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竜の祭:後半

「ただいまー」


 宿屋に戻り疲れた足取りで部屋に戻る。宿屋の主人に手で挨拶し、階段を登っていくと、廊下から左右に四つの部屋が交互に並んでいる。その右奥の木製の扉が俺が止まっている部屋である、そして扉を開けるとそこには裸のルーナと、また同じく裸のベルがいた。俺は扉を開けてその光景を見ており、二人は固まって俺を見ていた。


 ……はて、これはどういう状況なのだろうか?


 俺はいまいち理解していない。まずなぜこの部屋で裸なのか? 風呂場は近くの銭湯があった。ルーナの体を拭くためであるならルーナだけ裸になる必要があるじゃないか。

 だから俺は謝る気なんてサラサラない。スタスタと我が物顔で歩いていくと木の椅子に座る。あわあわと二人で着替えていくのをずっと見ていた俺は着替え終わったと同時に。


「おかえりくらいないのかよ」


 というと、返ってきたのは頭部に刺さる果物ナイフによる死だった。刺さった勢いで後ろに転がり落ち、無様な姿で死んだ。見てはいないがおそらくベルは布団を体に巻いているだろう。ルーナは突然のことに驚いてあたふたしているのだろう。かわいい。


「べ、ベルお姉ちゃん!?」

「なに平然と部屋に入ってきているのよ! 本当ばかなの!?」


 バカとはなんだ。お前らがまず俺の部屋でなんで裸になっているのがおかしいと思わないのかよ。突き刺さったままのナイフをずるりと抜くと傷口が治る。本当死んだ心地がない……第三者からしたら液体金属のロボットがショットガン食らっても弾けて元に戻る感じだ。もちろん液体金属のロボットのように体が変形できるわけでもないし、完全に俺は劣化であろう。


「あのなぁ。ここ俺の現住居(すまい)なんですが」

「だから何よ! 私たちが全裸なのを確認して入ってきたでしょ!」

「だから?」

「だからって……!」

「いや、だってここ俺の家だし。何が起きてもどうじませーん。いや、むしろ俺も裸になるべきか?」


 ニヤニヤと笑いながら煽っていく。神を煽るのは俺くらいだろうか。

 わなわなと震えるベル。いやぁ、神様仏様なんとやらも一応羞恥心があったんだな。と確認した。

 対するルーナはそれほど恥ずかしくない様子。


「ルーナは恥ずかしくないのか?」

「え?」


 まぁ、確かに五百年も生きてきたんだ。裸晒しても恥ずかしくないんだろう。


「ほら、裸見られて恥ずかしくないのか?」

「大丈夫だよ? ミチナシお兄ちゃんのこと大好きだから、それにミチナシお兄ちゃんのみたことあるし」


 ……。あいや本当にすいませんでした。

 粋がってました。本当にすいませんでした。


「ミチナシお兄ちゃんのあれなかなかに」

「いやほんとやめてくれませんか? おれがんるかったから。本当に」


 力の上下関係ができた。


 閑話休題。


「ところでミチナシお兄ちゃん。どこにいってたの?」

「少し前にタストバードラーっていう人と会ったんだよな」

「それで? 何か言われたの?」

「いや、まずはこれ貰った」


 そう言って俺は袋を取り出す。机の上に乗せると金属の擦れる音がたくさん響く。ベルがその後に反応して近寄って来た。金の亡者かよ。


「銀貨?」

「開けてみ」


 ベルが恐る恐る袋を開ける。


「え? え? ミチナシさん!?」

「あぁ、なんかとんでもないものもらっちゃったんだよ」


 袋の中にあったのは銀貨ではなかった。ベルが袋をひっくり返して、袋に入っていた物を出す。

 金貨だった。それも九枚どころの問題じゃない。


「【金貨二百枚】……。俺とんでもないことしたんだなと実感したよ」

「ミチナシさん!? ミチナシさぁぁぁぁん! すごいじゃない! 宿生活脱出できるのよ!?」

「ベルお姉ちゃん。きんかにひゃくまいってどれくらいなの?」


 ルーナは不思議そうな顔をしてこちらを伺っている。


 そう、金貨二百枚とは銀貨でいうなら二万……。宿の一泊で銀一枚と銅貨二十枚。一日ご飯を食べるなら銅貨六十枚。お酒を飲むなら十枚程度。大体銀貨二枚で一日を過ごせる。つまり、無駄な買い物をしなければ、一万日。年数で言えば二十七年も無職で過ごせるということだ。

 なにこの大金。持ち出すのすごい怖いんですけど……。むしろそのお金をやすやすと庶民にポンって渡すこと自体が恐怖でしかない。


「なにが目的でこんな大金を渡したのか俺にはさっぱりだ」

「でも、大型の魔物を倒して且つ進化した魔物も倒したんでしょ? 情報の提供とか、イレギュラーとか、その報酬が加算されてこうなったのじゃないかな?」


 だけどな? ベルや。こんな大金を鞄の中に入れていたらそれはそれで周りの人間がこの金を盗んでいくと思うと落ち着かないぞ。


「とりあえずまずこれが一つで、もう一つ。一週間後のお楽しみというか二週間後のためにちょっとばかし忙しくなるので、そこんところよろしく」


 ベルとルーナはお互いの顔を見合わせたあと、俺を見た。


 その後二週間、ずっと祭りの準備をしていた……。え? 詳しく書けと? おっさん達の絡みを見ても面白くないだろう?

