迎撃戦
狩りの初歩として、知能が低い動物たちが狙うものは何かわかるだろうか?
それは絶対不変の標的であり、その標的を狙うだけで相手は防戦でしかない。
それは弱者だ。子ども、高齢者、負傷者。言い方はなんでもできる。子どもを狙えば大人は守るために動く。攻撃などする暇さえなくなる。
もちろん今回のこの襲撃もそうであり、まず三人が狙ってきたのは負傷者だった。
まぁ、背中負傷しているし、もう一人は人間ではないわけだし、明らかに疲れているやつを狙うのは当たり前だ。俺だってする。だから不公平だと言わない。
「ふっ!」
羊の角を持つ男性が息を鋭く吐きながらダガーを俺の首元を正確に狙ってきた。
その速さについていけない俺は呼吸をする手間さえ惜しんで避けるが間に合うわけがなく凶刃は俺の首を掠めた。痛みからして首の皮一枚切られた程度だろうか。
ほかの二人を警戒するが、二人はアイに阻まれ俺の元までは来なかった。
俺の相手はこいつか。とすぐに判断し集中する。
「しっ!」
距離を詰めて何度も襲いかかる。時に腹部を狙い、腕を狙いにくる。
「くっ!」
右に左に大きく動くと、足が石に引っかかりバランスを崩した。その隙を狙った羊のスロープは振り上げたダガーを返しの手で振りかぶり、また首元を狙ってくる。俺は咄嗟にステッキを構え振り抜かれる軌道に置き、ダガーの斬撃を防ぐ。ステッキに触れたダガーはギリリと嫌な音を鳴らした。
それに合わせて俺は右足を振り上げてスロープの顎を狙ったカウンターを繰り出すが、まるで見透かされてるかのごとく余裕で避けられた。そして一歩のバックステップで二メートルほど離れると、一気に距離を詰めてきた。
今だと直感した。
ステッキの持ち手を右手で持ち、左手でステッキの棒を持つ。銃を構える様に。
イメージをする。狙うのは目の前の敵。
イメージをする。打ち出すのは高速の弾丸。分裂し扇状に広がる弾丸。
イメージをする。望むのは灰燼滅却の炎。轟々と燃え上がる、ドラゴンの息吹!
それに呼応するかのようにステッキの棒は紅く煌々と輝いた。
「撃い!」
その掛け声と同時に赤く輝く光は先端に先端にと収束し、そして先端から炎を打ち出した。
例えるならショットガンの弾丸の種類にあるドラゴンブレス弾。扇状に広がる赤い炎はイメージした通りにスロープへと向かった。
「っ!」
見たこともない攻撃にスロープの顔は龍の息吹で確認した。びっくりしたかのような顔に思わず俺は笑いかけた。ざまぁみろと。
もちろん避けれるわけがない。羊のスロープに直撃し、着ていた服が一瞬にして燃え上がる。そして着弾した部分から灼熱の炎に襲われ、相手は飛び上がり戦意を失ったかの様に逃げ出した。
「シープ!」
「くそ、魔法か!」
アイが相手していた二人が驚愕の顔をして俺が繰り出した攻撃を見ていた。俺は続け様にステッキの先端をスロープへと向ける。アイは俺の行動を理解すると地面すれすれまで屈んだ。
「っつ!」
煌々と燃え上がるステッキは先端に光を収束させ炎を二つ撃ち放す。それを二人は跳躍し飛び上がると二人が立っていた場所が爆発するかの様に炎が飛び散った。その隙にアイは兎のスロープの方へと跳躍し、体を思い切り捻ると縦回転の回し蹴りを繰り出す。空中で体勢を崩し、両腕で防御しかできないスロープは地面に撃ち落とされる。背中から地面に叩きつけられたスロープは跳ねた体に鞭を打ち、右手で体を跳ね上げ体勢を立て直した。それに追い打ちをかけようとするアイは両手に持つナイフでスロープに切りつける。相手は舌打ちをし、ナイフと剣の打ち合いを繰り広げる。スロープが横に一閃するとそれに合わせてアイは屈み足を刈り取る様に回し蹴りを繰り出す。電光石火の如く、最適化された体動に相手は反応できなかった。
「くぅ……!」
背中から倒れたスロープは剣を落とした。アイはその剣を蹴り上げると馬乗りになりナイフの切っ先を喉元に当てた。
「無駄な抵抗を止しなさい」
「……っ!」
