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一人では成立せず、二人で成立し、三人で破綻するものは?

「……はい、そうです。いやだから……おねがいします」


 警備隊の宿舎にある窓口でジャックは被害の経緯を話していた。俺は深くかかわると面倒くさいことが起きると思ったために少し離れたところで聞き耳をしていたが、実際ぽつりぽつりと何かが聞こえる程度にしか聞こえていない。


 さて、彼が警備隊と話している内容はだいたい聞いていたので、簡潔に色々とまとめてしまおう。


 今から【一週間前】。

 ジャックがノーバディーの中央通りから離れた路地裏にて歩いているところに露出の高い遊女とすれ違い、意識を失う。

 その後、目を覚ました時には目隠しと猿轡をされており、意識が混濁していた。全然理解ができない頭の回転をしていたらしい……いうなれば酒を酔いつぶれ倒れる位の意識の混濁だったとか。それを覚えているのがすごいよ。お前。普通やったら覚えてないだろう。

 だんだん意識が戻ってきたあたりで、拘束を解かれたとか。そのあとのことはよく覚えていないらしく、気付けば俺に助けられていた。


 ……一週間も何していたんですか。ジャック君。というか一週間も拉致されてたの? 意味不明なんですけど……。


 もちろんのことそれは警備隊が信用するわけがなく、適当にあしらわれるだけでとぼとぼとこちらに向かってくる彼を見ていると心が痛く感じる。


「結局取り合ってくれなかった」

「いや、あれでいい」


 俺はジャックに慰め肩をポンポンと叩く。その行動になぜと言う顔をしてきた。まぁ、ネタバラシをしなければ始まらないわけだし……。

 とりあえずここで話すのもあれだし、と思いジャックと一緒に警備隊の宿舎から離れるようにアイコンタクトをし、一緒に宿の前まで戻るように促した。

 風が強く吹き荒み、耳を冷やすのを感じながら歩いたあと周りの様子を見てから口を開く。


「今回は種を蒔いただけだから、今回はこれでいいんだ」

「種?」


 そう、種。と人差し指を一本たててくるくると回した。


「問題。一人じゃダメで、二人なら出来て、三人なら破綻するものは?」

「……そんなのあるんですか?」

「あるよー? ちゃんと考えてから答えるよな?」


 まぁ、普通に考えたら一人ではできなくて、二人ならできるなら三人でもできるのは当たり前だろう。

 ジャックが俺の隣で指折りをしながら数えてそこから何かを求めようとしたのだが、まず人間という前提があるからと呟きながら考え込んでいる。

 ニヤニヤと笑いながら俺が見ているとその視線に気づいたのか意固地になって考えた。

 そして考えついた結果を口にした。


「子どもですかね?」


 たしかに一人では無理だし、二人ならできるけど、三人は仲間と考えたら成立はする。


「その二人とも男性だったらどうするんだ?」

「あ、えっとー……」


 ははは、と軽く笑った。別にバカにしているわけではない。

 ジャックの顔が赤くなった。


「別に悪いことじゃないんだ。そうやって考えるのはいいことだから気にしない」


 むしろ問題を自分の中で噛み砕いて消化して答えを導き出そうとした行為に賞賛を与えたいくらいだ。


「じゃあ、答えはなんなんですか。子どもじゃないなら二人でできて三人でできないものがあるんですか?」

「答えは秘密だ。一人では秘密じゃなく、二人なら秘密の共有ができ、三人では誰かが喋り出す」

「……つまり?」

「一度耳にしたことは他のところで花が開く。人っていうのはそう言うものだ」


 そして、秘密を手に入れた人間は口が軽くなるのが当たり前だ。


 秘密は一人じゃ成立せず。二人で成立して、三人で破綻する。ジャックの出来事は秘密(ふたり)のようなものだったが、今じゃその話を聞いたのは三人だ。


