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私は私らしく。

 ふと意識を戻すと俺の体は椅子の背に預けて、眠っていたらしい。そして俺の上に覆いかぶさるようにルーナがすぅすぅと寝息を立てて眠っていた。最近体が重かったりする夢を見ていたのだが大体この混血の竜のせいだとわかるのは一目瞭然だった。

 それからそんなに時間は立っていない……というのも時間がわからない。


「どこかのゲームもブランチマイニングしていると地下深くまで掘り進めすぎていま何時なのかとか、そういうの忘れてい

 たりするからなぁ」


 確かあの世界の一日は二十分だったかな、と思いに耽る。

 あのゲームはほぼ俺のような世界だなと思った。突然知らないところに放り出されて、何もかもできる世界に何かをするという感じ。


 鼻で笑う。


「俺がプレイヤーキャラクターなら、誰かがプレイヤーなんだろうな」


 そしてその可能性が一番高いのはそこにいる神(ベル)となるわけだが。


「いや、この状況下の中だと彼女もプレイヤーキャラクターか」


 なら遊び手(プレイヤー)は誰なのだろうか? そんなことをぼんやりと考えていると、ふと影が見えた。


「……よぉ。読み終わるの早くないか?」


 誰でもない。イヴだ。


「ただいま戻りました。ミチナシ様」


 何も変わらずただ読んできたような顔をしている。親の記憶は結果的に無駄のようだ。


「どうだった? イヴの全ては読んだのか?」

「七割方造形美についての話で、二割当機体の話でした」

「残りの一割は?」

「この部屋に閉じこもってから当機体の作成者が亡くなる直前までの話でした」


 イヴは淡々と口にした。濁すこともせず、質問されたことに全てを返した。


「当機体の作成者は、蜘蛛の魔物がこの地下施設に侵攻した時にこの部屋に閉じこもり、そこから一週間過ごしたそうです」

「そっか……」


 蜘蛛の魔物が侵入し、イヴ達人形で迎撃したが歯が立たず閉じこもった……。


「ならなんでイヴはあんなところにいたんだ?」


 イヴは傷一つなくゴミ山に倒れていた。そして魔物と戦闘をしたのならばゴミ山にいるはずがない。


「当機体は戦闘に加わっておりません。当機体は妹達と違い、この地下施設の鍵となる管理者の存在です。地下施設から出れば地下施設の扉は閉まり、起動すれば地下施設の扉が開くことができたのです」


 つまり、ここから魔物を外に出さないためにイヴを外に逃がした訳か。

 そして作成者は知っていたのだろう。魔物は人間だけを襲うことを。


「……イヴはそれについて何も思わないのか?」

「何もありません。そこにあったのは過去の出来事であり、今ではありません。それに当機体には感情というのは理解できません」


 やはり彼女には記憶を増やしただけだったのだろう。溜息をついた。


「ですが、この異常をどう言えばいいのかわかりません。当機体にかかる負荷をなんと言えばいいのかわからないのです」


 彼女の顔が曇っていた。表情が表せず、体にかかる負荷が分からない。それは今まで感じたことのないものだと俺は思った。

 だから俺は彼女に教えてやろうと思った。

 人間は大切なものを失ったことで感じる物を、人間代表として、所有者として教えてやることにした。


「悲しいっていうんだ」


 イヴは俺が言った言葉を聞くと、しばらく考えたふりをして胸に両手をあてた。




「で、結果的にあそこには魔物がいました。で、俺たちが倒しました。これでゴミ山の怪奇現象と探検は終わりです!」

「はい! ありがとうございました。では今回のお宝とは?」


 場所はタストのギルド内。そのカウンターで俺はエリナに冒険の一部始終を伝えていた。何日振りかとは言わないが若干ボサボサになった髪を俺が触っているとお宝という話題を繰り出してくる。


「こいつがその宝だ」


 そう言って指をさしたのはイヴだ。メイド服はどこからか調達してきたようでピシッとした姿勢で俺の斜め後ろに立っている。しかし人形のようにではなく、人間っぽく感じるのは俺だけだろうか?

 そしてルーナとベルは俺がエリナに冒険の顛末を伝えてくるまで外の広場で席を取って待つという『後は任せた』な感じで逃げて言った。そしてまたベルには銀貨二枚ほどカツアゲされている。きっと向こうでは楽しくお酒を飲んでいるのだろう。羨ましい限りである。


「あのゴミ山の正体は魔除けの模造品だ。竜の山に存在する竜の鱗と同じ効果を持っていた」


 しかし模造品ということは効果は竜の鱗より低いのはわかっている。だからゴミ山のように作り上げていた。


「そもそも、彼はタストに現れた転生者だ。しかし与えられた能力は【人形師】だけだった。人形を作り上げ、人形を人に近い存在に作り上げるという力だ。それはそれは【気持ち悪い存在】だっただろう」


 なんせ、人形が人間のように動き出し歩き出した上に、その作成者が作ったものが動き出すのだから。

 エリナはほうほうと頷きながら俺を見ていた。


「それがあのゴミ山の正体だ」

「なるほど……ありがとうございました。そして魔物討伐ご苦労様です」

「一つ聞くけど魔物は全部で何種類いるんだ?」


 少なくとも現時点で三種類は倒している。そしてその魔物たちは必ず生物学上何かしらの特徴を持っていた。


「さぁ、我々ギルドもよくわかっておりません」

「そうか」

「それよりも三種類も魔物のリーダーを倒したのですね。これまでいろんな冒険者を見てきましたけど三種類も魔物を倒して無傷で帰ってくるというお方はこれまで見たことがありません」

「そりゃどうも」


 ごく一部の人にしか教えていない秘密の事のため、ギルドからは無傷で生還してくる人という認識になっているが、正直なところ、そこまで囃し立てられると罪悪感がやや芽生えてくる。