スロープは悔しそうな顔をして、そう時間もかからず両手を広げて降参した。
対する俺は跳躍した狐のスロープに照準を合わせ龍の息吹の連続使用とするが、いとも容易く避けられる。
「ちっ、威力が落ちてる」
イザベルから言われた忠告を脳裏で再生される。
膨大な魔術式によって魔法の起動の際オドを使うと言っていたな……。
今の状態を考えるにオドの使いすぎで体がだるく重たい……最悪生命力が尽きて死ぬんだっけ。
「なんて燃費の悪い武器なんだよ……!」
いや、無駄撃ちしすぎた俺が悪いんだ。と考え改める。炎を撃ち出さず、体の動きが悪い俺を確認した狐のスロープは一気に距離を詰め、手にしていたナイフを俺の腹部にめがけて突き出してくる。
俺は体力が魔法のせいで生命力が限界に近くまともに動くことができない。
一歩横に足が動くだけだ。
「もらった……!」
ずぶりと腹に鋭利なものが刺さる感覚が襲いかかる。皮膚を裂き、筋肉も貫き、臓物も穴を開けるくらいの突進だ。
「げふっ」
綺麗に肋骨の隙間を狙って肺を狙ってきていらあたりナイフの扱いが上手い人なのだろう。肺が血によって浸水していくのがわかった。息ができない。苦しくて口から血が漏れ出た。
これで終わりだ。と狐のスロープは確信をした顔をしていた。
体が戻る。戻っていく。
臓物の穴が塞がり、筋肉の繊維が結ばれて繋がり、皮膚が手を取り合う様に戻る。
俺はスロープの手を逃さないように握りしめナイフから手を外すと、相手が手にしていたナイフを引き抜いた。
「なっ!?」
「……残念だったな」
俺はステッキを持ち直す。さっきまで疲れていた体はどこに行ったのか、元どおりになっていた。
もはやこれは生き返るではない、時間の逆流に近い物を感じる。
スロープはこの世の中で恐ろしいものを見た様な顔をしている。
こいつは今日二回も恐ろしいものを見てしまったんだな。と思った。
かわいそうとは思わない。
「ば、バケモノ……!」
相手が悪かったな、お前。と俺はニヤリと口端をあげ、顔を歪めた。
「俺は死ねないんだよ」
頭突きをスロープの頭へと思い切り叩き込んだ。
「よし、こんなもんだな」
「ミチナシ様こちらも終わりました」
三人のスロープを捉え、両手両足をロープでしっかり結んだ。一人は頭突きで意識が不明、もう一人はステッキによって顔面と胸部火傷、あと一人がアイと戦闘で無事だった。
「さて、話してもらいたいんだけど」
「……」
あらら、俺の首を噛みちぎってやりたいと思ってらっしゃる感じですかね? まぁ、火傷にさせられたら怒りたくなるものだよな。
「別に俺はお前たちの命が欲しいわけじゃない。ルーナに降りかかる火の粉を振り払いたいだけなんだけど」
「ふざけるな! 奴隷使いのくせに!」
おおう、ひどい言われようだ。俺はアイを見ると何も感じず、というところか。
もう一度俺がスロープ達を見ると、おもむろに彼らが持っていたナイフを手にし羊のスロープの太ももへと突き刺した。
「っ!?」
突然の事に彼らは目を見開き、刺された奴は激痛に声を絞る。
「大丈夫か? 痛くないか? まぁ、気にするなまだ刺しただけだしな」
ナイフを引き抜くと、刀身には血がべったりと付着している。
「何をするんだ!」
「なにって刺しただけだよ? 大丈夫なやつに見えるか?」
俺は奴隷使いなんだろ? と見せつけた。
あー、心が痛いな。穏便に終わらせたかったのに。
血で汚れたナイフを見せつけながら今度は兎のほうを見た。
「次はお前だ。お前の知ってることを全て話せよ。なぜルーナを狙う。なぜ人類国の人間を殺した」
「ま、まってくれ!」
先に声を出したのは羊だった。冷たく見下した視線を俺は羊のスロープへと向ける。
そいつは驚いた顔をしていた。信じられないという顔をしている。
「俺たちは……お前らを殺していない!」
痛みにより冷や汗なのか、嘘による脂汗なのか、俺には分からなかった。
アイを見ると、しばらく羊のスロープを見ていたあと、俺を見る。
「白だと思います」
なるほどね。




