宝とは価値を知らぬものにとってゴミであり
まずいっておくべきことがある。
俺は、幽霊否定派である。こうやって異世界に吹っ飛ばされてあーだこーだと楽しくやっているが、臍を曲げるようにいってしまうが、幽霊否定派である。
以前こういうことを聞かれたことがあった。
人間の意志は何処からきているのか?
前に歩く、ジャンプをする等の行動派脳から指令がくるのでは?
じゃあ人工的に作ったロボット等はそれで生きていると証明できるのか?
霊魂があるから自分の意思が発生すると思うんだけど?
という質問だ。その時の俺はしばらく悩んだはずだ。
俺の見解ではこうである。
【否定の証明】はできない。
場合によりいつか出来るし、しなければならい。
逆に肯定派も【肯定の証明】も出来ない。
推定の根拠しか提示出来ないからだ。
「どこで見た」
「こんなのを見た」
「こういう現象が科学では説明出来ない」
等々……。
全て否定して行かなければならない。
これさえも肯定派が提示しなければ、どうしようもないことだ。
霊魂は今の科学技術ではまだ発見できないため、証明できないだけではないでは?
まず俺自身が科学を専攻していた身で、幽霊否定派で、質問して来た奴と全く同じ考え方で逆に霊魂を否定している。
つまり幽霊のようなものは、【見えるかもしれない】が、【幽霊に意思が存在するはずが無い】と思っている。
つまり意思と言う複雑な処理を行うには、気体やプラズマや幽体には不可能なのだ。
脳みそのような固体でなければならない。
つまり俺たちがいたあの世界での科学で、霊魂の現象は否定されつつある。
前に歩く、ジャンプする、等の行動派脳から指令がくるのでは?
人口的に作ったロボットなどはそれで生きていると言えるのでは?
意味が分からない。お前なにいってるの?
俺は意思が無ければ、幽霊とは言えないと思う。
なら、ロボットに意思が生じれば全ての幽霊っぽいものが幽霊ではないことが、全ての霊魂っぽいものが霊魂ではないことが、証明されたと思っていいのか?
【霊魂はない】という証明も現在の科学では、出来ないという認識で良いのか?
いいや? 間違っている。俺たちのいた世界の科学だけではなく、【永久に証明】出来ない。
これこそよく言われる【ドラえもんがいないという証明をしろ】と、同じことになる。
それが【悪魔の証明】ってやつだ。
そんな証明は永久に出来るわけがない。
と、思っていた時期がありました。
どうやら、この世界はその悪魔の証明をできてしまうようだ。
まず人間のように表情を作り出すことができる人形。そして、人間のように見えて実は竜であるルーナ。そして、幽霊がいる以内の前に存在してはならない神……。ただしバカ。
「……世界というのは時に変な形でおかしくなるんだな」
とぼそりと呟いた。ベルとルーナは相変わらず本を読み漁っている。俺だけはじっとこのゴミ山の主人であっただろう白骨化の死体を眺めていた。
おそらくだけどこの主人に寄り添っている彼女たちに触れてはいけないのだろう。きっと俺の血液を採取した後に俺を所有者と登録して後をついてくるに違いない。
唐突にどこからか起動音が聞こえた。アイが帰って来たのだろうか。
しばらく起動音が鳴り響くとひたひたと歩く音が聞こえる。こちらに来ている。
そして俺の背後くらいまで足音が近づくと声がかかる。
「ただいま戻りました。同系統No.09、【アイ】です」
「おかえり、アイとお前がいうならば情報は正常に移行したみたいだな」
「はい。当機体は不具合もなくスペアに移動することが可能となりました」
後ろを振り向いた。
「……あの一つ聞いていいか?」
「何なりと」
「小さくないか?」
初めて見たメイドとわけが違う。いや、初めて見たアイと全然違う。
確か最初に見た時のアイの身長は百五十センチあったかなかったかのくらいだったはずなのに。百四十センチと小さくなっているのがわかる。というか顔つきも若干若くなっているかもしれない。そして服を着ていない。素っ裸だ。
人形に裸という概念があるのか? 妙に胸と腰のあたりに造形美を感じ……いや今その話じゃないよな。
「なんでこの機体なの?」
「ルーナ様を愛していらっしゃるのであれば、当機体も愛していただけるのではないかと思いまして」
いや意味わかんねぇよ。なんで愛されたくて小さくなるの?
