冒険者の一日:後編
「そういやルーナ、武器とか装備とか、服装になんか不満な点はなかった?」
「特にないよ! ただ、あの武器は少し脆いって思うの」
場所はアキハーから離れ北東へと移動した場所だ。そこは地形的にも高い位置にあり、俺たちが泊まっている場所が見下ろせるような場所だ。ちなみに北東へそのまま行くとタストの鍛治師たちが住んでいる小高い丘がある。
その地形的にも高い位置へとあてもなく散歩していたら、ゴミ山での戦闘で武器に魔法を結構注いでいたけどどうだったんだろう? と思い至りなんとなく聞いたのだ。もしそのまま武器が壊れそうであるならついでに行けばいいわけだし。
そしてルーナに話しかけた結果脆いと感想をありがたく頂いたのだった。
脆い? 俺からしたら金属加工の英知だとおもったんだけどな。ほら、ロストテクノロジーと言わんばかりの技術だし……。
ルーナの持っていた武器は刀のような形状で黒い刀身だ。刃渡りは八十センチほどでシャープな形状を持っていたのを覚えている。
「あの黒い刀はきっと個達が作り上げた竜の鱗を組み込んでいると思うの」
「……竜の鱗」
竜の山でとれる金属。そしてその金属はルーナとルスが作り上げたものだ。叩けば火花を散らし、水に浸せば氷のように冷たくなる。ルスが電気の力で磁気を帯びさせて操作をしたり、ルーナのように熱を持たせ、衝撃にのせたりなどができる。ルーナとルスのためにある金属だったりする。そして、魔物を退ける効果もあったりと万能の金属なのだ。
「でもその竜の鱗はほかの金属と一緒に練りこまれていたから魔法を通らせようとすると竜の鱗じゃない金属が溶けちゃうとおもったの」
多分あの刀の中身はもうボロボロだと思う。と彼女がいう。
「はえー。竜の鱗って本当万能だな」
「そりゃルスお姉ちゃんと、個の魔素の塊だもの」
そういえばルスも魔素といっていたな。魔法と魔素はなにが違うのだろう? と頭をひねっている時ルーナが口を開く。
「魔素っていうのは、魔法の素材ってやつで、魔法と、魔術の大元ってお母さんが言ってた。少なくとも、その魔素を扱えるのは個達竜とそれに匹敵する種族だって聞いてる」
「匹敵する種族ってなんだよ。まるで人間以外にもいるみたいな言い方じゃないか」
「いるよ? 少なくとも、ミチナシお兄ちゃんのほかに五種族。ほら、アイちゃんが言ってたよ?」
そんなこと言ってたっけ? と記憶を思い出すが、残念なことに思い出せなかった。
「仕方ないなぁ。物忘れが激しいお兄ちゃんに教えてあげるよ」
失礼な……。
「この世界には人類のほかに、森精類、侏儒類がいるの。そして、さらにうちわけて、人類にはヒューマンと、ウィッチが、森精類にはエルフと、フェアリーが、侏儒類には、ドワーフと、スロープがいるの」
「なんで三種族がいて、そこから内分ける必要があるんだ? みんな一緒じゃないのか?」
「体格とか、特徴の問題だと思う。そもそも人類以外……とくに森精類の偏見が強くてそのせいで六種族に分けられたって昔お母さんが言ってた」
「……異世界でも差別とかあるんだな」
それこそ、白人が黒人を迫害する理由とか、それに近いのだろう。ナチスがユダヤを迫害するとかに近くも感じる。
「でも、今はそんな差別をする種族はけっこう少なくなっていて、今はそれが過去の過ちだと言わんばかりの世界になったって聞くよ?」
「博識だなぁ」
「えへへー」
「お母さんって竜の方だよな?」
「うん」
ルーナと、ルスの母親は竜で父親が人間の混血っていうのを前回聞かされた。
「やっぱり昔話の通りなんだな」
ボソリと感想を述べる。
とりあえず武器が脆い、あと使えて何回かという課題ができた。幸いお金は有限だが一本購入するくらいならできる。
「また今度武器をみてやるからな」
「うん。ありがとうお兄ちゃん」
