためだけに動いていただけだ。それ以外は何もしていない」
「承知してる。一応カマかけてたし」
実際に必要だったのは入ってきた人数だ。
「そして日が変わると同時に俺たちは人類国に総攻撃をし王様を奪還する計画を練っていた」
「おい、それ以上は」
羊が制止しようとするがウサギはやめなかった。
「だから俺たちを止めるなら日が変わるまでに誤解を解くのが一番だ」
「ルーナは今王城に向かってる。ベルと一緒のはず」
「なら早くしろ。俺達でみんなに話を聞いてもらうために動く。だが間違えるな。いまは一時的な休戦だ。それ以上変なことをしたら俺たちはお前が死なないとしても死ぬまで殺してやる」
ぎらりと疑いの目が俺を見る。それを見て俺は怖がるように両手で肩を掴むと。
「……おっかねぇな」
とふざける様に答えた。




