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魔法機構

「で、そのウィッチとやらは悪魔との契約によって何ができる?」

「何ができるって子どもを作るくらいしかできないですの」


 女の子限定だけど。と後をつけるようにいう。

 違うそうじゃないだろう。流石にこれ以上悪戯に会話を続けたとしても何も得することはないと見込んだ俺は真剣に話せと言わんばかりの剣幕でイザベルを睨みつけた。

 ロアの一番大きな屋敷の中に俺とイザベルが机を挟んで座っていた。ルーナ達は疲れたのかゆっくりと眠っていた。アイも特にここにいる必要がなかったので、悪い虫がつかないように二人の見張りを頼む。

 その視線すら特に感じない彼女はすずしいかおをして湯を淹れたばかりのティーポットに茶葉をいれ、少しの間放置してから陶器のコップに注ぐ。

 その陶器には奇妙な模様は宝石のように透き通った湯薬が塗られており指先が触れるとその模様は青く輝く。すると湯気が徐々に抑えられてゆき、そして消えていった。そしてその陶器のコップを俺に渡す。一度匂いを嗅いでからもう一度彼女を見た。

 何も言わずにこちらを見る黄色の瞳は何も悪い気持ちが現れてこない。

 一度口にすると、さっきまで湯気が立っていた紅茶はひんやりとした冷たさをはらんでいた。かといって紅茶の風味が逃げているわけでもなく、そのままの状態で冷やしたという表現に近い。


「……」

「あら、めずらしくて? 魔法機構(マギガクラフト)の技術ですの」

「マギガ……魔法?」


 マギガクラフトは見たことはないが、聞いたことはある。

 まぁ、漫画の世界の話だけど……。


「私たちウィッチは魔素の研究をしていたのですの」

「その結果悪魔と契約することによって魔素の研究を飛躍的に向上した代わりに子どもが女子しか生まれなくなっただろ?」

「ですの。しかし、その魔素の結果が魔法機構の技術ですの」


 イザベルもコップに紅茶を注ぎ湯気を散らすように飛ばし、そしてコップの紅茶を飲む。


「魔法機構の大元は竜や幻獣が魔素を行使する仕組みを解明しようしたのが始まりですの。魔素の研究に明け暮れていた私たちの始祖はその解明をする際、悪魔と契約したことによって【魔素の流れ】を見通す力を得ることができたのですの。その結果、竜と幻獣には血管と別の回路を持ち合わせていることに気づいたのですの。その回路は心臓を中心に回っているのですの。それを始祖は魔素回路と名付けたのですの」

「魔素回路……」


 イザベルがくすりと笑うとコップに指を二本浸す。そして机に二つの雫を落とすとそれを愛おしむように撫でて雫を経由して一つの円を作り出した。


「魔素とは簡単に言えば【生命の力】……他の言い方で言えば【マナ】や【オド】そういう類の根源に存在するものですの。魔素という原始物質が木の根のように構造を変形していき、マナという外界に満ちている力。オドという体内に内包する力のことを言うのですの」

「ルーナが言っていた魔素というのはその根源に存在するものなんだ……」


 つまり竜が使う魔法というのはその分類されない原始物質を使うことによって莫大なエネルギーとなるわけか……。そしてそれを体内に内包している。

 そういえばルスが生き物を捕まえた時にルーナが生き物を捕まえるなんて珍しいと言っていたが……ルスが狩猟をするのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「まるで霞を食う仙人じゃないか」

「センニンとはなんですの?」

「いや気にしないでくれ」


 つまりルーナの体内には莫大なエネルギーとなる物質が内包されているわけだ。実際そうでなければあの膂力とか斬撃を飛ばすことなんでできるわけがない。


「でも、お前たちウィッチにはその魔素回路がないのだろう? 使ったらどうなるんだ?」

「少なくとも何かしらの障害を持つということを理解して欲しいのですの、【魔素】を使用するなんて体が焼き切れて絶命なんて()()()()()()なのですのよ。竜は馬鹿げた存在で間違いはないですの」


 あの直ぐそばで竜のハーフがいるんです。もう少し声を抑えていただけないかしら? 内心ヒヤヒヤしながら俺は話を続けることを促す。


「なら【オド】を使えばいいと思うのが自然であるんですの。しかしそのオドとは私たちの生命力を削る行為ですの。使い切ればそこで生命活動が止まり、死に至るですのよ。逆に【マナ】を使えばいいと思考を変えていくのがさらに自然ですの」


 だが、イザベルは手をひらひらと動かし結果は良くなかったという仕草をする。


「マナとはいわば世界の生命力。地脈、霊脈、莫大なエネルギーを内包したものですの。それを汲み取る力を私たちは持ってなかったですの」

「汲み取る?」

「そうですね……旦那様、私たちは水車としましょう。水が流れれば私たちは回りますの」


 右手でくるくると回る力をみせる。


「そこに鉄砲水みたいな異物と混じり合ったような濁流が襲いかかると私たちはどうなるですの」

「粉々に砕ける」


 ご名答ですの。と口に当てていた右の人差し指を俺につけようとしたがそれを避けた。

つまり莫大な力に体がついてこれず体が壊れるっていうわけか。鉄砲水みたいな異物が混じり合った濁流……想像するだけでも恐怖を覚える。


「じゃあその魔素回路はどうやって獲得したんだよ」

「簡単ですの。私たちに魔素回路がないのならば、魔素回路を持つものから奪えばいいのですの」


 そう言って取り出したのはオイルライターのような代物だった。そのふたを開けると暖炉にあった炎が揺らめき、その光がライターに集まるとそれを閉じ込めるようにふたを閉じる。

