印璽と封蝋
翌日になった。あたーらしーいーあーさがきたー。きぼーのあーさーが。
多分あっていると思う。
なぜそんなに機嫌が悪いのかと?
いやいや、タイトルすら知らない曲を歌って無理やり音程合わせているあたりこれは機嫌がいいのだろう。
嘘をついた。
俺の立場が悪い。いやもうこれにもなく立場が悪かった。
いや別にあれだよ。メイドにルーナと一緒にお風呂に入ったのを見つかって、貴方の部屋がなくなりました。ではないのだ。
結果的にいうと、もっと知られてほしくない奴に見つかった。というのが俺の立場が悪くなった要因である。
「変態」
「……」
その根源である奴は、俺の目の前で肉を食べてる。表面をこんがり焼き目をつけてあり、薄切りにしてある。いかにも高そうなやつだ。タストではでないレベルの。それを何種類もある塩が小皿に盛り付けられており、付けるために準備してある。それを一口食べるごとに先ほどの発言を受けていた。
なんでだよ。俺悪くないだろう。そう思いながら俺は不味いパンをスープに浸して口にする。スープも本当に出汁があるのかわからないような味に辟易とする。多分塩か胡椒が足りていない。あと、出汁といってもこのスープに沈んでいる塩漬けの肉だろう。
日本人としての味覚がこの料理はクソだと訴えかけている。多分最近むなしく感じるのはきっとグルタミン酸のせいに違いない。旨味がない。まるで地獄だ。
これじゃぁ、おいしさもないじゃないか。せめて鶏の骨で出汁をとりたまえよ。メイドだろう。
「あのさぁ……ベル?」
「なに? 変態」
……。イラっとするなぁ。朝から苛つかせるのは本当やめてくれないかな。朝食もまずいし……倦怠期の夫婦か俺らは。
「ルーナがお前の歯ぎしりがうるさすぎてねれなかったんだと」
「なっ」
俺に身を乗り出してきた。近い近い。綺麗な歯をしているのに歯ぎしりとかなぁ……。
それに乗せてルーナも申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
「ごめんね。正直ベルお姉ちゃんの歯ぎしりって結構響くと思うの」
「そんな……私は完璧のはず……!」
「いや、全然そんなところ見たことないんだけど? むしろお前が完璧だったところを拝んだことすらないわ」
ぬーん。と某外国為替がどうたらを溶かした顔をしたベル。やっと機能停止をしたか。
アイが食器を重ねてカウンターへと持って行きルーナはそのあとをついていくようにお茶などをコップに注いで持ってくる。
一通り食事を終えた後、俺はルーナが持ってきたお茶を一口飲んだ後、なんとなくな雰囲気で計画を切り出した。
「今日は手っ取り早く俺を呼んだ奴の顔を拝みに行くとしますか」
「おー!」
ルーナはその意見に賛成している。対するベルはえー。という顔をしていた。
「観光はしないの? 早めに来て観光をすると言ってたじゃない」
「今日は中止します!」
「ですがミチナシ様。私たちは観光で来たのでは」
「お前の記憶はずれている今すぐ書き直せ」
正直ノーバディーの評価はガタ落ちである。男女差別が激しいし、部屋もぼったくるし、警備隊なんて国民の話を聞こうともしない。あ、最後はわざとだっけ。まぁいいや。
「とりあえずこの招待状の差出人がよくわからんのだよ」
そう鞄から取り出した封書を取り出すとそれをひらひらと扇ぐ。
「まず考えてみるとバードラーさんが俺によこしたということは密書で間違い無いだろう。宿に直接渡すことによって弊害が起きると考えていいわけだし」
なんせ直接渡そうと思うくらいなのだ。これはそれくらい大事なものであるってことだ。
「一番手っ取り早いのはそこにいるメイドなんだけど……」
昨日のこともあって正直声を掛け辛い。相変わらず警戒心丸出しなわけだし……。
と考えれば一番の最善手はジャックか、馬車のおっさんがいる商会か。
「ジャックじゃない?」
ベルがけろっと立ち直り選択肢の支持をした。
「でも、あいつとはこれからも接することないんだよなぁ」
「なんで?」
「なかまにならないか? っていって振られたんだよ。ミチナシお兄ちゃん」
「……」
ルーナ言っていいことがあるんだよ。あれ地味にへこんだんだぞ?
