【アイ】
「というわけであの場所で引き起こしていた怪現象は蜘蛛の魔物による襲撃と、この方のせいでした」
「……この子人間では?」
「はい、私は人間です」
「嘘をつくなお前。人間なわけないだろう」
ギルドに報告は戻った俺たちはエリナに怪現象の解決の話をしに来ていた。ルーナは俺の隣に座っていて、例の人形は後ろで立っている。ギルドの中もざわざわとしていた。そりゃこんな存在だしな……メイド服だし。
「メイド服だ……」
「メイド服……!」
「アキハー!?」
とおっさん達が驚きの顔をしていた。アキハーってなんですかね。後で教えてもらうことにしよう。
あ、ベルは「私は難しい話、苦手だからいってらっしゃい」といって銀貨一枚盗んで消え去った。後でぶん殴ってやる。
そしてゴミ山の原因究明の話をしたのだが……。
「遂にミチナシさんは、人形にまで手をお出しになるとは思いませんでした」
「ちょっとお前ツラ貸せよ。言っていいことと悪いことを、一から十まで教えてやるからよ」
からかっているのか? わざと言っているのかな? 少なくともエリナは悪戯に言っているのはすぐにわかる。
俺の顔はちゃんと笑えてないのだろう。エリナは遠慮しておくという笑顔を見せた。
「で、こいつどうしたらいいんだ?」
「と言われましても……私どもでは彼女というべきなのか、どうしようにもできません」
物的証拠ではあるが、動く。そんな存在を預けられても困るだろう。ギルド側の見解としてはそうなる。例の人形はビシッと背を伸ばし直立不動のまま動かないし。
「どうしようにもできないって、一応これは【物】だろ? 意思があるかどうかなんて別だけど、あのゴミ山の中で証拠のようなものだ。それに俺が住んでいるところでは限界がある。引き取ってほしいんだが」
なんせ宿の二つの部屋を借りている。もう俺がどうにかするレベルではないのだ。このまま借りる部屋が増えていくとタストバードラーからもらったお金は底を突く。
「それに何かしらの宝物があそこにあるかもしれない。その地図をこいつが持っているかもしれないだろう?」
「た、確かに」
「いいえ、私は管理者権限をもつ方にのみにしか情報を提供しません」
唐突に打ち切られる。メイド服の人形はジロリと俺とエリナを見た。
見たというより睨んだ? 黄土色の瞳が人形のもつ生気の無い視線を持ちあわせていた。
「ちなみにその管理者権限というのは?」
「あなたです」
「……は?」
「血液を頂いた時に【ついでに】登録させていただきました」
なので、管理者権限を有するあなたの命令のみ聞きます。と【彼女】がいう。
「……えーっと」
「つまり、この子の所有者が【ミチナシさん】ってことですね! ならギルド側が干渉することはありません!」
「おいおいおいおいおいおい……。まってくれよ! 少し前までクエストに依頼していた怪現象の原因究明の件、そしてこいつどうするんだよ」
「それはミチナシさんが解決したでしょ? 私たちはあくまで原因究明をするだけであって、現地から持ってきたものに対しては徴収するスタンスをもっていません」
つまり? 自分のことは自分でやれと?
「良かったですね。【ミチナシさんだけで宝探し】ができますよ?」
「ちょ、まって」
「いいじゃないですか。最近【スロープ】を引き連れてクエストをしたりと色々いい思いしているじゃないですか」
スロープ? なんだそりゃ、坂道?
ルーナの表情がやや暗くなったのを確認した。翼が生えていれば、しゅんとした動きがわかるくらいに。
俺がよくわからないという顔をしていると後ろに突っ立っていた人形が口を出す。
「この世界には三つの種族で構成されており、さらに内わけで六種類の種族がいます。一つは私を作った【人類】、もう一つは長い耳で森に住む【森精類】、そして、山などにすむ【侏儒類】。これが基本である三大種族です。
そしてさらに内訳されたものがあり、人類には、【ヒューマン】と【ウィッチ】。森精類には、【エルフ】と【フェアリー】。侏儒類には、【ドワーフ】と【スロープ】と分けられています。
今回、所用者【あなた】の隣にいる【この子】の格好からすると、スロープに似ているためにそういったのでしょう」
「へぇ、割と知っているものなんだな」
つまり、ルーナの存在というのは竜ではなく、スロープ……? あれなんか変な感じがする。
「個も最初ここにいていいのかなとか、色々考えていたけど誰も責めないから不思議だったよ」
ルーナが話に乗ってきた。表情から察するにこの話を流そうとしているのだろう。そして間接的に人形を褒めたのか、彼女はニコリと嬉しそうに微笑んだ。
「最後の更新が六十年ほど前なので」
「全然だめじゃねえか。情報古過ぎだろう……」
ふと思い出した。
「なぁ、お前名前は?」
「持ち合わせておりません。いえ、記憶域に入っていないというべきですか」
「お前を作った人は?」
「存じません。そもそもなぜ私があそこにいたのかも正直わかっていません。六十年ほど前まで起動していたのは覚えているのですが」
「バグってるのか?」
「私にバグという言葉はありません。一時的なメモリー障害のはずです」
「人間でいう記憶障害な」
なぜ、人形を人間扱いにしたのを俺は覚えていない。
「なんならあなたに名付けてもらったほうがしっくりするものです」
「あなたっていうな。まるで旦那様みたいな感じだろう」
「え!? あなたってそういう意味なの!?」
「そこでなんでルーナが乗ってくるんだよ」
「ミチナシの旦那ー」
「エリナ。お前は違う意味で言うな」
ルーナから離れる。そして人形の目の前に立ってその姿をまじまじと見つめた。
赤毛を編み込みしてあり、黄土色の目……。きめ細かい皮膚……。
「アイで、どうだ」
赤毛のアンだと安直すぎるからな。【自分探し】ってこともあるし、アイ。
「アイ……いいですね」
「アイちゃんよろしくね。個はルーナっていうよ」
「ルーナ様……彼の下僕一号ですね」
「ちげぇよ」
「ゲボク? よくわかんないけどそれで!」
「いや! ぜんっぜんよくねーよ!? それ俺の手駒っていうか奴隷みたいなものだからね!? アイ! お前もルーナの純粋な心を穢そうとしているだろう! 次やったらお前スクラップにして売り飛ばしてやるからな!」
「それはそれは、嫌ですね」
「嫌ならするんじゃねーよ! あと俺はミチナシだ!」
ミチナシ様ですね。登録しました。と彼女、アイは答えたのだった。




