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人生の洗濯である風呂に問題を持ち込むな

 ジャックを見送り、俺とルーナはしばらく喫茶店で過ごしたあと宿に戻った。

 相変わらずメイドからの視線は痛いわけで、このまま視線を浴び続けたらきっと俺は視線恐怖症になりかねない。正直なんでこうなったんだと後悔している。ルーナがニコニコと俺の状況を読まず軽やかに自室に戻っていく。ベルがきっと部屋で寝ているだろう。幸せ者め。

 さっさと終わらせてタストにかえりたい。と心の底から思った。


「メイドさんよ。風呂って俺は入れるのか?」


 カウンターまで赴いた俺はメイドに声をかける。案内をしてくれたメイドが俺に近寄ってくるときっぱりと答えた。


「男性の予定はございません」

「今後も?」

「えぇ」


 ニッコリと笑いかける彼女の顔には何が書いてあるかすぐにわかった。

 実はあの部屋無駄にぼったくられていた。四人部屋が一泊銀貨三枚と銅貨四十枚で、俺の個室が銀貨二枚と銅貨六十枚。合わせて銀貨六枚だ。

 たった二畳しかないあの部屋に銀貨二枚も払わなきゃいけないことには目をつぶった。サービスとか他があるかもしれないと思ったからだ。

 しかし風呂もない? ふざけるんじゃない。

 それに対して俺はふつふつと胃の中の物が煮えるのを感じた。


「わざわざ二つの部屋を頼んでるんだぞ? たまにはそういうサービスをしてくれてもいいんじゃないかな? 別にしないというならここはそういうところだと、言いふらしてやってもいいんだぞ?」


 正直堪忍袋の緒が切れる一歩手前だ。男女で差別する宿なんかさっさと滅んじまえって心の底から思いながら強めに睨む。

 そんな俺の態度にさすがに言いすぎたかという顔をしたメイドはちらりとほかのメイドの顔をみる。そしてはぁ、とため息を漏らした。


「日が暗くなり、人が寝静まるあたりで浴室に行ってください。正直な話貴方を泊めること事態が異例なのですから」

「その異例をしたのは俺じゃなくてあんたたちなんだけどな?」


 そう意地悪そうに答えてその場を離れる。

 周りをキョロキョロしながら歩いているとやはり女性ばかりだなと改めて感じた。あまり外に出ないほうがいいと確信し、自室に戻るとベッドに横たわる。スッキリした。言いたいこといったし気分は少し晴れた。

 とりあえずベルとアイは自室で過ごしており、ルーナはお風呂に入っているところだろうか。


「暇だなぁ」


 そう口にした。暇すぎる。結局ノーバディーに入っただけで特に観光もしていないわけだし、ちょっと用事を済ませて終わるだけだろうか。

 欠伸を一つした後、ぼんやりと夕日の光で輝く埃を見ながら思いに耽る。


 今後どうなるのかを。ベルと、アイと、ルーナと……今後どう付き合っていくか。


 一寸先は闇とは本当だれが考えたのか教えて欲しいくらいだ。というか一寸先は闇といった人は一寸先の未来を知っているのか知りたい。


「ベルは魔王を倒したら信仰心を集めて人気者になりたいだっけ」


 神あるまじき愚行だな。と改めて卑下にした。そもそも神としてまともなことをしていないくせに。

 もっと神らしいことをしてくれよ。




 夜になり人気がなくなった宿の中を俺は歩いていた。右手には体を拭くようの大きな布と体を洗うための小さい布だ。俺がいた世界のタオルの方が別次元に質がいい。なんせこちらはただの綿タオルだからだ。硬いし、重たいし、ザラザラしている。


「風呂場っと」


 メイドから風呂場の場所をあらかじめ聞いていたために迷わずに風呂場に行くことができた。場所は一階の左奥。カウンターを一度前を通らなければならないためメイドがいるかジロリとみたがだれもいなかった。

 風呂場の入り口が一つしかない。ということはきっと女性専用なのだろう。

 たしか昔の宿も時間制で男女の切り替えをしていたっけ? まぁ、いっか。

 扉を開けると脱衣場が目の前にあった。ほんのりと女性の香水のような甘い匂いがした。さっきまで女性がいた脱衣場なのだろう。

 匂いフェチか俺は。


「さってと……」


 さっさと服を脱いで行き、風呂場へと入っていく。そこは室内ではあるが、夜中だからやはり外気は冷えており大事なところ以外布で隠している以外は裸の俺の肌は鳥肌になった。

