多種族となるもの
数日経った時のこと、俺達はアリアに呼び出された。なんでも緊急性のあることだとかで呼び止められたのだ。
正直なところタストに帰りたくてしょうがない俺は行きたくなかった。しかしそれを断るとあとあと面倒なことになるので、嫌々ながらアリアがいる王城へ向かうことになる。
外に出ると宿の目の前には馬車が止められており、その馬車には門番の格好をした男が急いでいる様子だった。俺たちはその姿を見たあとすぐに馬車の中へと入る。そして馬に鞭を打つといつもより早めの速さでノーバディーの中を駆けた。唐突な出だしにルーナがよろけるために俺はルーナを受け止める。とにへらと笑い、俺の体にくっついてきた。ふんわりとした甘い匂いが漂ってくる。
「引っ張りだこだね」
「めんどくさいだけだ」
ルーナが嬉しそうに言う。まるで散歩を楽しみにしている犬のように見えない尾を振っているかのようだ。アイは俺の隣で着席をしており、ベルは向かいの座席で外を見ていた。おい、スカートの中身が見えてるぞ。
ルーナが隣に座る。それを見ていた俺は声をかけた。
「そんなに楽しいか?」
「楽しいよ。ベルお姉ちゃんと、アイちゃん。それにミチナシお兄ちゃんとみんなでワイワイするの楽しいもん」
ニコニコと花のように開く笑顔。
「純粋だなぁ」
実際はアリアに呼び出されているだけなのに、みんなと一緒にいろんなところに行けるっていうポジティブ思考とても羨ましく感じる。
まぁ、その純粋さがルーナのいいところではあるんだけどな。多少そこのバカに感染してるから今は純粋かと言われたらそうではないといえるかもしれない。
しかしそれくらいは一種の成長と思えばいいのだ。
「あ、そうだ、ルーナこの杖ありがとうな。イザベルに変なことされたって聞いたけど……大丈夫だったか?」
そういって俺は杖を持ちルーナに見せる。ルーナはそれを確認したあと首を横に振った。
「あ、うん。全然平気だよ。ルスお姉ちゃんとやってたことをしてるのと同じだったし。それにイザベルちゃんの技術にはびっくりしたよ」
あ、あの時のアレね。なめなめプレイ勝手に命名したけど。
思い出すだけでも顔が赤くなる。
イザベルはあの同盟から西側にずっと入り浸っている。実はあのあと魔法機構の研究結果を発表していた。するとノーバディーに腕に自信のある鍛治師がイザベルのもとに集まり魔法機構の技術を教えてくれと懇願してきたのだ。
「弟子を取るのは久方ぶりですの。胸を貸すのですのよ」
聞こえは悪いが彼女はいたって真面目である。
しかしうまくいくかどうかは謎であるが。
「正直な話、構造が見えなければただの装飾品か、初歩の魔法が発動するくらいですの。ひどい結果を言うならば爆発して火傷をするくらいですの」
イザベルが嘆息しながら俺に言っていたのを思い出す。ちなみに魔素回路が見えずにちゃんとした魔法機構ができるのは【奇跡】だそうだ。
「ははは……」
思い出すだけで乾いた笑い声しか出ない。
不毛とはこういうことを言うのだろう。教えても自分が持ち合わせていない技術ではその技能を習得できない。イザベルはそれを懸念していたのだろう。しかし人間……ヒューマンは割とそう言うのに関しては諦めが悪いのだ。
「そのままウィッチにしかできない技術ですのって言っておけばよかったのに」
ボソリと呟いた。
「ねぇねぇ、ミチナシ」
「はいはい」
皆さん大好きなミチナシですよ。
ベルが俺を呼ぶと外を見てとジェスチャーをする。なんだなんだと俺は振り返るように外を見た。
違和感を覚えた。
俺たちの馬車と数台の馬車が走り、人もおらず店も締め切られている。まるでシャッター街のようなその閑散とした空気はノーバディーに来て以来感じたことはなかった。
そう、ここはまだ東側。
西側は全然人がいない。インドアな奴らが建物に篭って常に研究などに没頭しており全然東側と真逆の雰囲気を持っているのだ。それの西側に慣れていた俺たちはここを西側だと思っていた。
「……祭りの後だからっていう雰囲気ではないよね」
昨日一昨日までまだ人気があり活気あふれていたはずだ。それなのにこの状況はおかしいとベルが俺に問いかける。
「あぁ、何かあったんだろう」
きっと西側では何かが起きていると俺は確信をした。
アイもじっと外を見ているだけで何かの情報を得ている様子ではなかった。
王城に到着すると、すぐに俺たちは門番から執事達に受け継がれた。
「お待ちしておりました。アリアライオネル陛下が待っております」
「いえ、連れ達を他の部屋で待たせてもらっても」
「その必要はありません」
はて? 何かあったのだろうか? 少なくともアリアには俺の仲間達によって魔獣を倒してきたというのは言ってはあるが……。
兎にも角にも執事は俺たちをアリアの元に連れて行きたいそうで、俺たちは顔を見合わせてから同行する。執事達も急いでいる表情でいるあたり緊急性のことなのだろうと改めて理解した。
