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機転

 いつも背負っていたバックパックのショルダーが爪により切断し明後日の方向へ飛ばされていた。

 作戦はバックパックの中身と要相談と考えを改め走る。

 左腕を失っているアイは無表情のまま蜘蛛の魔物と踊るように戦っていた。鋭利な爪は何度もアイに向けて繰り出すのだがそれを間一髪で避け、それに合わせてナイフを振り上げて腕に切りつけるが火花が散る程度で大したダメージを負っている様子ではない。

 ルーナもアイと別方向からの攻撃を繰り出してはいるが其方もダメージを負うことができていないらしい。右腕の逆鱗を見る限りまだ余力はありそうではあるが長期戦は禁物である。


「あった……」


 バックパックを手に取り中身を確認する。色んなものが混ざり合ってはいるがすぐに並べ替えれるほどの量のためすぐに整理整頓ができた。

 現時点での敵に対しての難点は外骨格が硬いことと、目標が俺の他にも存在しているということ。ということは俺が囮役で戦うことは難しいことだ。火力特化のルーナを始め、ベルもアイも攻めることしかできていない。

 ならば搦め手を使って隙を作りそこを起点にやるしかない。


「原点に帰るとはこういうことなのか」


 苦笑いをした。たしかダーシュのおっさんの時も火炎瓶とアルミニウムの燃焼による水蒸気爆発で辛勝した。

 しかし問題点はいくらでもある。

 まずバックパックの中身にあるものはそういう火炎瓶となるアルコールの液体はない。あったとしても液体はさっきの衝撃で割れてしまっているだろう。つまり、搦め手の中でも攻撃系へと偏ることができない。


「松明の残りと…包帯と、着替え、あとスリングショット……火打ち石」


 あまりにも搦め手として力不足すぎるアイテムたちだ。

 ルーナが魔物が振り回した腕に攻撃される。


「っつ!」


 ふわりと浮き上がったルーナは目の前で空気の爆発を引き起こし追撃をしてくる魔物の腕を避けた。しかし勢いに乗りすぎたのか本棚に衝突する。


「ルーナ! 大丈夫……」

「大丈夫! お兄ちゃんをもう死なせないから」


 振り払うようにルーナがまた魔物へと飛びかかる。そこまで食い気味に言われるとお兄ちゃん悲しいけど……。いや確かに無謀なことばかりして死んでいるのだから必死になるのはしょうがないというか、でもなんでそこまで俺に必死になるのかよくわかっていない。

 ルーナが飛びかかる衝撃で本棚がずれた。


「……」


 作戦を思いつく。バックパックの小さいポケットに確かあれがあったはず……。

 ごそごそとバックパックをひっくり返すように探すと痛みに指を引っ込める。それを丁寧に中身から出す。


「これだ」


 やるなら一度きり。規模の大きいが確実性のある搦め手。


「ベル! いるか!」

「いるわよ! なによ! 私に何か用なの!?」


 ベルがまだそこにいてくれて本当感謝したくなる。バカだが、バカなりにずっと待機していてくれた。


「頼みごとがある。いまから隠れながらでいい、これを持って魔物を中心に走り回ってくれ」

「は?」


 素っ頓狂な声を出した。お前今この状況で言えることなのかそれ。


「は? じゃねーよ! 一分一秒もこうしている暇はない! ルーナがどうなってもいいのか!?」

「よくない!」

「なら言った通りにしろ! 魔物を中心に走り回れ!」


 俺はそういうとベルに【これ】を渡すと彼女は全力で走り出した。俺はそれを見送った後、近くの本棚に括り付ける。

 俺も行かなきゃ。立ち上がる。前よりは体調は良くなった、走れるまで体力が戻る。

 それと同時にアイが攻撃を受けた。床に叩きつけられたボールのように弾むと転がる。

 彼女の元へと走って行くと、正面から攻撃を受けたのか流石に損傷がひどかった。


「アイ!」

「ミチナシ…ザマ。当機体の損傷ガ……六割ヲ超えまシタ」


 左腕から血管のような配線がでていたり、左足が潰れていたりと想像を絶する死闘を繰り広げたのがわかる。


「六割ってどんな感じだ?」

「子どもガ作れナイ、レベルとでモ言っておきマスか」

「それ全然元気だわ。もっとがんばれ」


 むっと変な顔をする。だって人形が子ども作るなんて正直信憑性にかけるというか。


「ならルーナ様とノ子どもを子守するクライならやりマス」

「ルーナとそんな関係じゃないし」


 とりあえずこんな冗談が言えるのであれば全然まだ大丈夫ということなのか。所々微妙に音声が変ではあるが。

 俺はアイを抱き上げて物陰に隠れる。現状機械操作的なものには疎い。だから詳しいことは何もできないから見ているだけしかできないが。多少の話を聞くことはできる。


「それよりあれはなんだよ。所有者がなんとやらって」

「アぁ、あれは演技でス」

「随分と余裕なんだな」


 機械ですから。と言いかねない。痛みがないから。とか、感情がないから。とか。


「でもそこまでしないと大変でしたよね」

「……感謝する」


 そう言われてしまうと否定はしない。ルーナはずっと蜘蛛の魔物と死闘を繰り広げる。目が潰れているために視界がかなり狭くなっているのを優位に死角から攻撃を加えている。紫紺の斬撃を与えるたびに火花は散り、少しずつ、外骨格に亀裂を入れている。

 亀裂を入れて行き中身に攻撃を打ち込むのが理想ではある。


「クソ、足止めはできたとしても決め手に欠ける……」


 ルーナの力は継続的な力であり、ベルは正反対の瞬間的な力だ。しかしベルは力が強いだけで大ぶりで隙だらけだ。魔物も標的は俺だけに縛られるわけでもない。


「……ミチナシ様。実は必殺技がアりましテ」


 彼女の表情は固く覚悟を決めた顔をしていた。




「ルーナ! 陽動を頼む!」

「うん!」


 一言返事でルーナは与えられた任務を受ける。ルーナはこちらを一瞬だけ見ると俺とアイの動きを把握する。

 俺は今のうちにアイを抱き返え、少し離れた場所に設置する。


「……」

「大丈夫デス。()りキリまス」


 無事な右手でナイフを掴む。すると空気を切り裂く音をたてた。


蓄積(チャージ)を開始シマス」

「……頼んだ」


 俺は立ち上がり本棚にくくりつけたそれをナイフで切るとテグスを引いた。肉に食い込み血が滲む。

 それとはゴミ山で拾いあつめた蜘蛛の魔物の糸だ。


「ミチナシ!」

「おかえり」

「これをどうする? こんな頼りないものすぐに切れちゃうよ!?」

「いいや絶対大丈夫だ。絶対にうまくいく!」


 俺は言い聞かせる。うまくいく。絶対に!


「俺は神に祈る。うまくいくって!」

「ミチナシ……!」


 ベルがじんわりと涙を滲ませているが気にしない。


「準備はできた。ベル! 走れ!」

「うん!」


 アイの蓄積(チャージ)の蓄積完了の音声が七十パーセントとカウントをしている時だった。

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