祭りとは大体奇祭ばかり
その後のことは光陰矢の如し、時間が流れるのは早かった。
まぁ、あの交渉の後俺がやることはないし、むしろあの後はアリアライオネルの独壇場のために俺が介入する場所がない。
「いやぁ、疲れた疲れた」
「お疲れ様ミチナシお兄ちゃん」
となりにぴったりくっついているルーナが嬉しそうな顔していた。あの時のこともあり気持ちが緩んだのだろうか。
場所は東側の俺たちが借りている宿の前にあるいつも通りの喫茶店だ。そこでやるべきことをやった俺達はお疲れ様会ということで飲み物を頼んで歓談していた。
「それにしても、あの話よく知っていたわね。私でも知らなかったわ。どこからあのネタ仕入れたのよ」
お酒を一口煽ってからベルが言う。あのネタというのはおそらくノーバディーにいたウィッチ化が追い出された話だろう。
「実はロアでウィッチについて調べていたんだ。あそこはウィッチの街だろう? ならウィッチの歴史もあるに違いないと踏んでね」
餅は餅屋にっていうのあるだろう? ってベルに言うがベルは分かっていない様子だった。まぁそれは放っておこう。
まぁその後ウィッチで調べていると歴史の一部がすっぽりと抜けていたのだ。
悪魔との契約によってウィッチとしての才能が開花する。としてもそれ以前の……ウィッチ、イザベルが言う始祖の生い立ち的なものがなかった。それはウィッチが歴史を記される時代に生まれたのであれば書かれるであろうことがなかったのだ。
いつ生まれ、どこで生まれ、何のためにここにいるのか。
それらが不明の彼女を推理した結果があれであったと言うわけだが。
「いやまじ外れていたら赤っ恥ものだったなぁ。もし間違えていたら俺が絞首刑だ……」
なんせ、子どもの考える【悪いこと】だし?
国に、ましてや国王に対して暴言を吐いたのと同然だし。
ノーバディーの男性を奪う理由だって、タストから誘拐しても良かったのではないかとも思うし、逆にノーバディーがなぜ人類国と閉鎖的な国なのかとも疑問は持っていたわけだし。
いや、逆に言えばノーバディーの男性ばかりを誘拐する理由は一種の【呪い】だろう。
今となってはもう過ぎたことであるけど。
「でも結果が全てですので、ミチナシ様はちゃんとやるべきことをやったのです」
「……どうも」
アイが口に砂糖を口にしてから俺のことを褒めちぎる。いやほんと恥ずかしいのでやめていただけないでしょうか。
小さく返事をするだけだった。
褒められることは今までなかったし……。顔が熱い。
「さすが私の旦那様ですの」
「さりげなくなんでお前がいるんだよ」
「あら、私がいてダメですの?」
そう問題はこいつだった。あのあと、アリアライオネルと別れた俺達についてくるようにイザベルが付いてきた。
「なんでお前が?」
「帰る道がないですの。一人でこの格好で歩いていたら色んな男の慰み者になってしまうですの」
乾いた笑い声しか出なかった。
ということで、俺達についてくることになったわけだが……。
「問題ありまくりだろう。その格好をした女を連れ回している時点で俺に対する痛い視線が刺さってるんだよ!?」
「それならずっとささっているじゃないですの」
そう言われたらそうなんだけどなぁ。なんせ周りにいるのは、美人な竜に、超絶美人の女神に、美形で一部に人気ある人形に、グラマーで露出の高い服装のウィッチだ。
その取り巻きの中心が白髪混じりの美形じゃない感じの平凡な元男子大学生となれば、反感を買われてしまう。
「側から見たら周りの男どもはあんなにも侍らせてと言われかねないですの」
「ならイザベルがロアに変えればいいだろう」
「だから帰れないですの。それに、この状況の方が面白いですの」
今てめぇ、絶対楽しんでると言ったな。
コロコロと笑う彼女にムッとしたのかルーナが俺の腕を掴んだ。胸当たってますよ?
