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人形へのロマン

中世の図書館の作りに近かった。

ずらりと並べられてきた人形の部品や、部位などの部屋と比べ開放的でどこか神秘的だった。


「はえー。すっごい」


ベルが感動まじりにいう。埃臭く、古ぼけた匂いもする。しかしそれは長い年月を過ごしてきた本たちの匂いだ。歴史がそこにあった。

その空間に立ち止まっていたアイは無表情に、しかし感極まったような顔をしていた。


「……アイ?」

「どうされましたか? ミチナシ様」


いつもの顔に戻る。俺はその顔を確認すると少し微笑んだ。


「ここにある本は見てもいいのか?」

「構いません」


じゃあお構いなく、と俺は近くにあった本に触れる。

その本の頭には長年の埃が積もっていた。軽く払い開いた。


それは古い言葉だった。どこか懐かしく、どこか神秘に触れた、それでいて達筆だった。

もともとそこにいる神が知らない間に授けた言語解読の力を使って文字を読むことができる。


ーーー人形の腕部構造の可動域拡張及び円滑な動作のテスト。


ーーー人形の腰部構造の人間性機能美についてのレポート。


他にも、人形の脚部周囲の連動の機能性や、人間の頭髪についての機能美などなど……。

それらは全て人形に対する情熱……だっ?


「ん?」


文字の読み取りに誤作動がある感じがする。何だろう? この言葉のズレ感。

そう、いうなれば、ニヤリと笑った、という意味のつもりが唇がめくれ上がった、みたいに読んでしまうみたいな。

ニュアンスがあってるけど、用途が違うような。


「なぁ、ルーナ」

「なーに、ミチナシお兄ちゃん」


ルーナを呼ぶと俺のところにとことこと歩いてきた。そしてルーナに先ほど開いた本を広げてみせる。


「これなんて読む?」

「お兄ちゃんまたまた何言ってるの? こんなの誰でも読めるよ?」


なるほど。つまり誰でも読める文字なのだと。


「じゃあすまないが声を出して読んでもらっていい? そうだな。一番最初のところと、次のページのところ」

「んーと……【ニノ腕のあたりのラインのエロさについて】……【激選! 俺がエロいと思う下腹部】……お兄ちゃん?」

「……」


だんだんうつむいていく。頬を赤く染めて睨むように俺を見つめるルーナが出来上がった。

……なるほどね。

と思った時には業風を纏う張り手が襲いかかってきていた。




「痛いんだけど」

「自業自得だと思わない? ミチナシ」

「絶対に俺のせいじゃない。悪いのはお前が俺によこしたこの翻訳機能だ」


ベルがはて、何の話? という顔をしている。きっと俺にこの翻訳機能を渡したのを覚えていないのだろう……いや、気づいていないのだろう。

俺の頬には真っ赤な紅葉が出来上がっていた。じんじんと痛みを訴えているその痣はルーナが繰り出した一撃である。

地味に身体強化をして繰り出したものだから、ダメージも結構あった。逆鱗光っていたし。


「これを魔物が食らうのか。末恐ろしいな……」

「ミチナシお兄ちゃん」


こちらに近寄ってきたルーナが申し訳なさそうな顔をしていた。おそらく自分のしたことに後悔をしているのだろう。

今回の件は俺が完全に悪い。だからそんな顔されると居心地が悪いものだ。

俺は私は悪くない。けど力を込めて引っ叩いたのは私だし……。と責任を感じていたルーナの頭を撫でた。


「大丈夫、ルーナは何も悪くない。むしろ俺が悪かったんだ」

「嫌いにならない?」

「ならないならない。ルーナを嫌いになったことは一度もない」


その言葉で安心したのかにんまりと笑って抱きついてきた。五百歳といっても、まだまだ子どもなのだ。少しくらい甘えさせても差し支えはないだろう。


「さて、この図書館でわかったことは趣味全開で彼らの本を作ったってことだ」

「趣味?」

「これら全て俺は機能テストや、デッサンとかそういう美術センスを謳ったかのような文章にしか読めないが、お前達が見るにはおそらく顔から火が出るほどの恥ずかしい話なんだよ」


言うなればエロ同人誌。いや、エロデッサン。

言い方が悪いか。それらをカッコよく、いい感じのニュアンスでいうなら【春画】というわけだ。全然いい感じではない。


「しっかしこれだけの量。何に使う気だったんだ?」


上にあったおもちゃのゴミ山も何のためにあったのか、それも謎のままだ。

頭を掻いた、考え事はあまり好きじゃないんだよ。


蠢く音が聞こえた。外骨格の生命体のような関節の軋む音が聞こえる。

地下の施設だから様々な方向から聞こえる上に、燭台に火を灯したものの全てが見えているわけではない。


「武器を構えろ! ベルは同じように影に隠れろ。ルーナは俺の隣に。アイはこの場から離れろ!」

「……」


アイが返事をしない。上を眺めるようにぼんやりとしていた。


糸を引く音が聞こえる。その音は上からだ。

上を見るが暗くてよく見えない。

マズルフラッシュのような閃光が走ると同時に燭台に向かって何かが飛び降りてきた。その近くにいたアイと巻き添えを食らう。


「アイ!」


呼びかけても返事をしない。着地と同時に巻き上がった埃が視界を悪くした。

裾を口にやり噎せないようにして、目を細める。


まだ何も見えない。


しかし変わらず外骨格の擦れる音の他に関節が鳴り響く音が聞こえる。


空気が動いた。それと同時に盾を前に突き出すが、轟音とともに体がのけぞった。


「っ……!」


重たい……!

振り抜いていったものは確認できない。しかし埃が舞う空気の切れ方を見る限り棒状のものだとわかる。


「ルーナ! 空気を爆破してくれ!」

「うん!」


ルーナが俺の後ろに隠れると同時に逆鱗が光り出し空気の破裂を引き起こす。

宙に舞っていた埃が吹き飛んだ。


「……なんだこれ!?」


その姿は異形だった。いや、魔物としてではなく人形として……だ。

その姿は複数の人形の部位が細胞として、組織になり、構成されておりそして一つの大きな人形として動いていた。

頭部がない人形は軋みながら動いていた。

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