魔物という生物とは
この世界には魔物がいる。……いや知ってるけど。
しかし、俺が知っているのは魔物という存在を知っていることだけで、魔物がどんな生態をしているのは全く知らない。それを解消してくれたのがおっさんだった。
やっとチュートリアル的な話ができる。でも不満な点はおっさんではなく、僕がチュートリアルの役目を負っていることだ。全く持って不満である。
一つ、魔物は異形であるということ。……いやそうだろう。
簡単に言うと生態系の一つを持ったままで他が異形であること…らしい。
例えばウサギがいるとする。毛は白く、耳が長く、丸く、強力な後ろ足がある。魔物はその特徴を残したまま異形な存在になるという。体毛が針のように鋭くなったり、体が子どもと変わらない大きさだったり、二息歩行だったりするらしい。あくまでウサギの件で例えたがウサギの魔物はいないらしい。
【あくまで生態系の一つの特徴を持っている】のが魔物である。
聞くところによれば、動物の分類でそれぞれ特徴を持っているとか……哺乳類であれば体毛を持つ、鳥類であれば翼を有するなど、一目で見ればどの種類なのかわかるとのこと。
二つ、魔物は生命はないということ……ここに驚きしかなかった。
生物ではあるが、生物ではない。逆に言えば植物であるが植物ではない、さらに繁殖方法もないときた。自分でもよくわかっていない。つまり魔物は動物のようで植物のようでそうでもない。逆に言えば、魔物であるってことだ。うん。簡単。
三つ、魔物は人類しか襲わない……
牛などの家畜、森林などの植物の破壊と殺害、その他のことはせず共存する。
「つまり、絶対人殺す殺戮兵器みたいなものだな」
簡単に感想を述べた。いやだってそうじゃん? 異形で、生命がなくて、人類しか襲わない? どこの世界の調整者だよ。もしかしたら魔物って魔物ではないのかもしれない? 俺らが悪なのかもしれない?
たまったもんじゃない。情報が不確定すぎて曖昧すぎて魔物の存在がふわふわとして浮いている状態だ。
「いや、逆に考えたら魔王がいるから存在するって考えたら」
だがしかし、魔王はなぜ家畜などを殺さないのだろうか。世界の掌握ならどんな手でも使って人類を滅亡させたいのではないか……。でも、不確定なら後ですりあわせてしまえばいいと思った。まぁ、楽観的なものでしかないが。
「これより奥地に入る。みんな気をつけてくれ」
今はこっちに集中するべきなのだ。おっさんの……おっさんの名前だったダーシュさんのために敵討ちをする。
俺たちはお互いに顔を見合わせ気を引き締めた。今は魔物の存在の話ではないと言い聞かせる。
目的を果たすために俺たちは原生林のさらに奥へと入っていった。
奥に入ると原生林の一部をジオラマにしたかのような巨大な切り株や倒木、草木のトンネルがそこら中にあり、視界が悪い場所だった。さらに腐葉土は湿っており足場がしっかりしない。ぐじゅりと水が土から滲み出るくらいだ。
こんな足場の悪いところで戦闘をするのは人間は不利でしかない。それも人数が多いとしても戦況が変わるわけでもない。
場所も徐々ではあるが高所にきているため息が簡単に上がる。
「……おっさん。そろそろその魔物の根城に着くか?」
「あぁ、あいつは絶対ここにいる」
「ちなみにその大型の魔物ってどんなやつなんですか?」
ニールが恐る恐る聞いてきた。俺もアレストも昨日のベースキャンプの時にその大型の魔物の姿形を把握できていない。唯一わかることは、馬鹿でかい。それだけだ。
ダーシュは槍を構え、警戒を怠らないまま話をする。
「魔物は基本的に個体別の群れをなす。哺乳類族なら哺乳類族。爬虫類族なら爬虫類族のように。そしてそれぞれの群れとは大体雑魚が三体と大型の魔物……リーダーが一体だ」
唐突に雄叫びが響いた。それは明らかに巨大な咆哮と、それを取り巻く小さい咆哮。その声からして哺乳類であり、猿のような特徴的な声が響いた。
「縄張りに入ったそうだ。お前ら、本当すまない」
「いいや、ダーシュさんは存分に戦ってくれ」
「死ぬ時は一緒です!」
「……」
みんながみんな死亡フラグを立てていく。いやそれ全部死亡フラグだからさ。やめようよ。俺絶対言わねえからな。死亡フラグなんてさ!
そして俺らに襲いかかる殺意はだんだん近づいて来る。不規則な地ならしの音。俺は片手剣を引き抜き構えた。
そして現れるその姿。子分たちはゴリラのような巨体に乱杭歯が並んでいてる。明らかにバナナ食ってるやつではない。そいつは肉を食っているような顔をしている。そして何より体毛が赤黒く逆立っている。
俺は生唾を飲んだ。ニールもアレストも同様に肝が冷えただろう。どうやって勝てばいいんだよと思うだろう。
「待ち侘びたぞ。クソ野郎ども」
その中で闘志に燃え上がる男がいた。槍を腕の血管が浮き出るかの如く握りしめる。そしてその顔は昨日まで知っているおっさんではなく……。
鬼がそこにいた。