おじいちゃんと孫の雰囲気はどうしても和む
「……で、俺はまたここにきたと……」
肌寒く感じる季節になり、広葉樹は赤く色付き枯葉は風に乗ってかけっこをするように走り出す。俺は深く呼吸を吐いた。もう季節的には秋に近いんだろう。
場所はタストバードラーの屋敷前。なんで俺ここに来た理由ってなんだっけ。あ、そうそう、タストバードラーにまた呼ばれたんだった。
あ、どうもミチナシです。私は現在タストバードラー……もういいや領主の館の前で立ってます。多分竜の山以来かな。多分。
「ミチナシお兄ちゃん、ここがあの人の御屋敷なの?」
「ルーナ。なんかここがあの女のハウスね。みたいには感じないけどそれに近いニュアンスで言うのやめない? お兄ちゃんちょっと嫌だわ」
と俺に変なツッコミをされる少女はルーナだ。さすがに普段着ではあれかなと思ったため、またお金を出してちょっと小綺麗なドレスを着せている。しかし彼女特有のあどけなさがドレスとのミスマッチによりお姫様というより、お嬢ちゃんという言葉が合う気がした。
でもやはりスタイルがいいというのは本当いいとおもう。何も着せても似合うというのがあるわけだし……。
そしてついでに言うとあのバカも似合っているというのが本当気に入らない。
「ふふん。やっと私にもきれいな服を用意してくれたわね!」
「ルーナが似合うというと、お前のスタイルの良さも副産物で褒めているというのが本当に悲しみを背負うわ」
「なんで!? 私のこの究極の体に不満でもあるの!?」
「うるさい! こんな場所で言い合いなんてしたくないのになんでそんなに突っかかってくるんだよお前」
あとわけのわからない振り仮名をつけるんじゃない。
ベルにも服を購入しました。はい。なんでこいつもドレスが似合うんだろうか俺には全くわからん。いや本当は分かっているけど、分かってやりたくない。
ハチャメチャのおてんばで馬鹿なのになんでこうも……。
そんな醜態を屋敷の目の前ですること自体がもう恥ずかしい……。
ため息しか出ない。
一通り話し合ったのを確認した門番が俺に近づいてくる。よく俺たち通報されなかったなって思った。
「ミチナシ様ですね」
「あぁ、タストバードラーさんに呼び出されたものでここに来たんだけど」
「話は伺っております。またご案内しますよ」
ニコニコと何事もなかったかのように対応する門番の方。お優しい。
「そちらにいらっしゃるのは、ルーナシンセザリック様と、ベル様でよろしいでしょうか」
二人が何も話さずコクリと頷いた。
「彼女たちも来てくれと書いてあったから連れてきたんだけど」
「もちろんお聞きしております」
はにかむように対応する門番に、もし一般女性がいたならばときめいてしまうだろう。一般男性の俺ですらも好印象持っているからな。え? お前だけは違う? ……ちょっと寒気がした。
ではこちらに、と案内される。
中に入るとやはり秋になったからなのか前に見た事のある花とかは枯れてはいるが、彩りを消すことなく他の花が咲き誇っていた。
「ねえねえ! すごいよこのお屋敷! 金のシャンデリアがある! 肖像画はなんか美化されているかもしれないけど」
思わずベルの頭にげんこつを落とした。痛みに耐えきれず、思わず頭を抱えうずくまる。
「いったーい! なんで! なんで私のプリチーな頭にげんこつ落とすの!?」
「お前は静かに歩くというのができないのか! 頼むから知らない人がいるところではおとなしくしていてくれよ!」
分かったわ。とうなづく彼女。本当大丈夫かなぁ。
「ではこちらでお待ちください。机の上にあるお菓子など食べててもいいとバードラー様から聞いております」
「どうも、……」
なんか本当にすいません。うちのバカが色々と本当にすいません。
「ねえねえ! ミチナシこのお菓子うまいよ! 宿に持ち帰ろう!? あ、このお茶も美味しい! 一缶なくなっても気づかないよね!」
