国王アリアライオネル
胃がキリキリする。
タストバードラーの屋敷の時はしいて緊張するようなことはなかった。まぁ、バードラーに会った時は牢屋だし緊張する前に面識があるというので緊張はなかった。
しっかし相手が人類国女王となれば話は別だ。
初対面でしかも一国の王だろう?
自分の体が緊張で震えていた。
「お兄ちゃん。冷や汗が出てる」
王城の中。会議室みたいな何十人もの人が収納できるような一室の真ん中に豪華な装飾のマットがあり、そしてそのマットの上には金装飾とガラス。そして綺麗な花瓶に飾られた花がある。その花から感じ取れる匂いは俺が今まで生きてきた中で感じたことのない匂いだ。
「だ、大丈夫。俺は何も悪くない。俺は何も悪くない」
「アイちゃん、お兄ちゃん壊れそう」
「ルーナ様。ミチナシ様はただいま何か悪いことが起きるんじゃないかと不安になられているのです」
アイが人差し指を立ててルーナに説明する。
「まず庶民である私たちがなぜここに呼ばれた理由がわからない時点でミチナシ様は半分だけ犯罪に関わっているんじゃないかと思われます」
おい、さらりとひどいこと言うな。何気に自慢げな顔をするし、それ自慢して言うものじゃないからな。
アイの言葉にルーナは心配した顔で俺の肩に触れる。
「お兄ちゃん、大丈夫だよ。きっと何も悪くない、いろんなことしてきたじゃない」
だといいんだけどな。
頭を両手で抱えて今の状況が早く終わってほしいと心から願った。
バカ女神は相変わらず机になっている花を見たり壁に飾られている絵を見たりと緊張していない様子だし。
本当お前みたいなマイペースが羨ましいよ。
「お待たせしました。アリアライオネル陛下がいらっしゃいます」
「は、はい」
部屋の扉が開き、執事服の男性が顔を出して俺たちに女王がくると告げてくる。
背筋がピーンと伸びてしまった。
執事が扉からやや離れたところに立った。あれ、普通なら扉を開けるくらいするのが執事じゃないのか? 閉め切らずに少しだけ開けているのにも不可解に感じる。
カツンと音が鳴り響く。ヒールのような甲高い音だ。そして、その音がだんだん近付いてくる。
生唾を飲んだ。
バーンと扉が開く。その勢いによって、近くにあった花瓶が乗っている台座が横に倒れた。
花瓶がゆっくりと傾いて行くと執事が花瓶を受け止め大事にはならなかった。というか花瓶と近くにいなかったよな。結構遠いところにいたよなあんた。まるで手慣れた手つきで花瓶を受け止めるあたりこういうことが何度もあったのだろう。
その扉を思い切り開けたやつは、手を前に突き出してイェーイという顔をしているのは金髪碧眼の【少女】だ。俺よりも年端の行かない身長と顔をしている。ルーナよりも(外見が)幼く見えてしまう。
「お兄ちゃんいま絶対変なこと考えたでしょ?」
ルーナがジロリと俺を見つめている。さっきまで優しい君はどこにいったのだい。
「い、いいや?」
「でも、いま外見だけって聞こえたんだけど」
「気のせいだ」
即答した。多分。
その金髪碧眼の少女が前に進もうとした瞬間、勢いよく開いた扉が反動で帰ってくると少女の顔面を思い切り平手打ちのごとく衝突する。
「ぶっ!」
「……」
あぁ、あれは痛いよな。多分思い切り鼻の頭をぶつけているだろう。痛すぎる。
うぉぉ……! と顔を抑えて痛みに耐えている姿が居た堪れず、扉はゆっくりと締まって行く。
「失礼しました。すぐにお連れいたします」
特に慌てることもなく執事は部屋を出た。扉の向こうから聞こえるのはガミガミと聞こえる男性声と泣きそうな女性の声の嵐。
うっすらと聞こえている情報を聞くあたり、【威厳を持って】入るというのを失敗したらしい。
それを聞いているベルを除いた俺たちは呆然としている。そしてお互いがお互いの顔を見て、もう一度扉を見つめる。
は、はは。
「なんなんだよ」
「よくきたわね! ミチナシとやら!」
どーんと言わんばかりの自慢げな表情に俺は白けた顔をしている。鼻が赤いし、なによりとやらってなんだよ。とやらって。
