傍観者は後にやってくる
耐える事は正直なところ大嫌いである。
耐えなきゃいけないことがあるならばさっさと解決に進もうとさっさと解決しようとするタチだと少なくとも俺は自負している。他人がどうであろうが、何であろうが済ませたい。それは昔からある俺の行動理念出会ったりする。
しかし大体解決に向かおうとすると、その答えに巡り合うのにかなりの時間を有したり、障害を迎えたりしているのだ。
「っあぁぁぁ!」
そして今現在がその状況であったりする。
馬鹿でかいゴーレムはどこかの漫画のハードパンチャーよろしく大きな盾を持つ俺に攻撃し続ける。それを正面で受けるのではなく、斜に構えいなしたり避けれるものは避けたりと芸達者のように耐えきる。
こんな芸当できるのはこの盾だろう。さすが普通の盾じゃないと感心してしまう。俺の腕が砕けるほどの衝撃をずっと受け続けても凹む程度でしかなかったし。
伊達に鍛治師の武器を販売している人だな。と不意に委託販売のカロンに感謝した。まぁ、あんな事したしな。悪いことをしたと思っている。でもあのやり方は良くない。
「よいっしょ!」
ギリギリのところを前転して避ける。そしてゴーレムの足元に行くと今度は足が持ち上がり踏みつぶそうとしてきた。それも予測の上で走り避ける。
攻撃もせずただ避け続けるだけなんて正直なところ俺の考えに反する。しかし現時点で有効打なんてこのゴーレムに一切合切ないのだ。
思わず舌打ちする。バックパックに入ってる物ではゴーレムを破壊する武器や道具もない。とにかく耐えるべきだ。
「お兄ちゃん! 場所見つけた!」
との声が上がる。ルーナの声だ。
でかした。と心の中で叫ぶ。あとは、あのバカの方だ。
ちらりとアイが巻き込まれた場所を見るとベルが一生懸命アイを引っ張り出しているのを見つける。アイも壊れているようには見えない。
どうやら現時点では順調である。
バックパックの横にある小さなポケットに手を突っ込んだ、丸い玉を三個ほど手にすると俺は思い切り床に投げつけた。
それと同時に鼓膜が破れるような音がこの空間を襲った。
「本来こういうのに使うものじゃないんだけど……!」
癇癪玉。昔よく遊んだ物で、音を楽しむ物だ。しかし今この状況で、ルーナに知らせる物がこれしかなかった。どこにあったの? いや、作ったんだ。
ゴーレムがびくっと人間っぽく身震いした。いや、【驚いた】。
「そりゃそうだよな。あんなでかい音を【糸を通して聞けば】体が止まるに決まってる」
ほんの数秒だけの硬直でいい。ビリビリと余韻を楽しむその癇癪玉は例の魔物とっては良くない刺激だろう。
突如対角線上に紫色の輝きを見た。それと同時にゴーレムの怯みは消え去り変わらず俺を標的にする。あとはもう勝手にしてくれ。この一撃をまともに受けたら死ぬ。
「だけど俺の体は死なないからな」
不敵に笑う。そして振り落とされる殺意に満ちた拳。そしてそれを横目に放たれた紫色の衝撃。
「ほんとタイミングわるいな」
俺は笑いながらその拳に潰された。
ゴーレムは動かなくなった。まるで電源が切れたかのように。静寂はなかなか来訪することなく、紫紺の衝撃が本棚を切り刻んで行く。そして切り刻まれた紙片が飛び散った。
「とまった?」
ベルはその光景を口にする。ベルの近くには目を閉じているアイがよこたわっていた。
俺の体は修復され、元に戻る。そしてとまったゴーレムを確認する。やっと静寂を宿した空間に静まったゴーレム。とてもアンバランスだ。
「いや、あってたなぁ」
「ミチナシお兄ちゃん! どう? 個のタイミング最高?」
褒めてアピール強めでルーナが走ってきた。頭を撫でると、ルーナが心地よさそうに目を閉じた。
「よくやった。ただ、もうちょっと手加減してもよかったんじゃないか?」
「でも何を切ったのかわかんないんだけど……個は何かしたの?」
おいおい話す。と俺は答えると、今度はベルがこちらに走ってきた。土ほこりで顔がドロドロだぞ?
「ベルよくやったな」
「ミチナシ! 一体何が?」
「こいつは魔物に操られていたんだ」
な、なんだってー!? みたいな顔をする。それ古いからな。あと、ルーナもそんな顔しない。可愛い顔が台無しだぞ?
「いやでもこれゴーレムじゃん! まさか中に魔物が」
「いやいや、もっと別のところにいるさ」
そう、問題はそこだった。
「ゴーレムは人……そう、俺たち人間が作り上げたもので間違いはない。なら人間を狙う必要性がないんだ。逆にもし自律して動けるのならば魔物を倒しているだろう」
「そ、そうだけど」
「ならこのゴーレムは魔物に操られていた。そう考えるのが順当だろ?」
なら、どこにいるのよ? とベルが尋ねてくる。思わず嘆息した。
「あのなぁ。お前がさっきいっただろ? 【上だ】って」
「まさか……」
ぱきっと音が鳴り響いた。その音は天井から聞こえてきた。
「そう、まだ【魔物を倒して】いない」
そして、その魔物はさっきまで傍観者のように俺らを見ていたはずだ。
壁から外骨格の軋む音が聞こえた。
「ほら、ここから本番だぜ?」
俺は盾を持った。




