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持ち帰ると呪われる人形

 

「ルーナお前、すごいな」

「えへへ、隠し技ってやつだよ」


 いや、本当予想外だった。魔法が使えるといってもルスと同じ使い方をすると思っていた。ルスは磁力や、磁界を使って戦うものだから、ルーナも同じことができる。

 しかしルーナの魔法は違った。人間の技術によったものへと発展させ効率性と威力を伸ばしている。

 人間が好きであるゆえの努力。


(わたし)は炎に準ずるものならなんでもできるよ」


 あと身体強化も、とついでのようにいう。

 あれ、そうなら別に中型の剣でもよかったんじゃないの?


「……おみそれしました」


 ルーナの背後からまた閃光と人形の腕が襲撃してくる。それに気づいたルーナはまた刀を抜き叩き伏せていく。華麗な舞のように動き回る彼女の剣さばきは美しかった。


「本体はどこから……」

「お兄ちゃん(わたし)が叩き落としている間にどこにいるか割り出して! 身体強化はそんなに長く使えないから!」

「わかった!」


 彼女がいま叩き落としているうちに魔物がどこから打ち込んでくるのか見つけなきゃいけない。

 閃光が、見える。発射されるときのやつなのか? しかし発射音は聞こえない。だから銃で起きるマズルフラッシュではない。倒した魔物の死骸を確認する。蜘蛛だ。


 光る理由はなんだ。


「お兄ちゃん! 早くしないと逆鱗が尽きるよ!」


 ルーナの腕で輝く逆鱗の数が著しく減っていくのを確認する。だんだん襲いかかる数が激化していた。全然わからない。


 一か八かの賭けに出る。


「ルーナ! 避けろ!」


 ルーナに合図を送ると、ルーナは横に跳躍する。

 ずぶりと体に足に頭を貫いていく。その数四十ほどか……。やっぱ痛い。痛すぎる。

 腹に風穴が空きすぎて内臓がどろりと地面に落ちた。頭がないのに意識がある。本当自分の体が気持ち悪い。


「ミチナシお兄ちゃん!」


 ルーナの悲痛な叫び声が聞こえる。ベルはその光景を見ているだけだ。

 だけどこれでいい……!


「……ゲホッ、見つけた」


 貫通していった箇所を握りしめる。人形の腕に取り付けられていた【糸】を掴むことができた。ぎちっと金属の音が聞こえる。

 ぎゅるっと糸を引く音が聞こえた。指が包丁で切り落とすように飛んでいく、しかし今は復活中なんだ。握りしめ直す。


 そして思いっきり引っ張った。


「どっせぇぇぇぇい!」


 糸はキリキリと音を鳴らしながらその糸を引き出した魔物の場所を割り出す。

 ゴミ山の瓦礫が動く。ベルの方が近い!


「ベル、そこだぁぁ!」


 ベルに合図を出すとベルは大剣を掴み跳躍する。落下の速度と合わさって振り落とされた威力は小型の爆弾が爆発したくらいの土埃を立たせた。


「ゲホッ……力が無駄に強いあいつだから重たい武器がいいと思ったが……これも予想以上だった」


 山だった場所は綺麗に割れている。蜘蛛の魔物は両断されており、絶命していた。

 ずるりと大剣を引き抜くとベルは肩で息をしている。


「ナイスファイト」

「も、もうやりたくない……!」


 ベルは泣き言をいって、その場に座り込んだ。




 座り込むルーナに俺はバックパックから水を入れた袋を取り出し、渡した。ルーナはそれを受け取ると口にした。


「ルーナ、どうだ?」

「ぷへぇ……、んーと正直疲れたかな」


 あはは……と元気ない笑顔をつくる。

 そうだよな。まだ復帰して一月しか経っていない上に竜としての力をほとんどない状態だ。

 逆鱗の輝く数は二十三しかない。ここに来る前にざっくりとルーナの逆鱗の数を数えたことがある。六十六あるのだが、そこから一気に三分の一まで減るのは効率が悪いということだ。


「魔素の供給も悪いし、調節もできないから結構変なところで使ってるかな……。もっと根本的な見直しが必要かなぁ」

「といってももう敵の領域だ。いま見直していたら悪くなったりするから、その反省はまた今度だな」

「ごめんなさい」


 落ち込んだ顔で、涙目にもなっている。ルーナの頭を撫でる。突然のことで驚いていた。



「謝ることはないさ。まだ始めてばかりだしこれから改善していけばいい」

「うん!」


 さてと……現状を把握しよう。


 ゴミ山に行った俺たちは蜘蛛の魔物に襲われる。ルーナの体力の残りもそんなにないし、ベルも力があるだけで動けるわけでもない。


「どうしたものかな」


 おそらく今回戦った魔物にも大型がいるのだろうが、どこにいるのかわからない。敵の領域に踏み込んだ状態で考えていてもきりがないのはわかっている。だが、このまま探索を続けていいのかわからない。