「お兄ちゃんは個のだよ」
「あらあら、その本人が小娘の物だと言ったのですの?」
「……それは、言ってないけど」
「おい、こいつこれでも一応五百年は生きるからあんまり小娘っていうとあつつつつつつつつ!?」
「個はまだ若いよ!」
え、なにこれ俺悪いこと言ったの? さりげなく掴まれていた腕が赤くなって火傷している。ヒリヒリしているが死ぬようなレベルじゃないから当分はこのままだろう。
それをみていたイザベルはルーナに顔を近づけて小さくだが俺に聞こえるように声の出力を絞った。
「むしろ、小娘が旦那様のモノになっちゃえばいいのでは? そうすれば小娘は旦那様のものですの」
「ごくり」
いやいや、考えを変えさせられるなよ。さりげなく所有物の概念を百八十度変えられているぞ!?
「お兄ちゃん、個をお兄ちゃんのものにして!」
「ぶっ!?」
ベルの口からお酒が吹き出る。おい、その対面にいるの俺なんだぞ? あぁ、美人の唾液と混じったお酒が霧吹きのように飛んでくる。
あははー。酒臭い。
「る、ルーナちゃん!? それはダメだよ!? こんな下半身万年発情期のクズ男のモノなんて!」
身を乗り出して俺を指差す。アイから渡された濡れた布で俺が顔を拭いていた。
一通り拭き終わった後に俺は眉間に縦皺を増やしながらどすの利いた声をだす。
「おいてめぇ、あとで表に出ろ。格の違いってやつを見せてやる」
「あぁん!? 私に勝とうなんて一億光年早いわよ!」
顔が真っ赤な女神になんか怖くねぇわ。くそったれが。
「お前それ時間じゃねぇからな。距離だからな!」
「そんなもの全能の私にとってどうでもいいのよ! さっさと表に出ろ!」
「おう、望むところだ!」
イザベルからしたら本当に子供がギャアギャア言ってるだけに見えたのだろう。思いっきり面白くない顔をしている。
そしてため息をついた後、イザベルは俺たちをあわあわとしながら見ていたルーナへと近づく。
「そんなことはどうでもいいですの。小娘、私と少しお話をしましょうですの」
「ふぇ? 個と話してなにするの?」
ギャアギャアと言い合っていると、喫茶店のマスターにど叱られた。
「そういえば今日祭りだったな」
喫茶店でひと暴れした後、俺たちは街中に出る。するとざわざわとしながらいろんな人たちが西側へ入る大きな道へと向かって歩いていた。
その姿を見ていた俺はそういえば今日祭りだというのを思い出した。
「わーい! お祭りだお祭り!」
「ルーナ様そんなに急いでも祭りは逃げませんよ」
「今行かなくていつ行くのよ! 今でしょ!」
おい、どこでその言葉覚えたんだ。
ルーナとアイのやりとりがまるでおてんばお嬢様とメイドに見えて微笑ましい。それを後ろからついて行くベルを見送っていると、イザベルが近寄って来た。
「祭りってなにがあるのですの?」
「さぁ? 俺もよくはわからないんだ。強いて言えばあの国王アリアライオネルが鼻息を荒くするくらいの一大イベントだということくらいだ」
「あらあら、そうなんですの」
そしてその祭りの全容を見ると、青年から成人男性がスカートを履いて練り歩く祭りだった。アリアが興奮していたのは男がスカートを履くことだったのか。あいつの性癖が怪しいところだ。
大体海外の祭りというのは奇祭が多かったりする。たしか俺がいた祭りだと、中東では打ち上げ花火をどこまで高く打ち上げれるかというのがあり、欧州の方では激坂をチーズを転がし、それを追いかける祭りがあったり、闘牛を街中に話して走らせたりとか色々ある。だが、それをバカにしていけない。現地の人たちはそれを誇りにして参加しているのだ。
……まぁ、日本もそれなりに奇祭が多いけどな。例えば男の陰部を御神体にして祭り上げる神事とか、男どもが褌一枚で冬の中すっぽんぽんの男を触るためにひしめき合うとか。
まぁそんなことどうでもいい話だ。
「なら、私たちを連れてきてもいいですの?」
「私たち?」
えぇ、とイザベルがいう。
「お祭りは人が多い方が面白いですのよ? ならウィッチの私たちが来たらもっと面白いと思うですの」
「いや、今お前たちはまだ入国審査中のようなものだろう?」
「でも、元々はノーバディーの人間ですの」
まぁ、そうだけどさぁ。
うーんと考えているとイザベルはくるりと後ろを向いた。
「じゃあ呼んで来ますの」
「あ、おい……たく」
遊女みたいな歩き方をしながら路地裏に向かっていった。男を連れて行かないよな?