 そのうち破綻する。俺はそう画策していた。足で地面にリズムを刻むように歩く。


「とりあえず数日は待とう。話はそこからだな」

「頭がキレるんですね」

「いや、俺の知ってる世界ではよくある話なんだよ」


 少なくてもこの世界には頭のキレるやつは腐るほどいるだろう。でなければ国ができるわけないし……。


「俺はそんな頭がキレるやつじゃないさ」


 でなければ俺の家族は崩壊することはなかったのだから。




「あ、ミチナシお兄ちゃん。おかえりー。どこ行ってたの?」

「ただいま。まぁいろいろとな」


 宿の近くに戻ると街路樹にもたれかかる様に座っていたルーナがお出迎えをしてくれた。


「ベル達は?」

「ベルお姉ちゃんは宿の中でお酒飲んでいて、愛ちゃんはメイドの所作がー。とかなんとかでメイドさん見ていたよ」


 歪みない彼女達の行動に空笑いする。かといってルーナもルーナで俺ばかりにくっついているのも歪みないといえば歪みないのだが……。

 右手でルーナの頭を撫でる。くすぐったそうに撫でられるのを受け入れる彼女にドキッとしたが、今はそんなことをしている暇じゃ無いと自分に言い聞かせる。


「さて、ここで立っているのもアレだし、喫茶店に行くか」

「ミチナシお兄ちゃん、(わたし)オレンジジュース」

「はいはい、ジャックは?」

「あ、僕は自宅に戻った時にお金を持ってきたので」


 あ、そっか。

 先ほどまで俺とジャックが話していた喫茶店に再度入ると同じ席まで案内してくれた。


「そういやジャック。お前はどうするんだ?」

「どうするって……何をですか」


 ざっくり言いすぎたなと後悔をした。


「端的にいうと今後お前はどうするんだという話だ」

「あぁ、とりあえずは仕事に復帰させてくれるかですね」

「復帰?」

「えぇ、一応これでも座商なので」


 あぁ、なるほど……座商だと席を空けた時点で信用がなくなるのか……。

 警備隊に相手にもされず、一週間も行方不明ならばその席はあるのだろうか?


「難しい話です。多分僕はクビでしょう」

「……」


 何も言わず、ただ考える。

 これからのことや、ジャックのこととか。


「ジャックって何歳だっけ。聞くの忘れていたし」

「十九になります。座商の下っ端は一年前に」

「まだ新米ってところか?」

「えぇ、まぁ」


 恥ずかしい話ですが。と言葉を付け加えた。

 ルーナは何も言わずにただ俺とジャックを交互に見ている。きっと俺が何をしたいのか大体察しているのだろう。それを知っていて何も言わない辺り、異論は無いと見て取れる。


「俺たちの仲間に入らないか?」

「仲間?」

「チーム、手伝い何でもいい。俺たちは冒険者ではあるが金銭感覚には疎くて上手に売買をすることはできないんだ」


 働き手がないなら、お前さえ良ければ、そんな気持ちで俺は口にしている。

 正直男性が俺一人では女性の多数決で負けてしまう。ならば人手を増やして……という魂胆も正直ある。

 今にも握手をしたい手を俺はぐっと逆の手で押さえつけながら勧誘する。


「ありがたい話です。しかし僕はその話には乗れません」

「……」

「僕は座商ではありますが戦闘員ではない。ミチナシさんの仲間になったとしても、いつか死んで(いなく)なってしまうなら僕はまた路頭に迷うことになる」

「あぁ」

「僕の商業は常に最善の選択肢を選ぶ質です。なのでミチナシさんの仲間になることはできません」


 交渉決裂だった。


「ですがこの助けてくださった恩は仇で返すわけにはいきません。何か困ったことがあったならすぐにでも助けます」

「すまなかったな」


 俺は謝罪を述べた。

 ジャックから手が伸びてくる。その手はまたの機会にという意味の握手だ。

 唇を強く噛んだ後、俺はジャックの手を握った。

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