そんな装備で大丈夫か?
ルーナの買い物が終わると、彼女は嬉しそうに着替えにいった。ベルと俺はルーナが着替え終わるまでは外にある木陰の下にあるベンチに座っていた。特に変わらない日々が過ぎていく人々が歩いていくのをぼんやりと見つめている俺は第三者がよく似合う。ここに関わることのないただの傍観者のようだ。あ、でも今からルーナの買い物の清算をするんだからお金見ないと……。
「ミチナシ、今日は特にしないの?
ベルが暇そうに尋ねて来る。俺はその返事を袋の中にあるお金を数えていた。
「そうだなー。今日は身の回りの支度だな。ルーナが冒険者としてデビューするんだから、万全な状態で行けるようにしたいし……」
「……ルーナは冒険者になるの?」
あぁ、と俺はこたえる。
ルーナは現状、俺のパーティの中で最高の火力持ちになると信じている。竜の力を操ることができるのならばそれだけでも心強いというのが俺の見解だが、本人曰く少しの魔素の行使しかできないとか……。
女性の冒険者はタストでは見たことがない。大体が俺と同じくらいの年齢か、ダーシュのおっさんくらいの男性のみだ。
つまり、ルーナはタスト初の女冒険者になるわけだ。
「まぁ、竜だけどな……」
ふーん。とベルが生返事をする。その目は疑いの目だ、ルーナをどうするつもりだと俺に言っている。
「こんなことする必要があるの?」
「彼女の門出を祝わなければね……」
「門出を祝う?」
「そうそう、新しいスタートを応援するっていう意味さ……そのために服を買ったんだぜ? なんとかは絹をとかーって、まぁ意味は違うと思うけど」
それくらいしてあげないとルーナが可哀想だ。可愛いんだし、綺麗な服を着させてやりたい。
ニコニコと笑う彼女は俺をジロジロと見てきた。だからなんだよ。お前気持ち悪い。
「ミチナシってなんか親みたいだよね」
「親? 親って肉親的な?」
「うん、親みたいだなぁって」
肉親……? 親?
俺はそんなつもりでやったつもりがなかった。ただ、彼女を喜ばせたいその気持ちとか……。
「そうなのかなぁ……」
「ミチナシお兄ちゃん!」
たったったっと、走ってくる。そして俺の近くに来るとバレリーナのようにくるりと一回転してポーズをとり俺に見せた。
似合っているなぁ。本当かわいい、レギンスパンツな感じも……でも、ホットパンツが良かったなぁ。
「どうどう!? にあってる!?」
「あぁ、すっごくかわいい。似合ってる」
「えへへー。ありがとう」
俺はルーナの頭を撫でると、擽ったそうに目を閉じた。しかし嫌ではなく、犬だったら尻尾をブンブン振り回しているような状態だ。
さて、金額は……げっ金貨十五枚と、銀貨六十枚かよ……。でもまだ余裕はあるなぁ。これでも金貨百七十一枚と銀貨十枚、銅貨三十二枚ってところか。スッゲェ重たい。袋三つくらいに分けておけば良かったなぁ。
こんなに余裕があるならもっと使うか。
そうと決まれば次はあそこだ。
「さて、次は武器と防具を買いに行こう」
「武器?」
「そう、ベルとルーナに武器を買うのさ」
もちろん。俺のもな。
ニッコリと俺は微笑んだ。
実はタストには鍛治氏がたくさんある。そりゃ魔物を倒すのに必要な力は武器であるからな……とおっさん達の脳筋を再現して見た。
タストの冒険者が依頼を受注する時に支給される武器……それはきっと彼ら、鍛治師のおかげであろう。
ただ、その鍛治師と言うのが面白いことにタストの郊外にある、小高い丘に密集している。
俺たちはその小高い丘の前の簡素な木製のアーチ状の門の前に立っていた。それほど街並みに興味がない奴らなのだろう。汚いというのがすぐに連想できる場所だ。
「武器屋といってもいろんなところあるじゃん? どこに行くのよ」
「んー。実は紹介されたところがあってな」
「紹介ってことは中層あたりにいくの?」
中層とかなんとかといっているあたり、ベルはその鍛治師の事情について精通しているらしい。紹介されたと言うことは中層あたりにいくのだろうっておもったのだろう。そこについてはまた今度話すことにしよう。
「いいや? 今日は委託販売の武器屋にいくんだよ」