会議室みたいな広い部屋の中。俺たちは椅子に座っておりその対面、机を挟んでアリアが座っていた。その二人の間にはお茶や、菓子などが置かれておりルーナとベルはその菓子を一口入れると恍惚な顔をしてもう一口と口に運んでいる。流石にその二人を交えて会話をするのはどうかと思ったため、アイに頼んでルーナとベルに沢山のお菓子を持たせて遠いところに行ってもらうことにした。
二人を遠くに追いやったあとアイが帰ってくるのを確認してから、アリアを見つめ返す。
「私はアリアライオネル! 人類国ノーバディーを治める王は私のことよ!」
威風堂々。一言で彼女を説明するならそれに尽きる。青いドレスを着こなし、肩からは白いファーが付いているややボロボロのマントを付けている。そして何より頭には王冠なのか、ティアラなのかわけわからないものが載せ【られ】ていた。
「あ、えっとアリアライオネル陛下?」
「アリアでいいわよ」
「いやいや、女王を呼び捨てとかどうかと思いますが?」
「そうです、アリアライアネル陛下様。ミチナシ様に敬称略をされると今後調子に乗られた時に困ってしまいます」
「おい、さらっと俺が酷い奴だ、気をつけろ。みたいな発言をやめろ」
アイの口の悪さを注意すると、アイはテンプレですよね? 見たいな顔をして俺を見てくる。違うからな。
アリアはむーっとした顔をして俺を見た。どうやら対等の関係で話したいようだ。その魂胆にそうやすやすと乗れるほど俺の器は大きくもないの
だが、アリアライオネル陛下とずっといっていればそのうちご機嫌が斜めになり話にもならないだろう。
上の人間とはそういう生き物だからな。
色々悩んだ結果、口を開いた。
「わかりました。【アリア陛下】」
「とっても気に入らないけど仕方ないわね」
俺たちに納得するしかないアリアはその落とし所を選んだ。
「で、なぜ俺たちを呼んだのです?」
俺が知りたかったのはそれだった。活動をタストから一歩も広げていない俺にとってこの招待はイレギュラーでしかない。ましてや誰が俺たちをこの国王に教えたんだ?
「魔物……三種族の【魔獣】を倒したんだって?」
机に肘を付け、手を組んで俺たちを品定めするかのように見てくる。碧眼の目は前いた世界では画像でしか見たことがなかったが、澄んだ瞳をしていた。空のように青くところどころが雲のような濁りがあるがそれでも澄んだ瞳をしている。
「魔獣……ですか」
「そう魔獣。君が倒したあのでかい化け物たちだ」
でかい化け物。つまり、あの哺乳類と、鳥類と、昆虫のやつであることには間違いない。
さて、どう答えるべきか。
「お言葉ですが、俺一人でやっていません。むしろ俺は【何もしていない】」
ほう? と面白そうな表情をアリアがする。
そうだ。実際俺は魔獣を倒したことは一度もない。策を練って、失敗して、最終的に結果オーライとなったものばかりだ。その分犠牲ができて、その分町の人に嫌われて、その分仲間ができた。いいことがあれば悪いことがあるという言葉があるように。
だから俺は何もしていないし、できていない。
「奴らを倒したのはここにいるみんなです。だから俺を呼んだことは間違っている」
「へぇ? 面白いことを言うね」
アリアは幼いながらも達観した目で俺を見つめている。背中の汗が流れた。
「ならみんなで倒したということで」
「あぁ、みんなで倒した」
空気が緩むとルーナが俺の元へと歩いてくる。そして終わった? という顔をしているため、隣に座らことを促すと嬉しそうに座った。
「かわいいね。名前は?」
「ルーナ……ルーナシンセザリック」
「ルーナちゃんか。よろしく。私は人類国ノーバディーの女王をやらされてるアリアライオネルよ」
「……アリア?」
うん。と子供っぽく笑いかける。するとぱあっと花が開くようにルーナは笑顔になった。
「じょおうさま」
「アリアでいいわ。お菓子まだあるけど食べる?」
「うん! いいの?」
いいわよ。というと執事を呼ぶ。すると執事がお盆の上には山に盛ってやってきた。二人が興奮して頂戴頂戴と手が伸びている姿がまるで、餌を求める雛鳥のようだ。
「ウチの者がすいません」
「いいのよ。それより魔獣のことについて色々教えてくれない? 今日はそれについて話したいの」
だから呼んだのよ。とニコニコとアリアは笑顔を作った。
「話せば長くなりますよ」
そういやいや思いながら、俺はこれまでに起きたことを一から全部教えることにしたのだった。




