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モダンな作りとモダン焼きは全く違う

 

 見た目が良さそうな宿に入ると待ってましたと言わんばかりのメイドがお出迎えをしてくれる。

 なぜこの宿を選んだかの理由は? といっても殆どがモダンな外観で全部一緒に見えてしまっているためである。つまり特に意味がない。

 和風であれば創業何年とかそういうので見分けることはできるがこういう洋式の場合何がいいのかわからないしなぁ。


「いらっしゃいませ、何名様でのご宿泊ですか?」


 流れるかのようにおしとやかな声が出すと、ドレスの両端は持たずに、左足をひき右足をやや曲げ、背すじをのばし軽く少しだけ腰をおとす。すごい気品がある。語彙力のなさが表に出た。

 メイドといってもまた日本で流行していたやつではなく、アイが宿にいた時のホームメイドのもっと質素な感じのものだ。しかしそのメイド服は壮大な作りになっている内装と妙にマッチしていて、昔ながらという雰囲気を持ち合わせていた。


 ……オタクじゃねぇよ?


「四名で、【二部屋】一人部屋一つと、大部屋一つ」


 ジャックのコイントスの結果、ルーナとアイの意見は却下、二部屋を借りる結果となった。

 俺がメイドに二部屋と頼んだときにルーナの顔が明らかに不機嫌になったのが見えている。アイの顔も多少ピリピリとした雰囲気を持たせた。


 いやそんな顔されましても。俺を殺す気ですかね。


「かしこまりました」


 メイドが一礼して部屋の空き具合を確認しに後ろに下がった。


「お兄ちゃんのバカ」

「何でだよ」

「なんでもだよ。鈍感童貞!」

「……」


 ルーナはぷいっと別の方向を見てその場を離れた。それを俺は見届けるしかできなかった。

 しかしまぁ、ひどい言われようである。いつも部屋をわけているにも限らず、いつも部屋に夜這い……もとい侵入しているのにどの口がって言う感じである。

 ベルは何も言わず、なんとくつろいでいらっしゃる。ほんと神のマイペースさには度肝が抜かれますな。

 そしてアイはちょっと難しい顔をしている。


「アイ、どうしたんだ?」


 きっと俺が部屋を別にして不機嫌だというのは目に見えているが、聞いてやることにした。

 未だに難しい顔をしたまま彼女はじっとさっきまで対応していたメイドを見つめている。


「あれが真のメイドですか」

「……」


 勉強中だったのですね。いやぁ、本当このメンツ個性的で頭がいたい。

 あ、そういえば忘れていた。ジャックはここにくる前に一旦自宅に戻るために別れている。両親はおらず、一人暮らしだから誰かに誘拐されたと言う話をする必要はないらしいが、やはり誘拐された事は事実だ。警備隊か何かに言わなければならないだろうとアドバイスをしたらやはりそうだよな。とジャックは納得した。納得する前に報告の義務があると思ったのは俺だけなのか。この世界はどうにも何かが抜けてる気がしてならない。


「ではこちらにどうぞ」


 奥から戻ってきたメイドが俺たちにこれをかけると案内を始める。

 フロアを見る限り客は何人かいるが、そんなに多いわけでもない。祭りに関連しているなら普通は満員になるはずなのだが……。


「近いうちに祭りがあると聞いたのですが」


 えぇ、とメイドは柔らかく微笑んだ。


「今年も面白いことが起きたらいいと思います」

「面白いこと?」

「はい。他の人類国にはなく、この人類国でしか行われないお祭りです。今はまだ準備をしておりますが、たしか五日ほど後になります」

「へぇ……、ぜひ拝みたいものです」


 この国でしか行われないお祭り。果たしてそれは奇祭と呼ばれるものなのか。気になるところではある。

 日本のとある場所では男性の【ナニ】を御神体にしてお祭りにするところもあったし、男性が真冬に裸になって全身毛を剃りあげた男に触るがために押し競饅頭したりとしている。