「こちらです」
そう言って俺たちを通したのは王城内の一室。ウィッチと同盟を組んだ場所だった。そこにはまた沢山の重鎮達と、ウィッチ代表でイザベルが、そしてアリアライオネルが立っていた。俺たちが中に入っていくと何かの視線を感じた。それは敬意とかではない。疑惑とかそれに近い視線だ。
アリアがこちらに近づくと申し訳なさそうな顔をしている。いつも自信ありげな表情の彼女にもこんな一面があるんだなとおもっていた。
「ミチナシ君、ごめんね何度も」
「別にいい。なにかあったのか?」
アリアにここの席を使ってと言われて指さされた椅子に腰掛ける。ルーナ達も腰掛けると重鎮の一人が口を開いた。
「ウィッチとヒューマンの同盟から数日……ヒューマンの殺害が頻繁に起きている。しかしそれは刃物による切り傷ではなく、獣に襲われたような傷であり、そして噛み傷も存在している」
ざわっと会議内が揺らいだ。それに対して俺の腹部に冷たいなにかが滴り落ちる予感がした。嫌な予感が起きると引き起こされるひやっとするやつだ。
「これはれっきとした殺人だ。他種族による攻撃に違いない」
「……」
多国籍、ましてやウィッチとの同盟をした直後にこの始末。明らかにノーバディーに対する不和を引き起こそうとしている。
そしてこの時点で他種族となるものが目の前にいるのだ。
重鎮が送っていた視線。それは俺はではなく、俺の隣にいたルーナだった。
それを理解するのに時間がかかった。理解した瞬間アリアを見つめる。
アリアの顔は俯いていた。
裏切った? ルーナを売った?
ベルもここにいるのは危険だという顔を俺に向けルーナを守るように抱き寄せる。ルーナは何も言わずただ抱きしめられた。しかしその瞳はわたしはやってないと訴えている。当たり前だ。俺と一緒にいたじゃないか。
俺の周りには護衛の男達が五人で集まる。
重鎮達の視線はそれを見ている。逃げ場なんてない。ルーナが抵抗をすれば取り返しのつかないことが起きてしまう。だからといってそれを野放しにしてはいけない……。
「ルーナ殿。悪いが話を聞かせていただけないだろうか」
ルーナは目を強く閉じた。
「ちょっと待て!」
俺は思わず声を上げた。思わず立ち上がったために椅子がひっくり返る。その行動にその響く音にアリアは顔を上げた。
「俺の仲間がやったという証拠でもあるのか!」
「剣による裂傷ではなく、三つ並んでできた裂傷。乱杭歯の噛み跡。それは明らかに【スロープ】の仕業だと思わないのか」
スロープ……獣人のせいだと? 重鎮の言葉が重くのしかかってくる。
だがそれがなんなんだ。俺の仲間が疑われている時点で俺は許せるわけないだろう!
「思うわけねぇだろ!」
一喝する。毛が逆立つほどの怒りが込み上がる。身体中の血液がものすごい速度で回りまともな体が熱い。
「いいか? ルーナは俺の仲間だ! ずっと俺と一緒に戦ってお前らの敵も倒してきた! イザベルの……ウィッチとの同盟を結ぶキッカケに至ったのも彼女のおかげなんだぞ!」
「だからなんなのだ」
一言で俺の主張はあしらわれる。重鎮の反応は何もなかった。
「いいか? これは国の話だ。お前のいう主張とは規模が違うのだ」
「国の、ため?」
「あぁ、そうだ」
絶望が、否定が襲いかかる。何を言っても変わらないこの状況。
「……っ!」
この老害共が。と呪った。
「お前の言っているのは結果論であり、過去の話だ。我々は今の話をしているのだ」
なら功績を残したルーナはなんで今罪に問われなきゃいけないんだ。
「黙りなさい」
アリアは口を開いた。重鎮は静かになる。
「口が過ぎているのでは?」
「……しかし、証拠が出ている。スロープがつけた傷。そしてこの国で確認されているスロープはここにいる」
「まるで彼女が、犯人だと決め付けているような言い振りね」
「っ……」
参考人として話をしていたはずが今は犯人として上げられている。重鎮は口を静かに閉じた。
「あと、今回私が彼らを連れてきたのは参考人として連れてきたわけじゃない。彼らに助力を願いたいために連れてきたの」
会議内がざわめいた。俺はアリアをみる。彼女の瞳はまっすぐ俺を見てからまた重鎮達を見返す。
「現時点でこの国の中における最大の功績者はミチナシマサヨシとその彼女たちですの。彼達に頼んだ方がいいのでは? ですの」
横槍のようにイザベルが俺たちを推した。イザベルと視線が合うと少女のようにウィンクをしてきた。こんな空気の中にこんな素っ頓狂なことをされて面を食らう。
アリアがイザベルのその言動を聞いたあと、碧眼の瞳を細め睨みつけるようにした。
「イザベル氏と私の考えは一致した。私の考えがウィッチ寄りなのか? いいや、違う。重鎮達、君たちの頭が硬いのだ。私の考えはノーバディーの考えだ。今後違うことを言うのを慎め」
その後重鎮達の反論は何も出なかった。




