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人形は感情を知る

 ボロボロになった図書館は改めて見ると台風でも通り過ぎたかのような光景だった。


 まぁ、俺たちがやったわけだが。


 あの状況下ではしょうがないと言ってもいいだろう? 魔物がいた。それが至極真っ当な返事だと思っている。傍迷惑な話だ。

 そんな図書館を真っ直ぐ進んだところの壁際についている本棚の目の前までアイに抱き上げながらたどり着いた。


「ここの本を傾けた後、十桁のダイヤル式の鍵がついた鉄扉が出てきます。そこまでの手順をしてください」


 アイが指示すると、ルーナが疑うこともなく本を傾ける。するとその傾けた本から少し離れたところの本棚が奥へずれるとスライドして収納される。そして本棚がなくなったところから鉄扉が現れた。


「でも十桁の番号なんてわかんねぇぞ?」

「当機体も実はその情報は所持しておりません」

「アイちゃん肝心なところで忘れ物が多いね」

「面目もありません」

「まぁこんなことを話していても意味がないし……でも番号……」


 うーんと悩んでいると、ルーナが鉄扉に触れる。しばらくじーと見つめていると、刀を取り出した。


「え、ルーナ?」

「よっ」


 刀に魔法を練りこませ切りやすくしている。そして軽い振り下ろす形でバターでも切り取ったかのような容易さで鉄扉を壊した。


「な、……」

「よし、これでオッケーっと」

「オッケーっと、じゃないよ!? え、なんで今切ったの?」


 あまりの出来事に突っ込みがうまくいかない。俺はこのような強引な子にした覚えはありません!

 こいつ年上だけどな!


「え、だってこの鉄扉そこまで分厚くないしそれに十桁の番号とかめんどくさいじゃん」

「……」

「だから切ったの。偉いでしょ!」


 あぁ、神様……うちの子がどうやらベルに似てきたようです。

 いやだってさ? こういう謎解き要素があるなら謎を解いてなんぼじゃないの? え、何俺のダンジョン脳がダメなの? そうですか。


「偉い偉い! さすがルーナちゃんだ!」

「えへへ。ベルお姉ちゃんありがとう」


 おめーのことだよ、バカが!




 鉄扉の中は図書館と同じようにいろんな部品と、魂が入ってない人形がズラりと並んでいた。所狭しってこういう時に言うんだろうなと思った。


「人形がいっぱい……」

「いいえ、これらは全て私のスペアです」


 スペア……つまり代用品か。

 これらは全てアイを元に作られているのだろう。逆に言えばこれらは全てアイである。と思うとちょっとした恐怖だ。


 なんでって?


 例えば俺がいたとする。俺は一人だ。そうだろう?

 そこに俺がもう一人いたとする。鏡なら自分を映し出した姿だからな、自分の知覚するだろう。あぁ、これは俺なんだなって。


 ならば、そのもう一人が俺と同じ近くをする俺がいたとしたらどうなる?


 俺と同じ思考をして俺と同じ行動をする。それじゃ鏡となんら変わらないって思うだろう?

 実はそうじゃない。同じ思考をしたとしても同じ行動をするとは限らない。右手を上げたとして、俺は右手をあげるわけじゃない……あげるべきは左手だ。


 ここで恐怖が生まれる。俺のはずなのに俺じゃないって。


「……うわ、こぇぇ……」


 独り言で思わず吐露してしまう。その姿にベルと、ルーナはそれぞれ呆れている顔と心配そうな顔をしている。


「何勝手に考えに(ふけ)たあとにぞわわーって鳥肌立ててるのよ」

「ミチナシお兄ちゃん大丈夫? おっぱい揉む?」

「ルーナそのセリフは今すぐ忘却の彼方に投げ捨てなさい。あと、それ誰が言ってたか詳しく教えろ」


 まぁ大体そこにいるバカのせいだが……。というかこいつきっとルーナにいろんなこと教えてるに違いない。


「……ねぇ、あれ」

「なんだよ」


 ベルが俺に見せたいものがあるらしい。俺は面倒臭そうにベルが見ている方向を見る。


 いろんな人形に抱かれるように白骨化した遺体が椅子に座っていた。

 その人形は全てアイのように完成された姿だ。しかしアイのようにメイド服を着ているわけではなく、レオタードだったり、ワンピースだったりと様々だ。


「……あれがこのゴミ山の主人なんだろうな」


 側から見たら趣味の悪い主人だと思っていただろう。しかし俺のお堅い翻訳のせいで彼の情熱は少なからず理解をしている。それらは全て、自ら白骨化した主人に寄り添っているのだ。


 彼女たちは彼の最高傑作なのだと。


「どうするの?」

「どうもしないさ」


 俺は近くにあった椅子にアイを座らせる。


「ありがとうございます」

「礼はいい。スペアに情報を動かす方法とかは俺たちは手伝うことをしなくていいのか?」

「当機体のバックアップと、スペアに移動する方法は特にミチナシ様にしていただくことはございません」

「そうか」

「できれば少し……手を握って頂けないでしょうか」


 右手を差し出すアイ。


「なぜだ?」

「当機体がこの機体に移行してから六十年はなっています。当機体が移動した際、当機体は別機体に移った時不具合が起きてしまうかもしれないからです。ですがそれを何と表現すればいいのか、当機体には情報がたりません」

「怖い。だ」


 俺はその長くて意味のわからない文字の羅列を短く省略した。


「恐怖。恐れ、死……人間達全てが思う感情だ」

「……」

「大丈夫だ。きっとうまくいく。移行が終わったら、ルーナと、ベルと、俺と一緒に冒険や、いろんなことをしよう」

「……」


 驚いた顔をしていた。


「そうだよ。アイちゃん。今度は個と探検とか行こう!」


 ルーナもパーティに入ることに異論がないようだった。

 ベルも何も言わず笑いかける。


「全員一致だ。じゃあ、行ってこいよ」

「……ありがとう……ございます」


 アイが安心した笑顔を作ったあと、瞳に宿っていた魂の光が消え去り、この部屋に存在していた部屋にいる人形と変わらない姿になる。それを確認したあと、俺は立ち上がり大きく息を吐いた。


「さて、それまでちょっと漁りますかね」


 ルーナとベルは、へ? と言う顔をした。


「いやいや、ミチナシあんた何言ってるの?」

「そうだよ。お兄ちゃん、なんで漁るの?」


 あのなぁ、と俺は呆れた。


「そもそも俺たちがここに来た理由わかってるのか?」

「魔物討伐」

「魔物討伐」


 話がシフトしすぎて目的のことを忘れていたのかこいつら。


「宝探しだろ。俺たちはゴミ山で起きる怪奇現象の原因究明をしたのち、アイを拾って宝探しをすると言う目的だろう? 当初の目的を忘れるな」

「と言ってもここにあるの全部ガラクタみたいなものだし、本ばかりで金物(かねもの)はないよ?」

「……」


 ルーナはベルの意見に首を縦に動かした。

 俺は溜息をついた。


「誰が金物(かねもの)を宝としている。それは頭の悪い奴がすることだ」


 ついでに言うと金物をつかまされた奴が持ち帰ったものは真鍮だった。と言う話はどこかで聞いたことがある。


「俺が思う宝とは本だ」


 アイが帰ってくるまで俺たちは本が並ぶ本棚を読み漁ることにしたのだった。

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