 あたりが暗くなり月明かりによって仄かに見えるイザベルの黄色の瞳が俺を見ていた。


「これは雷光虫(らいこうちゅう)の甲殻で作った集約灯(しゅうやくとう)ですの。光に関するものを集める性質があり、明かりを消したりつけたりすることができる魔法機構(マギガクラフト)ですの」

「なるほど、魔素回路を持っている生き物を素材にして俺たちがもっていない魔素回路を使えるようにしているのか」

「そうですの。お察しのいい旦那様は好かれやすいのですの」


 ニッコリと微笑み俺をベタ誉めする彼女に俺は顔を赤くそめ、目をそらした。

 それを確認しようと彼女がまた集約灯の蓋を開いて暖炉の火をつけた。


 本当(たち)の悪い女だ。と俺は思った。


「ウィッチの存在をわかっていただけましたですの」

「まぁ、大体は……」


右目を閉じて状況を飲み込む。


「なぁ、連れ去った男性は」

「きっと今頃沢山の私たちと交りをしていると思うんですのよ」

「それって犯罪だと知っているか? 誘拐だぞ?」

「これが私たちの子孫を作るためですの。大きな力にはそれと同等の価値を差し出すのが摂理、真理ですのよ? 始祖はそのことを了承して悪魔と契約をしたのだと思うのですの。そしてその結果は私たちウィッチの誇りであり、生きる意味ですの」

「……なるほどなぁ」


そう呟くしか俺にはできなかった。




月明かりが綺麗に窓に差し込まれている。その月明かりは青白いような碧色の明かりだ。それをぼんやりと眺めていた俺は考えていた。外は変わらず夜の世界だ。ネオンのような甘い光がちらちらと目につく。まるで幻想のような世界だ。


どうしたらこの状況を打破できるのか。


ウィッチは伝統で子孫を残すために誘拐をしている。そしてノーバディーは誘拐した犯人を突き止めようとしている。

ウィッチに加担すればこの状況が続いていく。ノーバディーに状況を報告したとしてウィッチの存在を屠ろうとするだろうか。きっと何かしらの事件が起きるのは一目瞭然だった。


「人類みんな平和にはならないんだなぁ」


いつの時代も、差別や格差……それが存在していた。俺も差別や偏見を持っている。

だから平和にならない。


「いや違う」


俺はそれを否定した。

平和になる方法なんていくらでもある。差別や偏見があるならば、それを許容できるようにすればいいんだ。


「……ミチナシ?」

「……ベルか。珍しいなこの時間に起きているとか。明日は天変地異でもおきるか?」

「酷いこというなら次はその首ねじり切るよ?」

「おー、こわいこわい」


隣いい? と彼女の問いかけに俺はどうぞと横にずれる。

隣に座ると彼女からは仄かに懐かしい匂いが漂った。ルーナのような甘い匂いではなく、アイのような匂いのしないものではなく、こうもっと本質的に懐かしいと感じる匂いだ。


「何か企んでいたの?」

「人類が平和的に解決する方法を考えていた」

「へぇ? ウィッチも【助けよう】とするんだ」

「それってどういう」


彼女は悪戯っぽく笑い、腕で足を抱えてこちらを見てきた。太ももにかけてシースルーのネグリジェがめくれている。うっすらとだが下着も目を凝らせば見えるのだろう。ドキドキした。性格がクズなのに格好だけは本当十人すれ違えば十人が振り向くような美貌に俺は目をそらす。

その彼女は神だからこそできる表情……というべきか。ずっと俺たちを眺めてきたという顔を俺にしてきた。


「ルーナちゃんも、アイも、タストにいたギルドの人たちも、全部助けてるじゃない」

「助けてなにがおかしい」

「別に? ただなにもかも助けようとするミチナシの姿に私は感心しているだけよ」


くすくすと笑う彼女に俺は苛立ちを覚えた。


「お前はなにが言いたい。なにもできないくせに」

「そう、私はなにもできない。でも、ミチナシの側でその姿を見ることくらいはできる」


流れるように、まるで風に吹かれた紙のように俺の胸へ体を預けてきた。


「……え?」

「ミチナシのその頑張ってるところ私は知ってるから」

「え、なん」


はい、おしまい。といってベルは離れる。


「たまにはこういうのもいいでしょ?」


いつものベルに戻ったところで俺は沸騰しそうなくらいに顔が赤くなったのを感じる。

くそ、本当こいつ、いいところがあるのに見せるの下手くそなんだから……。


「……そうじゃん。いい方法思いついた」

「お、なんかいいこと思いついたの?」

「まぁ、多分うまくいけばの話だけど……」


確信はない。しかしやるだけの意味がある。


「【あるものは全部使うのが信条】のミチナシなんでしょ? やれることは今のうちにやっておくべきだと私は思うよ」

「どうも」


本当神っていうのは気まぐれで狡猾で、そして思慮深い。

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