 それに床が石畳でひんやりとした冷たさを持っていた。

 風呂は大きな石を並べられており、掘り下げられているようなもので一箇所だけ煙突みたいに積み上げられている場所があり、そこからこんこんと湯が出ている。

 おそらく源泉であり、落下させながら熱を下げて行き浴槽に入ることには多少熱めの温度になるようにしているのだろう。

 入ると体の芯から温まる温度で気分がいい。


「しっかし、極楽だな」


 だれもおらず、ただ一人ポツンと湯に浸かる。それなりにいい宿でいい湯で、女性専用の宿泊施設でなければ人気だっただろう。


「俺のところの宿は風呂なんてなかったしな」


 俺が部屋を借りていたところはサウナで汗をひとしきり流した後に、冷水であたまから被るのが普通だったわけで……。

 思い出しただけで身が震える。


「それにしてもこの湯ヌルヌルするなぁ」


 きっとアルカリ性の強い温泉なんだろう。温泉を飲む人は昔いたはずだけど流石に女性が入っていた浴槽の湯を飲むのはどうかなと道徳的に考えた。

 ガチャンと扉が開く音がした。

 ギョッとした。なぜなら俺以外の男性はいないからだ。こんな時間にだれも起きていないだろうと思っていたのにまさかの? である。


 もしこれで俺の知り合いじゃない奴がいたら俺はきっと縄を頂戴しかねない。

 慌てて隠れる場所を探すが残念なことに隠れる場所は全くなかった。

 だんだん影が見えてくる。白く細い足がうっすらと見えてきた。あぁ、希望がなくなった。あの足はきっと女だ。


 あぁ、もうだめだ。俺の人生さようなら。


 目を閉じた。何もかもを受け入れよう。変質者かな。変態かな。ははは。


「あれ? 【お兄ちゃん】?」

「……」


 その声は知っていた。そしてお兄ちゃんと俺を呼ぶのはこの世で一人しかいない。

 目をうっすらと開けて覗き込むように見る。


 一糸纏わぬ姿のルーナがいた。


 布で前だけを隠してある。でも要所要所みてはいけない部分が多すぎる。思わず目をそらした、


「なんでここに?」

「それは俺が聞きたいんだけど?」


 いやいやいやいや、なんでルーナさんそこにいるんですか。落ち着いて話しているつもりだが完全に頭の中はパニックである。


「個はベルお姉ちゃんの歯ぎしりがうるさかったからお風呂に入ろうかなって」

「……この時間は男性が入る時間なんだ」

「え、そうなの?」


 恥ずかしくないのか? こいつ。変な時に恥ずかしくないとかルーナもおかしくなってきた……あ、いや恥ずかしがっていたのはベルであってルーナじゃなかったわ。


「でもせっかくだしお兄ちゃんと一緒に入る」


 この有様である。


「いや、だめだろう」

「なんで?」


 キョトンとした顔でこちらをみてくるルーナに俺はなんでと言われましてもという顔をした。

 世の中にはしていいことと悪いことがあるんですよ。ルーナさん。


「いや、その俺は男で、ルーナは女だろ? 節度っていうのがあってだな……」


 くしゅんっ! とルーナがくしゃみをする。裸でその場にいたからだろう。俺が悪い気がした。


「風呂に入れ。俺は出るから」


 と急いで風呂から出る。するとルーナは俺の腕に絡みついて俺が出るのを全力で阻止する。


「だめ」


 えぇ、いやほんと無理ですって、ほんとやめて下さい。童貞だけどやるときはやる人間なんですよ。

 自分の理性は結構ズタボロだった。このままアタックでもされたら本当にやばい。

 なにが? 全部だよ。クソッタレ。


「一緒に入る。なんなら今この場で叫んでもいいんだよ?」

「……」


 お前いつの間にそんなことを言えるようになったんだ? ルーナの頬がほんのり赤いことを鑑みてきっと恥ずかしいんだと思う。

 俺も恥ずかしいんだぞ? しかし、そう言われてしまっては何も言えまい。なんせ逃げたら叫ばれる。

 深くため息をついた後、俺は再び浴槽に浸かることにしたのだった。

 隣に寄りかかるようにルーナが風呂に入る。妙に積極的だったり身を引いちゃうんだよな……。肩がピタッと触れてるところが火傷しそうなくらい意識して熱い。


「ジャックの件残念だったね」

「……ソウデスネ」


 貶してるのかな? お兄ちゃん泣いちゃうよ?


「個はお兄ちゃん一人で十分だよ」


 ルーナを見た。彼女は顔を合わせず前を見て言う。


「個はベルお姉ちゃんと、アイちゃんとミチナシお兄ちゃんのみんなでいるのが好きなの」

「なん……」


 手でぱちゃぱちゃとお湯で遊ぶルーナの頭を見た。片方しか生えていない角。背中にある痛々しい傷跡。

 竜の誇りがなくなった彼女は何を持っているのだろうか。その考えもあまり時間を要さなかった。


「俺たち……か」

「?」


 しまった。一つの考えに支配されていた。ルーナは俺を見ていた。

 慌てた顔をして俺は言葉を用意する。


「……あ、えっとなんでもない」

「そっか」

「そうだよな。みんな大好きだからなぁ。俺もみんな大事だし、守ってやりたいって思うし」

「ミチナシお兄ちゃん」


 ははは。と笑いながら思ってること全部話していると俺の体にルーナの腕が巻きつくように抱きついてきた。あまりのことに俺はぴしっと固まってしまう。心臓が突然のことすぎてなんだこら! と怒っている。胸とか、胸とか、胸とか、当たってますよ! ルーナさん!

 あの、何が起きたの!? 振り解こうと思ったが割と強い力で俺を抱きしめている。割と苦しい。


「個はお兄ちゃんが好きだよ」


 苦しそうにルーナがいう。目を閉じて思いの丈を伝えようとしている。


「知ってる。仲間とかだろ?」

「違うよ」


 きっぱりと。彼女は俺の知っている【ふり】を否定した。


「個はお兄ちゃんのことを愛してるの」


 あぁ、言っちゃったか。

 もうだめだ。聞いてしまった。もうだめだ。

 それだけは聞きたくなかった。本当に聞きたくなかった。

 リセットボタンとかありませんか? あったら是非下さい。今すぐにでも迷わず押したいから。


 あるわけないよな。ははは。


「俺は……」

「ルーナちゃん! お風呂に行くなら一緒に行こうって言ったじゃない!」


 ばぁぁぁぁん! とその空気を壊して行く。


 いやぁ眼福っすな。主に一糸纏わぬ超絶美人の裸なんて。


 バカだけど。


「ぎにゃぁぁぁぁぁぁ!? ミチナシがなんでここに!? いやなんでルーナちゃんと一緒に!?」

「ばっ」

「ベルお姉ちゃん! しー!」


 あぁ、もう女神がいて良かったと心底思った。

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