裸の男を介抱すると好感度が下がるらしい
夜は各グループ一人が起きて見張りをしている。今は俺がその見張り番で火をあまり起こさず、近くで火に当たっていた。
夜にもなると気温ががくんと落ち、体を震わせるほどの寒さになる。口の周りも乾燥し始めたため、洗った飯盒に水を注ぎとろ火で温めた白湯にタストバードラーの家からパク……いただいた紅茶を淹れている。
飯盒の取っ手を掴み、器に注ぎ込んでずずずと音を出して一口飲んだ。ほんのりと甘い風味が鼻を抜けると体の震えが収まり、収縮していた筋肉が落ち着いた。
「だけどさみぃ……」
だがしかし致し方ないことなのだ。と言い聞かせる。ノーバディーに行って何があるのかは俺にもさっぱりだ。バードラーが何も言わないと言うことは名前を言うのも憚れるくらいなのだろう。
「ミチナシ様」
「アイか。どうした?」
徐に俺の近くまできたアイが話しかけてくる。その様子はいつもと変わらずやはり人形のように背筋を伸ばしている。
ベルとルーナはお互い身を寄せ合うように眠っているがベルが歯ぎしりや右に左に動くあたり本当に寝相が悪いのだろう。馬車でのスヤスヤと打って変わって。と言うところか。しかも寝る場所に関してうるさいというのもこれに起因するのだろうか。
つまりあそこの宿は寝心地が悪いと。失敬な。
「一つ相談したいことが」
「どうぞ」
アイでも相談したいことがあるんだなと思いながら器に入っている紅茶を飲む。
「私の子どもはどうやって作るのでしょうか?」
「ぶへぇ!?」
唐突すぎて鼻に紅茶が入る。風味だけ抜ければいいのにお湯も入ってきた。鼻が痛い! とりあえず状況を把握するために深く深呼吸をした。その行動をじっとアイが見つめている。こっちみんな。
「お前、なにを」
「人形である私には生殖機能はありません」
生殖機能っていうな。
「そりゃなぁ」
「しかし人形である私はいま一人しかいません」
「確かにな」
【人形師】の手によって作り出された最高傑作。それがアイだ。しかし彼女は人形であり、彼女の姉妹は全て活動停止をしており、実質彼女しか存在していない。たった一人の存在だというのも俺は知っている。
「身内が欲しいんだろ?」
「有り体にいうとそうなりますね。というわけでミチナシ様。性行為をしましょう」
「フザケンナ」
「既成事実を作れば私の夫はミチナシ様にランクアップです。良かったですね。これで童貞卒業ですよ」
「しないし、ランクアップしたくねぇし、童貞ちゃうわ」
「え?」
「……すいません嘘つきました」
「じゃあしましょう」
「フザケンナ」
一蹴した。誰が人形と性行為をするか。しかもこんな休憩地点でするか。アイは真っ直ぐな瞳で俺をみてきた。うわぁ顔がマジだ。これはやばい。
……いま場所がちゃんとしていたら別にしてもいいという捉え方になるな。語弊がないようにしなければ。
「俺らは仲間だろ? それでいて家族だ。それでいいじゃないか」
「ですが……」
「あのなぁ。仕方ないから今後のことを教えてやる」
「?」
息を吐きながら言葉を見繕う。アイが納得するような言葉を出さなければいつまでもこの話は続くのだ。
「今は俺たちが仲間だが、お前にも仲間がいる。それは今活動を停止しているお前の妹達だ」
「はい。彼女達はいま活動を停止しており動いておりません」
「逆に言えば寝ているだけであって、死んでいるわけじゃないんだろう?」
「あ、」
つまり、誰かが血液を彼女たちに渡すことによって再起動をするということだ。しかし、そのメリットは多くなく、むしろデメリットが多すぎる。それは居住の狭さや、今後かかるであろう材料費などだ。だから、【今の俺】には主人として彼女達を迎え入れることはできない。逆に言えばそこまでの器量と財力と資源がができれば彼女達を起こし、アイの家族を取り戻せるというわけだ。