にこにこと笑い俺の隣に走ってくると、ルーナが俺の手を握りしめてくる。最初こそドキドキと心臓が高鳴ったが、目を閉じて深呼吸をした。
帰りの時間がかなり遅くなった。
空は星の光が散らされており、まるで宝石をちりばめたような美しさだった。
その星の光に照らされた俺とルーナは手を握りしめていた。握手のようにずっと握っているためにもしかしたら俺の手は汗ばんでいて気持ち悪いのかもしれないとおもい、何度か手を放そうとしたが、ルーナは手を離すことをしなかったためあきらめることにした。隣に並んでいる彼女からいいにおいがする。
どこかの曲にあったな。僕ら、フォークダンスの手を取れば、甘く匂うよ黒髪が、てきなやつですよ。下心丸見えじゃねえかこの野郎が。
「ミチナシお兄ちゃん」
「ん?」
唐突に手を離したルーナ。俺はその彼女を見るために立ち止まった。
彼女の顔は外の暗さでよく見えなかったが、その顔はむーっとした顔をしているのはわかった。何か悪いことをしたかな。と今日思い当たることをいろいろ考えていたがしていないと思う。
「気づかないの? ずっと一緒にいるのに」
「……」
やばい、何もわからない。目の前にいるドラゴンさんはどうやら俺に何か変わったところに気づいて欲しいらしい。
何か変わったところあったの? 態度とかはいつも通りだし……えっとぉー。
「あ、髪を切った!」
「個の髪はお兄ちゃんが切ってくれていらから」
そうだよな……。どこで変わったことあったっけ……?
だんだんつり目になって行くあたり全然違うらしい。髪じゃないなら顔か?
化粧とかついてるわけじゃなさそうだし……。爪ならさりげなく見せてくるだろうし……。そういえば胸が強調されているかなと思うけど、ブラでも買った? を言ったら言ったで何か言われそうだし……。
女性ってよくわからないところで変化しているからなぁ。
でもこういう時お手上げですなんて言ったら好感度が駄々下がりだろう。もう口をきいてくれないくらいに。
「……そういえば……なんか変わったことあったな」
そう、なんか甘い匂いがたまにしたのだ。それはお好み焼きの時にも感じていたし、今さっきも感じていた。ただ、気にすることじゃないよな……と思っていたが。
「……バカ」
だからといってシャンプーが変わったとかはないだろう。同じ宿にいるわけだし。
いやまてよ? いつからこの匂いしていたっけ。
「香水でもつけた?」
当てずっぽうにいったわけではないが、確証もない。少なくても変化がないのならば匂いだろうと思いながら恐る恐る聞いてみた。
ルーナの表情は明るくなり首を縦に振る。
「ベルお姉ちゃんに、最近個の獣臭さについて相談したらなら香水を買おうと言われて、アキハーで香水を買ったの。ベルお姉ちゃんには内緒ねっていったからお姉ちゃんを怒ることはやめてあげて」
つまり、獣臭い匂いが自分からしたものだからベルに頼み、香水を買ったと。
だからあのメイドのように見えて全然メイドのように見えないあの二人はできてるとかきゃーっとかいってたんだな。香水を買ったのを知っていたからああいってたって思えば合点がつく。
「ふぅー……匂いについては薄々は気づいていたんだけど、いっつもルーナからいい匂いがするものだからわかりにくかった」
「え、個ってそんなに変な匂いするの?」
「そういうわけじゃないけど」
クンクンと自分の体の匂いを嗅ぐあたり、犬に見えてしょうがない。
俺はため息をつきルーナの頭を撫でた。
「匂いが何であれ、何であれ、俺はルーナらしくしていればいいと思うぞ」
頬を染めて俯くあたり、完全に恥ずかしかったらしい。
「さ、帰るかー。このまま外にいるとベルにも怒られるし、アイは心配するし」
「うん」
そんな何気ない一日がゆっくりと進んでいったのだった。