冒険者のおっさん達に聞いた話によると、鍛治師のやつらは基本的に人とのコミュニケーションを持たない……というより興味がないに近い。それでいて、他人との競争が好きという矛盾めいた奴らだそうだ。だから金銭感覚には無頓着で、自分からほぼタダみたいな金額を提示することもあるし、国ひとつ動かしそうな金額もふっかけるとか。
常識はずれかよ。
そのためにタストのギルドは委託販売という制度を作り、武器を預かるとその武器を査定し金額を設定をし売り出すのだという。たまにあちらから金額を設定して持ってくるというが、そこは要相談という話になるらしい。
「だから、今回は武器屋にいって値段を見る。そこからどんなやつがいいか調べた後に、購入する……ってかんじかな」
現実世界でいうコミケみたいなものだ。同人誌をつくって、委託して販売する。その流れと特に変わりはしない。
「とりあえず行くか。ちなみにルーナは何の武器がいいんだ?」
「うーん。わかんない」
なるほどね。
こめかみを指で押さえて少し考えたあと、いくつか質問をする。
「足は?」
「早い!」
「力持ち?」
「ルスお姉ちゃんより弱い!」
「竜の力は?」
「多少……」
そうだ。竜の力とかいうけど。竜、竜、言っていたらめんどくさいよなぁ……。
「ルーナ、これからそれを【魔法】というんだ」
「それって?」
「魔素を使った力だ。お前がいともたやすく使える力は俺たち人間にはつかえない。竜といえばそりゃもう周りに人が目をつけられるだろう?」
いや、魔法自体も集まりかねないが。
「わかった。魔法っていう」
「で、さっきの質問から何をするのよ」
「んー。今の質問をする限り、ナイフか中型の剣がしっくりくるかなぁって」
だが、問題があるとすれば彼女の言う【ルスお姉ちゃんより弱い】というのは人の尺度なのか? という点だった。
それは試せばすぐにわかるだろう。
おっさんたちに紹介された場所は先ほどくぐった簡素な門から入り進んで左側にある場所だった。
委託販売の武器屋はギルドのような大きさの施設で中に入るとショーケースに飾られていたり、壁に掛けられていたり、傘差しのようにたくさん差し込まれていたりとなっていた。はたから見れば土産物なのかなと思ってしまうほどである。
しかし、ここは俺にとって……いや男達にとっては浪漫でしかないだろう。
ただの剣や、槍を飾っているだけの場所に内心興奮している俺がいた。
「そうそう。私は戦わないのよね? ほら冒険者じゃないんだし?」
「いや、随分前に登録しておいたぞ」
驚いた顔を俺に見せる。いやぁ、いい顔だ。
「えっ!? なんで勝手にしてるの!?」
「いやぁ、だって魔王を倒すなら冒険者にした方がいいだろうと思ってだな」
そういえばそうだったな。と今更ながら思い出す。あの時というとハチミツの依頼の時だったかな。
ガックリとうなだれるベルに俺は、特に気にせず奥へと向かう。すると若い女性がこちらを見ていた。黒髪の様だけど、火に煽られてきたかのような赤黒いさがある。その若い女性は右目を黒い眼帯で隠していた。そして肌が褐色の様だが、ちらりと白い肌が見えるあたり日焼けであっている様だ。
「いらっしゃい」
ぶっきらぼうに招かれる。大体把握したこりゃ確かにコミュ障と言われても仕方ない。
現実世界でこんな対応したらごく一部の人間以外から営業態度が悪すぎる。と言われクビになるだろう。だが、郷に入って郷に従えだっけ? 多分意味は違うと思うし、使用方法も違うと思うけど使って見た。
「武器とか見たいんだけど」
「適当にどうぞ」
おおう、つめたーい。
「よかったら俺たちにいい武器を見繕ってくれないか?」
女性が俺たちを品定めする様に見ていったが、すぐに目を伏せる。
「ウチは武器屋だ。あんたたち冒険者に見繕う事を得意としていないし、ここにある商品は全部質がいい奴ばかりだ」
「大体いくら出せばいい?」
「……金貨十枚くらいかな」
なるほどね? と答えながら彼女の顔を見ていた。俺たちに武器を全部用意するのに金貨十枚……妥当な値段なのだろうか?
