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自己紹介そして目的

 夜のベースキャンプは盛り上がっていた。それぞれベースキャンプで焚火をしている。数は四つくらい。

 聞くところによれば、俺が所属しているパーティが一番多く魔物を討伐していたらしい。ざまぁみろだ。


「がはっはっは、今日もいい感じに討伐できたな」

「そうなんですか?」

「いやぁ、ここまで効率よく倒せるのはダーシュさんのおかげですよ」

「尊敬します!」


 おっさん……ダーシュさんと俺を除くパーティが和気あいあいとはなしている。俺はぼんやりと焚火で沸騰した湯で沸かした茶を飲んでいた。あ、ほんのりと甘くておいしいかも。


「ダーシュさんの槍さばきは訓練されたような気がしたんですけど、昔は何かしていたのですか?」

「まぁ、色々とな」


  とダーシュさんは質問をはぐらかすような返事をする。聞かれたくないのだろうか。いや僕も聞かれたくないけどね。異世界で学生をしていたなんて言えない。冷や汗ものだ。


「ミチナシさんも、最初は剣の持ち方がおぼつかない感じでしたがみるみる上達してますね。このままいけばいい線まで行くんじゃないでしょうか」


  あ、そうなの? 嬉しいな。と素直に言えない俺は、ぶっきらぼうに「どうも」と答えるだけだった。


「ここらで自己紹介しねえか?」


 ダーシュさんがお酒を飲んでいて出来上がっているのか声を上げた。それは唐突のことではなく、ひとしきり漫談したあとの、静寂が宿った時だった。


「いいですね」

「そうですね。誰からしますか?」

「え、いや俺は」

「いいじゃねえか、お互い助け合った仲だろう?」


 ダーシュさんが赤い顔をして俺を見てきた。仕方ない……ここは乗るしかないのか。作り話でも考えないとなぁ。


「じゃあじゃあ! 私から! 私はニールって言います。好きなものは裁縫とかの細かいものです」


 すっごい女の子って感じだ。初めはフードをかぶってよくわからなかったけど、いまは私服で、女性特有のラインが見えていたりと色っぽい。


「なんでギルドに?」

「私の家族は貧乏だから、お父さんもギルドに入っていたんだけど行方不明になってお金がなくなったから……だから今度は私が頑張って親孝行する番なんだ」

「……がんばってるんだな」

「いい娘さんじゃないか」


 確かにいい子ではあるが……こんなに難しい家族構成というか……この世界は結構暗い部分が見え隠れしている。割とこの世界ブラックだ。

 そしてそれを頑張っているで片付けるあたりも気が狂ってる気がしてならない。


「他の皆さんは?」

「じゃあ僕も、アレストと言います。元々は他の街で警備隊をやっていて武器の取り扱いはそれなりに訓練しています。こちらにきたのはつい最近でして、仕事も警備隊がなかったしギルドに加入することにしました」

「あぁ、だから長剣をつかっていたのか」

「昔取った杵柄みたいなものですよ」

「でもあの体捌きといい、長剣のリーチを生かした太刀筋は訓練の賜物だと思うが。さすが警備隊というところか」


 ダーシュが上機嫌で褒めちぎる。アレストは気恥ずかしいようで焚き火で元々赤い顔をさらに赤くして飲み物を飲んだ。

 お茶も飲み干しある程度ネタを集めたわけだし、今度は俺かな……?

 じゃあとニールが口を開いた。


「次はミチナシさん」


 視線の矛先は俺にきた。

 こほんと咳払いをした後、嘘を話し始める。


「ミチナシだ。元々は極東という東の果てにある国の時代遅れの旧家出身で、ちょっとした道場をしていた。でも俺はそういうのには興味がなくてね、跡取りもせず自分のやりたいようにやっていたら、親父にここにいても何もしないなら殺してやると言われて、一人出奔したってところだ」

「極東って?」


  ニールが極東について興味を示した。


「そこは小さな島国で、周りには海しかない国だね。でも、独自の文化があって、周りには干渉しないし干渉されないとかで閉鎖的だった。そして、日が最初に登ると謳われているところだ」


  ただし、これは今から二百年ほど前だったがとはあえて言わなかった。アレストは顎に手をやって考えており、ダーシュはお酒を呷るだけだ。


「そうなんですか」

「ミチナシの親父は怖いなぁ」

「まぁ、長男が跡取りとして動かないのが癪に触ったんだろうな」


 もちろんウソではあるが。


「それより、長男が跡を取るっていうのはそういう文化だったの?」


  え? とミチナシはアレストの発言に疑問を持つ。


「いや、この地域一帯は跡取りというか能力が高いものが跡を継ぐのが定石だというか」


 いや、この地域って言われてもまだ来て一日目というか、この世界に生れ落ちて一日も経ってないというか。どういう反応していいのか悩んだ末に。


「そうなんですか。いやぁ、閉鎖的空間で生きていたのでよくわかりません」


 鎖国ってすっごい役に立つ。感謝、日本の歴史!


「じゃあ、最後にダーシュさんの話ですね」

「んー? 俺も話をしなきゃいけないのか?」

「そりゃそうでしょう? 私たちの話をしたんだから今度はダーシュさんですよ!」


 たしかにおっさんがなぜこんなに強いのに、こんな初心者のクエストにいるのだろうか。確かに気になる。


「しかたないな……ダーシュというのは俺の友人の名前だ」

「……じゃあ本当の名前は?」

「捨てたよ。名乗る意味もない。弱い人間の名前だ」


 おっさんは隣に置いてあった槍を大事そうになでる。


「元々俺はこの世界の人間じゃなかった。不幸なことに死んだ俺はこの世界に蘇った。そして魔王を倒せという使命をうけたんだ」


 ……ん? まってそれどっかで聞いたような覚えがあるぞ? 周りもえ? 何行ってるんだろう? って顔をしている。いやー、そこは聞きそびれた方がいいぞ。と冷や汗を流した。


「俺はここに転生すると同時に恩恵を受けた。といっても肉体的な向上しかないんだがな」


 あー、だから。あの大きな魔物を背負い投げできるような力を持っているのか。ってそういうのじゃない。この人俺と一緒だ。俺と同じ転生者だ。

 だからそんな簡単に魔物を倒せるんだから、この場にいるのだろう。つまりこいつも他のやつと同じ簡単なクエストをこなす初心者殺しというわけか。


「俺はその途中でダーシュと出会った。あいつは背中を預けれるようないい奴だったんだが……このクエストをやっている途中で馬鹿でかい魔物にあってな……そいつに殺された」

「……だから、ここでずっと戦っているのですね」

「戦っている……っていうより、復讐さ」

「……」


 全然違った。見てわかる、このおっさんはずっと、このクエストをやっている。転生者であるのならば、俺と同じ素人のはず。そして、そのおっさんの手はこれ以上にないくらいの傷跡と、肉刺の潰れたあとが地層のようになっている。

俺はその決意のこもった姿に応援をしたくなった。


「見つかるといいな」

「もとよりそのつもりだ」

「……って僕たちもですか!?」


アレストが思わず声を荒らげた。

 おっさんはそんなわけがないだろうとこたえた。いや、俺も嫌だよ? 大きな敵を倒さなきゃいけないのを巻き込まれるのはごめん被る。


「そいつは俺がやる。あいつは群れを成して行動する。雑魚は君たちに任せたい」


 三者三様顔を見合わせた。


そして朝になる。

いったん休憩シーンです。目的を改めてする話です。

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