 たしか北欧の方では激坂を転がり落ちて行くチーズを追いかけるためにチーズと同じように転がり落ちる祭りもあったなと思い出す。


「ではこちらになります」

「あ、ありがとう」


 俺たちが案内されたのはまず大部屋だった。木製の扉であるが凝った装飾が施されている。つまるところモダンな作りの扉だった。


「四人部屋でして多少大きいかもしれませんが……」

「いえ、構いません。ベル。少なくとも物を壊すなよ?」

「え?」

「壊す気なのか?」

「いやいやいや! そんなことをぜっったいしませんよ!? このベルの名に誓って!」


 いや、お前の名前ボロボロなんだけど。


「じゃあ俺の部屋もお願いします」

「かしこまりました」


 いやぁ、いいメイドさんだなぁ。

【間違った知識】によってメイドの概念が【日本寄り】になった人形と違ってこのメイドさんは欧州のような黙々と家事を行うメイドさんだ。本物のメイド……。


 ねぇ、君達、今どっちのメイドを思い出した?


「こちらにございます」


 その部屋は一人部屋ではあるが……。


「あのぅ……」

「あなた様はここになります」


 そこは三階だった。いや別に三階が嫌なわけではない。高所恐怖症でもないし、うわぁ、狭い……怖いという閉所恐怖症でもない。


「いやでもここはどうなんですかね?」


 三階角部屋。日本人にとってはとってもしあわせな空間である。角の方が居心地がいいし落ち着く。俺も典型的な日本人だ。


 でもその角がパノラマみたいに円形の狭いリビング三畳ほどしかないとなれば話は別である。

 なにこれタンスないの? 消灯代はある。ベッドも乱雑に無理やり押し込まれた感がある。むしろこれ物置部屋?


「何かが不満な点がありますか?」

「……えっと……」


 ニッコリと微笑まれる彼女の笑顔の下にはこう書かれているのがわかる。


【場違いな男】


 俺はどうやら宿の選び方を間違えたらしい。




「つまり、あそこは【女性専用の宿泊施設】だったのですか」

「あぁ、結果的に俺はあそこにいられず別の宿を探すためにあの宿を離れたわけだ……」


 とほほ。と涙がニュートンのゆりかごのように揺れている(脳内補正)。

 女性専用の宿から出てすぐ近くの喫茶店に入っていた俺はジャックと合流し、宿についての不平不満をぶつけていた。別に怒っているわけではない。その場の状況というか詳しく見ておらず詳細も見ていない俺が悪いのはわかる。


 だから人があまりいないのは【女性しかいない】という考えに行き着くのは少しばかり察しがつかない。


「だからといってせっかく宿を借りたんだし、あいつらにはあそこにいてもらった方がいいよな……」

「今ならまだキャンセルということでお金を払わずに済むかもしれませんよ」


 確かに今ならまだお金を払わずに済むかもしれない。しばらく悩んだあと、頭を下げた俺はその提案を却下した。


「俺らは冒険者なんだけど」

「まぁ大体さっしてました」

「俺はなにもできないし、盾で、あいつらを守るくらいしかできない。だから感謝しっぱなしなんだよ。なんていうか家族というか……」


 正直家族という単位の定義はよくわからない。逆にいうとあいつらが仲間であり、家族であり、なんだかんだであいつらが好きなのだ。だけど、そんなあやふやな態度を取っていたら崩壊するかもしれない。


 そんな恐怖を感じていた。


「彼女たちが大事なのですね」


 ジャックが一言で収めてくれる。

 今はその言葉がしっくりくる。ルーナも、アイも、嫌だけどベルも、大事である。


 俺が俺であり続けるための大事な存在だ。


「……スッゲェ恥ずかしい」


 机に突っ伏して、顔を隠す。耳まで赤いのが自分でもわかる。


「めんどくさいな」

「そうですね……」


 野郎二人で世の中の情勢に毒を吐いた。

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