皆さんこれが神様なんです。節操がないという存在がこの子なんです。ドレスを着てどんなにきれいにしても心は綺麗にならないんです。
涙が出てくる。なんでこんな神に転生させられたのか訳が分からない。というかこれまでの転生者もこいつに転生させられたと思うと気の毒としか思えなくなってきた。
ガチャリと扉が開く。そこには豊かな体格をしたタストバードラーが現れた。手には革製の袋があり、そこにはずっしりとした物が入っているのだろう。
俺は彼を見るとすぐに立ち上がると座って座ってとジェスチャーで促したがそれにはさすがに日本のある程度しっている常識でさすがに断った。
「いやぁ、本当すまないね、ミチナシ君」
「いえ、呼ばれたのに断ったらいけないかなと思ったので」
それにきっと呼ばれるということは、またなにかしらの話があるのだろうと思って……ねえ? そしてルーナは俺の後ろに隠れるようにいる。ベルはバードラーがいてもお構いなしの様子だ。これが性格なのだろう。
「ルーナ? 挨拶くらいしなよ、俺らお世話になっているだろう?」
「あ、うぅ……」
ルーナの引っ込み思案が著明にでていた。多分こういう彼女の姿を見たのは竜の山で初めて出会った時かもしれない。なかなかそういうの見たことがなかったために新鮮に感じた。
「ルーナ君だね?」
「……は、いぃ」
バードラーは少し微笑みお菓子を一つ手に取るとルーナに出す。ルーナはバードラーとお菓子を交互に見た後、俺をみた。いや俺にそんな顔を向けられましても……。
バードラーが手渡したお菓子はココアとバニラが渦巻き状になっているものだ。どこかで見ていたお菓子だな。ほら、缶詰に寄せ集められたやつに似ているなぁ。
「あ、ありが……とう」
お菓子を手に取ると、お礼を言ったルーナはお菓子を口にした。すると花が開いたように表情が明るくなる。とても美味しかったのだろう。
バードラーの顔も笑顔になる。なんていうか孫をみるおじいちゃんのように見えた。
「ところで用事とは何ですか? 見たところ魔物退治とかの緊急性ではなさそうですが」
「いい話と悪い話が一個ずつあるんだが……」
じゃあいい話からと俺は返事をする。
「一つは魔物討伐の件だ。また魔物を倒したらしいじゃないか、君はどうやら魔物を呼び寄せたりするのかな」
「正直わかりません」
何でも現時点タストに存在する巨大な魔物を三体も倒したのは俺だけらしい。なぜこんなに数多くの魔物が俺が行く先々にあるのかよくわかってない。なぜこんなに魔物と戦わなきゃいけないのか辟易する。そもそもほかの転生者がいるんだからさぁ? そっちが各個撃破くらいしてくれないとこっちの身が持たない。
「冗談だ。それについての報酬金だが、これを上げよう」
そういって皮袋を手渡す。じゃらじゃらと金属の音が鳴り響くあたり、金貨だろう。
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
いいんだよ。とバードラーはいう。ルーナも俺の真似をするように感謝の意を述べた。
「で、もう一つの話だけど」
「はい」
「明後日までに【人類国】に行ってほしい」
「の?」
「ノーバディーだよ、ミチナシお兄ちゃん」
なに、ルーナさん知ってるのですか?
「ノーバディー。人類最大の国だよ」
「へぇ。そこになぜいかなければならないのでしょうか」
「これを」
そういって渡されたものは一枚の皮用紙だった。それを受け取ると紙とは思えない分厚さを感じ、コピー用紙とは違う温かさを感じた。そして一枚の皮用紙にはまた読めない文字が書かれている。しかし、俺には図らずも読解能力が勝手に備えられているため読むことができた。
「えっと……冒険者ミチナシを人類国ノーバディーに召喚せよ……ねえ?」
なるほど。だからバードラーは俺をここに呼び出したわけか。ルーナは皮用紙をまじまじと見つめている。
「すまないね。色々と」
「いえ。色々としていただいてるのでできる限りのことはしますよ」
そういって俺はバードラーの依頼を受けた。




