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肩を貸す仲

 

 実はその直後、俺は意識をなくしていた。


 まぁ、予定調和(おやくそく)ともいうし神のみぞ知るセカイともいうし。言い方は様々だ。あと持続的な死亡を含めるとおそらく六回は死んでいる。体力的には十回までが限界だと見積もっている。

 次第に意識が戻りつつあるのを感じると次第に体に柔らかい物が触れているのを理解する。

 きっとルーナが俺に抱きついているのだろう。ベルはそんなこといないし、死んだと思っているのだろうか、色々と思いが馳せる。起きた時にどんな反応をしてあげようかとか、とりあえず起きた時に勝利について喜ぶべきなのだろうかとか。


 ……あれ俺、もしかしてこの状況を楽しんでいる?


「……はっ。……ふぅ」


 自発呼吸が止まっていたのか無呼吸症候群によって息を吹き返した様な感覚に陥った。心臓が大きく揺れ動いたかの様な動機に襲われる。それこそ夢の中で階段から落ちたような心臓があぶってるような状態だ。あれ見るといつも首筋を寝違えたのを思い出した。


「……生き返っているな……」

「おかえり、ミチナシ」


 眼前にベルの顔が見える。

 なんでだ? もしかして何かあったのか? 何が起きたという顔をしてしまった。

 というかベルに膝枕してもらっている。まずその状況を把握するのに時間を要した。


「膝枕?」

「うん」

「なんでしてるの?」

「さぁ? なんとなく」


 なんとなくじゃねぇんだよ。


「基本的に俺になびこうとしない女神様がこのことをやってるのが気持ち悪いんですが」

「酷くない? 私が何しようが一緒じゃない」


 そこそこある胸を張って主張する女神様。

 いや、全然一緒じゃないんだよ。としかめっ面をした。


「ミチナシお兄ちゃん!」


 竜の山で初めてあった時の様に俺の上に乗っかっていた。あの、体勢が結構際どいですわよ? それこそなんとか四十八手みたいな、規制がかかりますね。多分。

 きっとルーナはわかっててやっているのだろう。多分、ベルに色々と教え込まれてるだろうし。


(わたし)(わたし)、本当に心配したんだから! わかってるの!? お兄ちゃんがいなくなったら個どうしていいのかわかんないんだから!」

「ルーナ、そこまでお前何もできないやつじゃ」

「できないの! お兄ちゃんが好きなのに、いなくなったら個は誰と生きていけばいいの!?」

「お、おう、分かった……悪かったよ」

「全然分かってない!」


 ルーナは泣いてる。なんで? なんで泣いてるのルーナさん? おかえりって言われたいんですけど、なんでこうなった?

 それに対してベルは呆れ顔になっている。すすり泣いているルーナに戸惑いながら俺はベルにどういうことかと見ると、眉間にシワを寄せた。いや、なんでそんな反応するんだよ。


「なぁ、俺ってなんか悪いことしたのか?」

「別に、あんたは冒険者らしく魔物と戦い、死にまくって勝っただけよ」


 だよな? と俺は同意をする。するとベルは俺の後頭部を思いっきり叩いた。気持ちいいくらいの音が響く。


「いってぇな!」

「あんたの体はあんた一人の体ではないってことくらい理解しなさい」

「俺一人の体……」


 なんで説教された……?


「ミチナシは私とルーナの、仲間なんだから。そりゃ死んだり、自分の体を犠牲にして戦う姿を見ていたら不安になるよ」

「……そっか」

「?」


 そうか。俺はもうこの世界の住人なんだ。

 誰も知り合いがいない。異境の地(べつせかい)に飛ばされた人間じゃなくなったんだ。一人ぼっちじゃない、仲間がいる。そう思うだけで胸がジーンと何かがあふれた気がした。