「お兄ちゃん?」

「くそ、判断が鈍るから後回しだ」


 頭を掻き毟る。

 魔物の特徴は保護色のように瓦礫と擬態をすること。糸を操ってものを飛ばして来ること。


「ルーナ、このゴミ山燃やされる?」

「え? 燃やしたくない! こんな可愛い人形達を燃やすなんて嫌!」

「あのなぁ……!」


 猛抗議してくるルーナに思わず後ずさる。

 なんでこんな不気味なものが可愛いというんですかね。女性の可愛いの範囲がどこからどこまでなのかわからん。


「タストに帰ったらもっと可愛いやつ買ってやるから!」

「やだぁ! ここの人形の方が可愛いもん!」


 行っておきますけどこの子、五百歳なんですよ。駄々っ子かよ。

 それにさっきまで元気なかったのに……?


「どうしたものか……」

「ミチナシ、他の方法はないの?」


 ベルも燃やすことに対して抵抗があるらしい。俺からしたら不気味で早くこの場から去りたいのだが……。


 それにあの声も気になる。


「あーもー、わかった。じゃあ他の方法を探そう」


 ……ダレ?

 ……ケテ。ダレ……


「……またこの声か」

「ミチナシ?」


 また同じように声が聞こえる。ベルは俺の様子を察したのかあたりを見回した。

 周りは変化は一切ない。殺意など微塵も感じられない。


「ミチナシお兄ちゃん?」


 俺はルーナに静かに。とジェスチャーをとる。ルーナも頷き静かにする。


 ……ダレ?


「……魔物じゃないな」


 声がする方に俺は歩いて行く。聴力を頼りに進んで行く。


 ……ワタシヲモラッテ

 ……ボクヲステナイデ


 耳に障るその声は子どもの声だ。男の子や、女の子や、赤ん坊の声も聞こえる。


「持ち主の声なのか?」


 ざわざわとけたたましくなって行く方へ……おもちゃの壁を進んで行く。

 後ろの二人は何も聞こえていないらしい。


 なぜ俺だけなんだよ。と思わず悪態をついた。


「あーもーうるせぇぇぇぇ!」


 フラストレーションがつのり遂に怒りが爆発した。

 しん。と静かになる。

 そこはすこし広い場所だった。しかし人形やおもちゃが変わらず散らばっている。


 その瓦礫の中で人が座っていた。大きさからすると大人の女性と変わらない。そしてなぜかメイド服を着ている。


「人間さんが倒れてる!」

「おい、ルーナ! 下手に触ると……ったく」


 ルーナが警戒もせずに近寄った。そして彼女は倒れている人を除くと帰ってきた。


「あの人、人形だよ」


 え、なんて?


「人によく似てる人形さん」


 俺も近づいてみる。頭が垂れているからぱっと見わからなかったが、ところどころ球体関節みたいな部分が見える。


「ほんとだ。本当に人形」


 この顔の表面とか、柔らかそう……きめ細かい感じで……思わず手を伸ばした。


 ピリッと痛みがはしる。電気が走る痛みではない。針に思わず刺してしまったかのような痛みだ。


「っ!?」

「どうしたの?」


 痛みが走った手を見た。血が出てる。

 何故? 手を伸ばしただけなのに。


「あ」


【持ち帰ったら呪われる】。しまったと思った。持ち帰るの前に触れてしまっても同じことではないか。

 人に言っておいて自分がやってしまうとは思ってなかった。

 人形が震えた、ルーナと、ベルと、俺は警戒し、武器を構える。


「……再起動ニ成功シマシタ」


 機械音声が聞こえると、ぐいっと顔が起き上がる。その目は人形のように生気のない黄土色の目から、だんだん潤っていき、人の瞳へと変わる。表情も更新されて行くように人へ、人へとなっていく。そして俺たちを順番に見ていくとキョトンとした顔で俺たちに口を開いた。


「……何故武器を持っていらっしゃるのでしょうか?」

「俺が聞きたい」

「右に同じく」

「お兄ちゃんと同じく」


 自己主張ない面子だなぁ。

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