こんなことアリアにバレたらどうなることやら……きっと雷が落ちるだろう。
ルーナが俺の元に戻ってくると俺の手を握りしめる。
「お兄ちゃん遊ぼう!」
「……そうだな」
この世界に来てそういえば半年ほどか……。いろんなことがあったなぁと、しみじみ思う。
ギルドに入り、竜と出会い、人形と出会い、仲間になっていろんな困難を打破して来た。それらは全て俺一人じゃなにも解決できなかったことだ。
「なぁ、ルーナ」
「ん、なに?」
白い髪がふわりと宙に浮き、紫がかった瞳が俺を見た。純粋な瞳を持つ少女はきっと俺の言葉を全て受け入れてくれるだろう。
【好きだ】と言いたくなる。
「……ありがとうな。なんか色々と」
「? ……どういたしまして?」
本当俺ってダメな奴だなぁ。
心の底からそう思った。
「お待たせしましたですの」
「おもったよりはやかっ……はぁ?」
俺は口をあんぐりと開けた。ルーナもびっくりした顔をしている。
「わぁ! これがお祭り!」
「あ、昨日の旦那様! またお会いしましたね! どうですか! 今夜あたり私と一夏の過ちでも!」
ウィッチを呼んでくるとは聞いていた。
しかし、その数【二百人強】とは聞いていない。全てが露出の高い女性で、目の前全てが肌色で目のやり場に困る。
「たくさん男性がいるよ! 選り取り見取りってこういうことなのかな! 下腹部がキュンキュンしちゃう」
「あれかな。お前がママになるんだよ! じゃなくて、あなたがパパになるのよっていったら男性は興奮するらしいわよ」
きゃーっ! と彼女たちは歓声を上げ、興奮する。
頭が痛い。どうしたらいいんだよこの状況……ベルは、あいついない。多分この状況から逃げたのだろう。あとでぶん殴る。
「ウィッチの皆さん待ってください」
ウィッチの皆さんが全員俺を見る。うぅ、肌色が多いうえに純粋な視線が俺に突き刺さる。そんなに見られると視線恐怖症になりそうだ。
「まず、ウィッチの皆さんには知ってもらいたいことがあります」
「なーにー?」
それは俺が今まで経験したことのないことだ。しかし俺が生まれることに必要なことであり、基本的には必要不可欠なことである。
「まず、この国では男性と女性は番になり、子どもを作るのが一般的でして……」
あぁ、結婚なんてしたことがないのに、なんで俺は結婚を知らない種族にそれを教えなければならないのだろうか。
ウィッチに教えながら心の中で涙を流した。
それから数日後、ノーバディーに一つの法律ができた。
【ノーバディーはウィッチの入国を許し、住民としての権利を譲渡する】
アリアライオネルの説得により重鎮を説き伏せ、ウィッチの受け入れを許可させた。
これでノーバディーは事実上ウィッチとヒューマンの多国籍国家となる。
これにて四章完結となります!
これからは少し更新遅れ気味になるかなぁ。忙しくなるので……!