「だから今は少し待ってくれないか? 少なくとも今の俺には【荷が重すぎる】」
「ミチナシ様……」
あぁ、恥ずかしい。なんでここまでして言わなきゃいけないんだよ。顔を赤くしてそっぽ向く俺は赤く光る炭に木っ端を放り込み火をつける。
するとアイは体を預けるようにぴったりとくっついてきた。
「ばっ」
「お慕いいたします。ミチナシ様。あなたが私の所有者で本当に良かった」
その声には崇拝に近いものを感じた。そんな大層なことを言った覚えはないんだけどなと思いながら、アイの重さを実感した。
しばらくそのままでいると、アイの周りに存在していた空気が一気に冷める感覚が走った。
「……アイ」
「誰かがこちらに向かってきます。一人」
俺は周りを確認した。現時点この場にいるのはルーナとベル、アイと俺、そしてそれぞれが見張り番している男や女、総勢二十名だ。他のグループがこちらに来るわけではない。ということはどこかから迷い込んだ奴だ。
「どこからくる」
「このまま正面。もうすぐ見えます」
確かに雑草を踏み鳴らす音が聞こえる。今の時期の雑草はやや枯れており、踏めば音が鳴るようになっている。火の光によってある程度見えるあたりから足が見えてきた。その足は裸足で、男の足だとすぐにわかる。皮膚の下に隠れているのは男性特有の筋肉であるが、明らかに俺より若い足だ。
「男だ」
「男ですね」
そして俺とアイはすぐに理解をする。なぜって?
身ぐるみ一つないからだ。なんだこの世界、裸で出てくる率、高くない?
「た、たすけ……」
言い切る前に意識を失って裸のまま枯草の上へと倒れたが、枯草は思ったよりクッションにならず思いっきり顔面を地面にたたきつける形になった。
「……」
「……」
俺とアイは何も言わずその男がまた目覚めるのを待ったが起きる気配がない。
「どうしますか?」
「は? 俺に聞く?」
こくりとうなづく彼女に俺は『えーっと』と声を出しながら悩んだ。
「とりあえず最初はヒトタスケからですかね?」
「かしこまりました」
アイが一言返事をすると男へと歩み寄っていった。
次の日。俺は眠気と悪寒のなか、男の介抱をしていた。なんで俺がこんなことをしなきゃいけねえんだよ。と心の端で思いながら男の様子を窺う。
すうすうと静かに寝息を立てながら寝ている。俺が寝れなかったじゃねえかファッキン。しかも俺より明らかに美形だしファッキン。起きたら一発殴らせていただこう。
心の奥でぐちぐちと毒を吐き捨てていると、もぞもぞと寝袋からルーナが起きてきた。
「んあ……ミチナシお兄ちゃん? おはよう」
「あぁ、おはようクマできてるぞ」
「ベルお姉ちゃんうるさくて」
「……」
思い出す歯ぎしりと寝相の悪さ。ルーナは人肌がないと寝れない質なのかな?
「どうしたの? ずっと起きていたの?」
ルーナが目をこすりながらこちらに近寄ってくる。そしてぱちくりと何度か目を瞬きをすると、俺の現状を確認した。
さぁ、ここでどこかの実況を真似していこうともいます。
ひとーつ。俺が起きている。寝ずの番をしているから私たちを守ってくれていたんだ! キャッ素敵! 好感度プラス十点。
ふたーつ。俺が朝ごはんの支度を済んでおりいつでも食べれるようにしてある。なんて用意周到な人なんだろう! キャッ素敵! 好感度プラス十点。
みーっつ。俺が男の介抱をしている。え、だれその人。好感度マイナス五十点。
よっつ。その男なんで裸なの? 好感度マイナス百点。
あぁ、どうやら俺の善意というのは彼女にとっては悪いことでしかないようだ。ふざけやがって。
「お、お兄ちゃんの、変態ぃぃぃ!」
「まてぇぇぇぇ!」
朝から大声を出すな馬鹿野郎。