ベルはへぇ? と面白そうな顔をするし。あぁ面倒くさい。
「あー、もうめんどくさいな。あいつらに話しかけることにする」
そういって乱暴に立ち上がるとメイドのもとへと歩いてゆく。昨日機嫌が悪い奴が今日も機嫌悪いのを確認したメイドは警戒をしながらこちらが来るのを待っていた。そして俺はカウンターに手を乗せると封書をカウンターに乗せる。
「なぁ、悪いんだけど、これの差出人とかわかるか? 俺たちはこれのせいで、この国に来る羽目になったんだ」
「そんなこと私たちが……」
そう否定をしようと口にすると驚いた顔をしてその封書を凝視した。
「それをどこで?」
「いや、だから俺たちはこの封書を受け取ってこの国に来いって言われたんだよ」
その封書をメイドに渡すと、何度も見直すように見つめている。
「で、それは一体何なんだよ」
「ノーバディー 女王の封蝋。印璽の模様……間違いない」
メイドがしまったという顔をした。誰に? 俺にだ。
「……貴方……【様】は一体」
なぁるほどな。ニヤリと笑った。今の態度でこの封書がどこまでやばい代物なのかわかったからであり、そしてこの封書の価値がメイドにとって脅かされる代物だと理解したからだ。
「ここが封書の主人の家ね」
「ルーナ、再三いうがそのセリフは本当やめて」
嫌そうな顔をして俺は腕を組んで仁王立ちをしているルーナの言葉に非難をした。人見知りなのに俺たちの前だけでは胸を張ってるとか内弁慶にもほどがあるんじゃないかな、と不安だった。
それにしても王女で、しかもノーバディーには国王がいないとはね……ますます昔、国に処女を捧げた女王の国を彷彿させる。
詳しくいうのを忘れていたためざっくり言うが、まず国の構造的には大きな川が南から北にかけて一本蛇が蛇行したかのように流れている。俺たちが最初に入ってきたのはノーバディーの東側で、俺たちが借りた宿も東側だ。だいたい東側というのは商業や、宿泊、その他諸々を主としているらしく大体のノーバディーに観光または入国してくる人というのは東側に用事があるとか。
そして西側というのが政治や、勉学などに関係しているのが主のようで、金持ちやお偉い様というのがそっち側にいる。または西側からやってくるらしい。
何でこっちからきたし、俺はぁ!?
「その女王が俺に何の用事なのやら」
「あれじゃないの? 女王が魔物を倒したという話を聞いて見惚れられたとか」
ベルが茶々を入れてくる。
ゆらりと陽炎が見えてきた。やめろルーナ、溶けるし、熱い。
「お兄ちゃんは個の!」
「いえ、ルーナ様、ベル様が言ったのはきっと冗談です」
「え、そうなの?」
「それにミチナシ様は私のモノです」
「アイ違うわよ。あいつは私の」
「お前らいい加減にしとけよ!?」
俺の被害が増えるだけじゃないか。畜生め。
「とりあえず中に入るぞ! さっさと終わらせて帰る! それが当分の目標だ!」
さっさと入ってしまおう。
西側に入るにはまず大きな橋を渡らなければならない。馬鹿でかい華やかな装飾をされている橋はいろんな人たちが歩いており、馬車が何台も走っていてもビクともしないくらいのやつだった。
その橋から向こうは壁があり、中が見えない。この向こうには何があるのかと一男子興味がわくがきっと面白くないのだろう。
橋を渡りきると壁にはまた検問官がおり、一人一人西側に入る理由などを聞いている。順番に並んでいるのを確認した後俺たちも並ぶことにした。
「いいか? 絶対に変なことをするなよ。特にベル、お前だ」
「何で私だけなの? ルーナちゃんも、アイもたまに変なこと言うじゃない」
「たまにだろ!? お前はいつも何だよ」
連れてこないほうがよかったかなぁ。と後悔する。
ルーナとアイはコクリと頷くと静かに俺の後をついた。
何もなく進んでいくと俺たちの番になる。
「おはようございます、西側に何の用で?」
「ノーバディー女王に呼ばれてきました」
目を見開いて俺を見た。いやたしかにそう思うよ。だってどこにでもいる平民の服装なんだから。しょうがない。
「失礼ですが、なにか証明できるものは?」
「封書が来ていてその封蝋についている印璽が」
そう言って封書を取り出し確認してもらう。それを見た後検問官が改まった態度で礼をして来た。本当に前例のないことなんだろうな。と実感した。
「失礼しました。ミチナシ様」
改まって話されるとなんか居心地が悪いなぁ。
「いいんです。後ろの三人も一緒に連れて行ってもいいですよね」
「はい、歩くのは大変だと思うので王城まで馬車でお連れします」
ここまで懇切丁寧にされる。あの東側の時のあの態度を思い出した。
検問官がどうぞと俺たちを通した後、後ろに控えていた検問官と同じ服装の人が誘導し、俺たちを引き留める。いたせりつくせりでこちらの頭が下がってしまうほどだ。
「すぐに用意しますのでお待ちください」
「あ、どうも……」
「すっごいね。ミチナシお兄ちゃん」
「お偉い様ですよ。ミチナシ様」
いや本当。居心地が悪すぎて虫の居所が悪い。足が地についていないとか言い方が様々だった。
ぼんやりと俺たちは並んで近くのベンチに座ると人の流れを見ていた。少しずつ少しずつ通っていく人を見ているとまるで濾過をして綺麗なものしか通さないような濾紙の役割だなと見つめていた。
「色んな人がいるね」
ルーナがぽそりと口にする。
「お前もその一人だ」
「そうだね」
左隣に座っていたルーナは寄りかかってきた。柔らかい匂いと柔らかい人肌に俺の胸は高鳴っていた。
思い出す、昨日の風呂の出来事。
あの時ルーナはどんな気持ちで俺に言ったんだろうか。今では何気ないやり取りの中でも俺は少しばかり彼女を意識するようになっていた。
しばらくすると馬車が到着する。
「お待たせしました」
馭者がお辞儀をしながら俺たちを招き入れる。
貴族がなりそうな優雅な乗り物に俺たちは生唾をゴクリと飲んだ。
王城につくのもそんなに時間がかからなかったが、俺たちは特に話すこともなく、それにベルもなにも言わなかったため時間は長く感じた。
「この感覚知ってる。高校とか大学の時に面接する直前の感覚だ」
「面接?」
「気にするな、過去のトラウマを聞くんじゃない」
身震いをしながら胃がキリキリするのを我慢していた。