 仕方ないなぁじゃあざっくり教えよう。

 最初の一週間で、食材の調達。食材の加工生産。料理を作るという一連の流れをおっさん達に叩き込んだ。おっさん達はそれこそ最初は


「俺たちをコックか何かに転職させたいのか!」


 と反抗していたが実はそうである(故意犯)。無職で居続けるの嫌じゃないかなーって思ったんですよ。はい。嘘ですが。

 食材の準備担当は足がなくなったおっさん達に頼み、片腕しかないおっさん達には食材の調理担当を頼む。適材適所ともいうじゃないか。

 で、ここから予想外のことが起きた。なにがって言われるとそれは三日目のことである。


 全員料理の腕があった。


 そりゃまぁね? 長い年月の冒険と、魔物の討伐をしていたら一人で自炊くらいできてしまうだろう。ただ、知らない食材と、知らない料理と、知らない技術に悪戦苦闘すると思っていたらまさかの三日目で全部マスターすると思っていなかった。そしてその料理を作ったことによっておっさん達は……。


「おい! ミチナシシェフ! 次はなにを作ればいいんだ!?」


 スッゲェノリノリだった。

 しまいには片腕なくなった人も料理の準備をするようになり、片腕なのになんでそんなに簡単に薄く切れるの? というレベルの技術を繰り広げたりしてもう、なにやらなにまで予想外だった。

 とまぁそういうことで最初の一週間で、二十九人のおっさん達の料理のレパートリーは十種類近くまで増えた。いや、ほんとびっくりした。しかし一人でやはりやるのには大変なために二人一組(ツーマンセル)で行動するように指示をした。残りの一人は食材が足りなくなった時のための配送役である。

 そして、二週間目で、俺はたくさんの大工業の人を雇った。デザイン案を全て書き出し、指定する場所、木材の搬送その他を大工に指示をした。それこそ最初は大工達はえー……。という顔をしており、自分の仕事をやってからにしたい。と屁理屈を言っていたが、ここで潰されるわけにはいかない。


 だから、ジャパニーズDOGEZAを繰り出した。


 頼む。やってくれないとダメなんだ。頼む。と無理をしてまでも頭を下げまくる。

 なぜかその時に思い出した顔がルスとルーナではなく、あのノリノリで和気藹々とやって居たおっさん達の顔だった。

 そして俺の土下座ともう一つの要素で大工達は動くことになる。


 ベルと、ルーナだった。


 言わなくてもわかるだろう。ベル達は綺麗だった。そりゃそうだろう可愛い人に飲み物とか渡されて。


「頑張ってくださいね!」


 みたいなこと言われたらそりゃ頑張るしかない。


「色仕掛けも大事だよね!」

「いやうざいな本当こいつ」

「個も手伝いに来たよ!」

「ルーナありがとうな。本当助かった」

「ちょっとなんで私だけに厳しいのよ! なんでなんでなんで!」


 ベルって肝心なところで一言余分なんだよな。


 まぁそんなことがあって、二週間で、ほとんどができたのだ。


 簡単にいうつもりが長い話をしてしまった。やはり思い出話をすると色々と長くなるものだなと反省をしたくなる。

 あ、ちなみに。宣伝と、広告はタストバードラーに任せました。適材適所だし。


 というわけで当日になったとさ。

 場所はギルドの前の広場から前方にまっすぐの道と左右に分かれた道で行われる。朝昼から準備に取りかかり、日が暮れはじめぐらいから始まった。


「こういうのを俺は想像していた!」


 祭りだ。縁日に近い祭りだ! と大人気なくはしゃいでいる俺がいる。祭りの通りは日本式の屋台がたくさん並んでおり、その間間に露店などが並んでいる。そのたくさん並んだ道をタストの人々は右に左にと動きながら露店を見て回り、時にご飯を買って食べたりと握っている。現実世界で見たあの祭りと全然変わらない盛り上がりをしていて企画を立てた俺は気持ちが高ぶっていた。和洋折衷ではあるがそれだけでも十分すぎた。