「だってミチナシ様はルーナ様を好きなのではありませんか?」
「多分少し前に行ったと思うがそれは違う。俺はアイを恋愛として見ていない。家族だ」
「……」
嘘を言っていない。俺はルーナを大事には思っているが、ルーナを恋愛感情として見ていない。一緒に暮らし、一緒に冒険をして、生活を共にする仲間であり家族だ。
確かにそこらの女より可愛くて綺麗だけど、歳も歳だ。五百歳にもなる彼女を好きになるのは少し辛いというか。赤ん坊とおばあさんのような年ではないか。そして外見も俺が少女好きと思われてしまう。おばあさん好きの、ロリコン好きははっきり言って両極端すぎる。
「ならベル様は?」
「論外。あいつは神だ。あれを好きになるという話はないだろう」
それに俺からしたらあいつは相棒に近い。変なところで神様っぽくて導いてくれて大体がバカ丸出し。持ちつ持たれつの関係のようだし……。まぁ、可愛いし、綺麗だけどさぁ。
「じゃあ、当機体は?」
「それって口にしないとダメなやつなんですか?」
「当機体もベル様と、ルーナ様のような位置が欲しいと要求します」
真っ直ぐな願い事に俺はどんな反応を見せればいいのだろう。
これだから【悪魔の証明】が大嫌いなのだ。
「……わかったよ。仲間だ」
「当機体は言質をいただきました」
はぁ……とため息をつくばかりの俺だった。
「あ、アイちゃんちっさくなってる!」
疲れたのかルーナは俺の元へ戻って来る。多少埃をかぶっているあたり、本を探したのだろう。若干汚い。
「ルーナ様。ただいま戻りました。おかげさまでスペアに移ることができました」
「そっか! よかったー。でも、なんか若返っているような……」
「スペタ体は年齢に分けられています。今回は09なので肉体年齢的には九歳前後と言っていいでしょう」
「でもそれ俺に愛されたいとかなんとかって言ってたんだが、ルーナはどう思う?」
ルーナはどう思うと言われましても……という顔をする。そりゃそうだ、ルーナ自身がそんな体型だし童顔だしな。
「お兄ちゃんはそんなことでは愛したりはしないよ? もっと節操よくしないと」
「そうなのですか。じゃあ寝込みを襲うなどのことをしてはいけませんね」
「寝込みってお前……」
まさかあの時のやつ、寝込みのつもりじゃないよな?
「ところで何か収穫あった?」
「なんも。大体が日記のような走り書きばかりでそこにしおりだの付箋だの差し込んでいたりだったよ」
「そのしおりを差し込んでいたところにはなにが書いてあったりする?」
「んー……と大体は骨や筋肉についてのスケッチおかげさまでだったね」
ちょっとエッチな本とかあったけど。とルーナがもじもじとするがそんなものはどうでもいい。
「ふーん……」
「ミチナシもそこに座ってないで探しなさいよ」
あんたが言い出したんでしょ? とベルが不機嫌な顔をして近づいて来る。
確かにそうなんだけど、翻訳がちゃんとしていない以上変に読めないのだ。
もしかしたら変な文章なのに中二病に近い読み方をしたらたまったもんじゃない。「くっ、俺の腕が人形を作れと叫ぶ」とか黒歴史見てみろ? 表現しがたい何かが心埋め尽くすぞ。
「あのなぁ。大体全部探せとは言ってないだろう」
「宝は本だと言ってたじゃん。だからページとページの間に何か挟まっているのかと思ったのよ?」
誰がそんなこと言ったんだよ。
「あのなぁ、俺が言ってるの宝っていうのはお前らが思っているものじゃないってなんどいえばわかるんだよ」
二人して首をかしげる。さらに合わせて俺も首をかしげた。
これだから脳筋は。
「一つ、木を隠すなら森の中。宝というのは本であることで一目瞭然だ。ということは本の中を見ればいい。それは正解。あっているけどもっと考えろよ」
「価値があるのは本ではなくて、本の中にある文章?」
「そういうこと」
俺は本を一冊取り上げてパラパラと目を通す。
「俺の言いたい宝というのは財宝ではない。ここの主人はきっとそういうものに興味はないだろう」
だからこのゴミ山を作り自分のやりたいことをやっていた。つまり、このゴミ山はこの死体にとって楽園であり、我が家なのだ。
そして目に止まった単語を見つける。
「【我が子】達の観察日記。つまりここにいるアイと、主人と一緒に眠る全ての人形が【宝】なんだよ」
つまり、こいつのいう宝とは【子宝】となるわけだ。
「そうだろう? アイ……いや、【イヴ】」
目の前にいる。小さい体になったばかりのアイに問いかけた。