「そっかぁ……残念だ、俺たちはそんな大金を用意していない。悪かったな」
俺は溜息をつき頭をガシガシと掻きむしった。相手は表情を変えずこちらを見ている。
「なら適当に見ていってくれ。そこから多少だが値引しても構わない」
「ミチナシお兄ちゃん。個見ていっていい?」
ルーナがわくわくしている様子で俺に尋ねてくる。どうやら俺と同じ様に鈍色に光る武器たちをお気に召したらしい。
「いいぞ。だけど大事な商品だから丁寧に扱うように」
「うん!」
「ルーナちゃん。私も見に行っていい?」
「いいよ! 行こう行こう!」
ルーナが軽い足取りで店の中を歩き回る。ベルもルーナの後を追いかける様に商品を見に行った。女性はその二人の姿を見送った後、緊張が緩んだ様子だ。
「さて、俺も探すかなぁ」
と、その前に……。
俺は不意に袋を開けると袋の中から取り出す。そしてゆっくりと手を広げ金貨二十枚を女性の目の前に積んだ。
彼女は思わず目を見開いた。
「なるほどね」
「……なにが?」
誤魔化しているようだが、全然目が泳いでますぜ。おねぇさんよ。
「いいや? この店は本当に【質のいい商品】を置いているのかなぁってね?」
「っ!?」
「いやぁ、罠に嵌めようとしちゃいけないぜ? おねぇさん。質の悪いもの持たせて高くふっかけるのは本当、良くない」
「な……にを根拠に?」
女性は平静を装っている。俺はそれを確認した後、金貨を一枚取り上げくるくると遊んだ。
「まずこの店にはたくさんの商品が置いてあるが、値段がついていない。俺たちみたいな初見や、武器の値段と質に知識がない冒険者にはこの店に置かれている武器がどのくらいの価値なのかわからない。
まぁ、大体の武器っていうのはギルドから支給される物ばかりだからな? 値段なんて知らない奴らばかりしな?
つまり適当に値段を吹っかけることができる。金持ちなら金を大きくふっかけて質の悪い武器を掴ませることができる。そして金持ちじゃない奴にはギリギリのラインの金額を提示してそれよりほんの少し下の値段で、同じ質の武器を持たせる。うまいやり口だね」
顔を青くする、大体合っているのかな?
金を持っている奴から適当な金額で売り飛ばし、金を持っていない奴からは限度額ギリギリの金額で売り飛ばす。そして同じ質の武器を持たせる?
ひどい話だ。
「なぜそれがわかった」
「そういうのは前に何度も見ている」
前いた世界にはいろんな詐欺がいたからな。美人局とか、訪問とか、マルチとかね?
あいつらはここの世界の奴らよりも狡猾で残酷だ。
「もし、これをギルドの人たちに言ったら……この店も潰されるのかなぁ?」
ピンと金貨を弾く。くるくると回した後に俺は空を切るように金貨をつかんだ。
ニコニコと笑ってやった。おねぇさんどうしたの。…お腹痛いのかな?
「……要件は?」
「簡単なことだ。俺たちに合う武器を用意してくれ。そして質のいいものを頼む」
ただし同じ事を繰り返すな。と含みをもたせて言う。
女性は生唾をゴクリと飲み込んだ。
「金貨十枚でか?」
「いいや? 俺はそんなひどい事を言わないさ」
俺はさらに袋から金貨を十枚積み上げる。
金貨三十枚。
日常で使えばとんでもない金額になる。その金額に彼女は後に引けない事を知ったようだった。
「今回は【ご贔屓】にってことで……ね?」
満遍な笑みで俺は握手を求める。その笑顔と、手を交互に見た。
「そういや名前は?」
「……カロン。カロンアインバーグ」
「ミチナシだ。よろしく」
カロンは差し出した手を握る。手汗が酷かった。