「わぁ! すごい! たくさんの人たちがいるよ!」

「だろう? これが俺の知っている祭っていうやつさ」

「これが私の信仰を広めてくれる儀式……! ミチナシはなんて悪魔なの!? あ、ミチナシ! あの焼きそばってやつ食べたい!」

「自分の金でかえよ! 俺に奢ってもらおうなんで考えるな!」


 そんな言い合いをなぜか楽しんでいる。そんな俺がいる。

 ルーナをベルと俺で手を繋ぎながら祭を歩いていた。歩けるようになってきたルーナが祭りに行きたいと言い出した。もとよりルーナを連れて行くつもりだったが、ベルもついて行きたいというわがままをききいれ仕方なくこうなった。

 冒険者だったおっさん達は青いハッピをきて、切り盛りしている。もう二週間前の俺を殴った時のやつれた顔をしておらず、生き生きとしていた。

 作っているのはお好み焼きだが……。


「おぉ、ミチナシじゃねぇか。それにベルと、ルーナちゃん。この仕事やらしてくれてありがとうな!」

「お、おう。割と繁盛していてよかったよ」

「そりゃそうだ! 今競争をしていてな。俺たちの中で誰が一番儲かるかの勝負をしてるんだ」

「ほー。じゃあ客の呼び込みしないほうがいいな」


 あくまで平等性を保つために俺たちはお好み焼きを買わないようにしたが、おっさんは引き止める。その横でルーナはじっと屋台に並べられている食べ物をじっと見つめていた。小麦粉の生地に、葉物が切り刻まれ、卵と肉挟まっており、さらにその上から目玉焼きとハムを乗せている。その食べ物が二十個作られていた。


「ミチナシお兄ちゃん。お腹すいたよ? 何か食べよう?」

「……しかたないな」

「毎度ぉ!」


 そう行って嬉しそうにおっさんはお好み焼きを盛り付けて行く。甘めのソースが鉄板で焼き焦げめがつくとその匂いが俺たちに食べてくれと言わんばかりに襲いかかる。たしかにこんな匂いが漂うなら買わざるを得ない。

 そしてせっせこと器に乗せたお好み焼きが渡される。


「いくら?」

「銅貨十五枚だぜ?」


 俺は銀貨を渡しお釣りをもらう。お好み焼きをルーナに渡すとフォークで端を切って息を吹きかけ冷ましたあと、ぱくっと口にした。


「おいしい!」

「当たり前だろう。俺の故郷の料理だからな」

「ルーナちゃん。私ももらっていい?」

「いいよ!」


 ベルが器を受け取ると同様に口に入れる。


「おいしいね」

「ね! ミチナシお兄ちゃんの故郷は美味しいんだね」


 なんかこの光景に幸福を感じるのはなんでだろうか。外国の人に日本の誇りを褒められたような感覚に近い。


「お兄ちゃん頬が緩んでる」

「気のせいだ」


 そう言いながら指摘されたにやけた顔を隠した。

 時間がたつと空は暗くなる。すると通りに飾り付けしていた灯りをおっさん達はつけ始め、そしてその灯りが煌々と俺たちを照らした。


「これからが本番だ……」


 ドン。と音が鳴り響いた。それは爆発音ではなく、打楽器の音だ。

 リズミカルに叩かれて行くその打楽器は太鼓ではないが、太鼓によく似た音のために採用した。広場の真ん中に建てられた大きな櫓に大きな男達が手拍子と、打楽器を叩きながら踊りを覚えた男達が踊る。それにつられるように女性も子どもも青年達も真似て踊り始めた。


「すごいね」

「すごいだろ?」


 俺は自慢げに答える。ルーナはきゃっきゃと笑いながら踊りの真似をした。ベルはルーナの踊りを笑いながらルーナと一緒に踊る。

 ドンドンと何度も打楽器を鳴らしていると。雷鳴が響いた。


「来たかな」


 空を見上げると光り輝く青い稲妻が走る。

 踊っていた者たちはその稲妻を見上げてわっと歓声をあげた。

 ガラガラと光り輝くとその光は太く、蛇のように走る。


「竜だ!」

「竜だ!」

「竜が来た!」


 おっさん達が騒ぎ出すとみんながわいわいと騒いだ。

 稲妻が走り、わいわいと騒ぐ祭にルーナと俺とベルは顔を見合わせ笑いあった。


「ルスちゃんだね」

「洒落た演出してるなぁ。あいつ」

「お姉ちゃん多分どこかにいるよ」


 え、そうなのか? と俺は辺りを見回す。

 いろんな人たちがわいわいしながら、踊っている。打楽器の音はだんだん大きくなっていく。視界の中で白い髪が見えた気がした。


「……きっとあいつ焼きそばとか食ってるんだよ」

「だねー。個と同じだよ」

「同じ?」


 ベルが尋ねるとニコニコと笑いながら俺たちを見る。


「ルスお姉ちゃんはこういう騒いでいるの大好きなんだよ」


 双子は似ている。性格は違えども、きっと好きなものは一緒なんだろう。俺はそう思いながらその祭の終わりをじっと見つめていた。

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