「実は俺、転生者で、なんども生き返ることができるんだぜ」


 とネタバレしたらどれだけ楽なことなのかと考えてしまう。

 なぜ俺が転生者であることをみんなに教えない理由があったりする。

 簡潔にいうと【転生者だとしても、なんども生き返る力】を持っている人間は【人形師】と同じように気味悪がられてしまうからだ。


「謙遜するところも本当素敵です。私ミチナシさんのお嫁さんになってもいいですよ!?」

「マジ勘弁だわ」

「ひどい!?」


 でも正直こんなスタイルのいい女性であれば男の一人や二人付き合っていると思うのだが……。


「エリナは彼氏とかいないのか?」

「え、何ですか? 私に興味でも持ったのです?」

「いや、いい歳だと思ったから男の一人や二人いたんじゃないかなと思ってね」


 いい歳。というところでショックを受けたらしくエリナはがっくりとうなだれた。まぁまずいことを言ったのは自覚している。だけど気になったのだ。


「言い寄ってくる人はこれまでたくさんいました。ギルドの人だから給料もそこそこよくて、美人で器量が良くてと言い寄ってきた男性に言われてきました」

「それ自慢か?」

「しかし私はそんなことどうでもいいのです。私は私を見てくれる人に恋をしたい。綺麗だとかそういうのはいいんです」


 つまりこいつはあれか。表の顔だけじゃなく、裏の顔を見ても幻滅しない人に恋をしたいっていうやつか。


「まぁ、当たり前のことだよな」

「?」


 俺はいや、なんでもない。と一言言った。


「で、ちょっとしたお願いなんだけど。エリナにしか頼めないことなんだ」

「なんと、私でよければ何なりと」

「こいつにもギルド登録をしてくれないか?」


 しばらく沈黙が続いた後、エリナははぁ? という表情を見せた。


「イヴは人形ではあるけど、意思を持っている。そして俺の仲間だ。だからそれと同じものを作ってやりたい」

「……ですが、ミチナシ様の所有物として登録すればいいのでは」

「こいつは仲間でいたい。と願ったんだ」


 家族でいたい。仲間でいたい。それを願った。

 ならそれに答えてやるのも所有者としてのやることだと思っていた。


「……わかりました」

「ありがとう」


 ですが。とエリナは言葉を続ける。


「今度買い物とか色んなこと付き合ってくださいよね?」

「はぁ? なんで……」

「これまで、いろんな無理難題なことばかりをしてきたんです。それの感謝で一緒に買い物くらいいいじゃないですか」

「公私混同ですよ。それ」


 そんな会話をしながら、イヴのギルドへの登録が済んだのだった。




「ミチナシお兄ちゃん! おかえり!」

「うーい、ミチナシお勤めご苦労様です!」

「くっさ。酒くっさ。ベルお前本当飲みすぎだぞ」


 うははは、とおっさん化しているベルと、食べ物を食べて嬉しそうにしているルーナがそれぞれ俺を出迎えてくれた。


「ミチナシ様、今日はありがとうございます」

「仕方ないだろう。お前がそうして欲しいって言ったんだからさぁ」

「 まぁ、いいじゃんいいじゃん。今日はまたぱーっとやりましょ!」

「うんうん! アイちゃんもほらこれ!」


 ルーナが小皿にサラダを載せてアイに渡す。


「おい、アイは食べ物とか必要としてないだろう」

「いえ、当機体は人類が食べるものでエネルギーに変換し活動できるようにしています」


 あ、そうなの? と情けない顔をする俺。


「あと、ルーナ。アイじゃないぞ。イヴだ」

「あ、そっか。ごめんねイヴちゃん」

「いいえ……ミチナシ様、ベル様、ルーナ様」


 改まってイヴが俺たちの名前を呼んだ。


「実はアイという名前で当機体は居たいと思います」

「え? なんでイヴちゃん」

「所有者がミチナシ様。というのと主な理由ではあります。ですがミチナシ様は昔の記憶も大事だと言っていました」


 イヴは手で胸を押さえる。


「しかし当機体は、いえ【私】はイヴより、アイでいたいのです」

「……」


 俺は黙った。ルーナもベルもイヴを……【アイ】を見てから俺の返事を待つ。


「……明日ギルドに行って名前変更しないといけないな」

「ミチナシお兄ちゃん!」


 ルーナは嬉しそうな顔をする。なんかプロポーズみたいな感じになって俺は思わず顔をさらした。


「ミチナシ様。ありがとうございます」

「なら、今日をアイの誕生日だ。ぱーっとやろう」

「お、賛成! じゃあ私お酒持ってくるね! 奮発して上物をもってくる!」

「いや、それお前が飲みたいだけだろ!? 絶対だめだ!」


 男、手綱を持たれても財布の紐は持たれるな。という言葉を思い出した。




 ーーーこの本を読んだ者に頼みたいことがある。

 おそらくこの本を手にした時には私はもう死んでいるだろう。そして外にいる魔物を倒してくれたに違いない。


 その強き者にお願いがある。


 私の子を連れて行ってくれないだろうか?


 そして願わくば我が子を愛してやってくれ。


 我が子の名前はイヴ。我が愛しき生前の世界にいるたった一人の愛娘の名前だ。


 このゆりかごに眠る本のインクは全て【金】を溶かして書いてある。宝は全てこの本にある。




 俺はため息をついた。

 頼まれたことならやらざるを得ない。でなければ呪われかねないからだ。


「きっちり、教えてやるとしますか」


 俺はベルに金貨を嫌そうに渡すとその日の祝いに羽を伸ばすことにしたのだった。

これにてゆりかご編終わります!


今度は幕間かなぁ。またはキャラ紹介かも。

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