「ベル」

「なに?」

「お前たまにはいいこと言うよな」

「あったりまえでしょ? 私は神様なんだから」


 確かにそうでした。

 いつもこんな感じで人間を導いてくれたら神様として信仰してもいいかなと思った。


「そんなことよりアイは? 覚えている限り倒れてた……」

「あそこよ。あの場で倒れてから一度も起きてないわ」


 俺は起き上がるとベルが見つめた先を見た。そこにはここに来るまでにみた命がない人形と変わらない姿をしていた。

 歩み寄ると虚空を宿した瞳で俺を見ていた。いや、ただ視線の先に俺がいただけだ。

 右手の排熱機構は収納されておらず、逆立った髪はボサボサのままそのままだ。

 まるで命を燃やし尽くした人間のようだ。


「……ありがとうな。ルーナとベルを助けてくれて」


 俺は感謝を述べる。返事なんてあるわけがない。

 ルーナもベルも俺の後ろで立っていた。アイを一目見ようと、俺は手を伸ばしアイの頬に触れようとした。最後に彼女に触れておこうと思ったからだ。


 ちくりと痛みが走った。


 針に刺さったようなほんのちょっとの痛み。その痛みは背中で受けても痛くはない程度であったはずだが、手は感覚が鋭いためにほんの少しの痛みでも激しい。

 思わず手を引いた。


「……再起動ニ成功シマシタ」


 排熱されてそのままだった腕の展開は収納される。機械音声のような言葉に安堵の気持ちが溢れる。


「……ミチナシ様、ルーナ様、ベル様。今日はいいお日柄で」

「お前それを今真剣に言ったのなら本気で置いていくぞ」

「確かに腕と足がなくなってしまった状況で置いていかれたら困りますね」


 当機体の状況を確認します。と彼女は何事もなかったかのように口を開き始める。


「アイちゃん」

「どうされましたか、ルーナ様」

「よかったぁぁぁぁぁぁ」


 ルーナは、泣き腫らしていた顔が破顔し号泣した。


「いぎでだぁぁぁぁぁ! よがっだぁぁょぉぉぉぉぉ」

「泣いてる姿格好ブサイクだな」

「ミチナシ後で校舎裏な」

「……ベルさんちょっと話し合うか? 少し弁明の余地を」

「ないね! 殴るね!」


 わいわいと俺たちが会話をしていると、アイは少し寂しそうな顔をした。どうかした? とアイに近寄るルーナ。彼女をちらりと見た後少し考えた顔をした。


「……当機体にはその感情がよくわかりません。当機体にはない情報です」

「馬鹿だなぁ。アイ」

「ミチナシ様?」


 俺はボサボサになったアイの髪を直しながらルーナの気持ちを教える。


「嬉しいってやつだよ」




「結果的にアイ。お前って記憶は」

「当機体に記憶は戻りませんでした」


 アイはそう告げた。やっぱりそうだったか、機械……人形だけど、記憶を保持できるとしても消えたらそこまでのはずだ。

 忘れたとしても思い出すことができる力を持つのは人間などの生命だけだ。


「ですが、当機体は別に問題はありません」

「なんで?」


 ルーナが問いかける。アイの黄土色の瞳がルーナを見つめた後ニコリと微笑む表情を作る。


「過去に囚われても、何も生まないからです。当機体は確かに六十年前に機能を停止しました。例え、その六十年前のことを思い出したとしても、今ではありません。昔は昔。今は今です」


 確かにそうだな。温故知新……古い事を求めて新しい事を知る、解釈する。とどこかのお偉い様が言っていたが、別に今しなくてもいい。

 その発言にルーナは嬉しそうな顔をしていた。


「そうだね。アイちゃん一皮向けたね」

「腕と足がありませんがこれは一皮と言えるでしょうか」

「いや、その一皮じゃないし、物理にするなよ」

「じゃあツキモノが取れたと言えばいいですかね」

「それも物理の意味で言っているなら本気で置いていくぞ」


 冗談が言えるあたり本当に大丈夫なのだろう。あの事切れていた状態が嘘のようだ。


「でもこの格好どうするんだ? 何かできるならやるけど」

「なんでもするも言いましたか?」

「言ってない。ただお前一人じゃ何もできないだろうって言ったんだ」

「そうですね……」


 右手で顎に触れたあと、指を離して提案を出した。


「とりあえずスペアがあるのでそれに変更したいですね」

「スペアあるの?」


 えぇ、と彼女は頷く。


「当機体には同系統モデルが十一体あります。今までそのスペアに触れることはなかったので性能的には不明ですが、プロト体であるこの体より下がると思います。しかし動けるか動かないかと言われるとスペアの方がいいかなと思いまして」

「……ちょっと言ってる意味がわからない」

「端的に言えば、当機体はスペア体があるのです」


 ダブルピースしそうな勢いで俺にドヤ顔らしい表情をしてきた。

 なんかムカつく。


「そのためにはまずスペア体の所に行かなくてはいけなくて、そのために少々肩を貸していただきたいのです」


 さいですか。俺はなんとも言えない顔でアイを見ていた。

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