竜の祭:前編
「祭り……ですか?」
竜の山でのあの一件から三日ほど経つ。あれからタストは魔物についての知識を広めるために俺は知っていることをギルドのねーちゃんに知っていることを全部教えていた。
その時にふと何気無くタイミングよく、ギルドのねーちゃんに先程の件を話した。
「そう、おっさんたちに聞いただろうから説明を省くが、竜の認知をしてほしいという竜側の依頼があったんだよ」
「まぁ、なんていう……胡散臭い」
「あのなぁ……たまには信じてもらえませんかな」
というのも、俺はギルド側からしたらそれは快く思われていない。
自分は無傷で、助けに向かった冒険者は全員ギルド脱退という事態があったわけだし。その事態に俺はタストの街長に一目置かれたわけだし……。
「ミチナシさん。あなたこの冒険ギルドからなんて言われているかわかってますか?」
「考えたことなかった」
「悪者って言われてるんですよ」
あらまぁ。
「どうしたらいいものですかね。ギルドのねーちゃん」
「そろそろ名前覚えてもらってもいいんじゃないですか? 私、エリナって言うんですけど……」
「あれ、俺名前聞くの初めてだけど?」
お互いの頭に疑問符がついていた。
「で、祭というのは基本的に何をするのですか? ましてや相手は竜……我々ギルドも見たことがないのですよ?」
「まぁ、それについては祭りになったらのお楽しみで。そのためにおっさん達に頼みたいんだよ」
はい? とエリナはまた疑問符をつけていた。
「おっさん達は今までギルドのクエストをこなすことで生計を立ててきた。逆に言えばクエストをこなせないなら報酬ももらえず生計も立てれない」
こくんとエリナがうなづいた。
俺の企みをエリナがじっくりと聞いて行く。そして全てを話した際に彼女はぱぁっと表情が明るくなりその企みを快諾したのだった。
「お祭り?」
俺の宿……ベルに金貨二枚も散財させられた宿で、お祭りって何? という顔をしたのはショートヘアからややのびたボサボサの髪型になっているルーナだ。爛れている皮膚はまだ痛々しく、包帯で隠している。ベルはそのボサボサの髪をブラシと濡れたタオルで直そうと躍起になっているがなかなかうまくいってない様子だった。
でも、やはり姉妹か親子に見える。
肝心のルスだが、竜の山に一度戻っており魔除けの石を作り山の治安を元に戻しているらしい。竜も大変だなとしみじみ思う。
「そう。お祭りをしようって話だ」
「何でするの?」
「お前のねーちゃんに頼まれたんだよ。タストに竜の認知をさせるように働きかせろってね」
「ルスお姉ちゃん可愛いでしょ」
「否定はしない。だけど、そんな遠回しに言わなくてもいいんじゃないかなって思うんだけどなぁ……」
「へぇ。ミチナシお兄ちゃん面白いこと考えるね」
そうかな。と俺は少し照れる。すると髪を直すの諦めた女神は会話に入ってくる。
「なになに? 私の信仰を広めようとするの? なら是非私の像を建てなさいよね!」
「誰が立てるかこのエンゲル係数女。お前いない方がうまく行くってずっとおもってるよ」
「ひどーい! 私のおかげで冒険者の人たち敵に遭遇せずにこの街に連れてかれたのに!」
「お前は神だろう! 神なら神らしく万能でいろよな!」
というより、何もできない神なんて神ではなくてただの人間だろう!
「……ベルは神様神様行っているけど、神様なの?」
「ルーナちゃん。聞いて驚くのだー! 私は神様なのだよ!」
すごい迫真の演技って感じで言うけど、正直そのセリフに遠山の銀さんみたいな演技を合わせても全然迫真じゃないからな。ちゃっちぃ。対するルーナは、ぱぁっと表情を明るくして詰め寄った。
「へぇー……すごいね!何でも叶えてくれるの?」
「え、えーと……」
「神様は願いを聞いたら願いを叶えるんじゃないの?」
うわぁ。無邪気に聞いてくるけどそれベルにとっては死活問題だぞ? さりげなく存在のあり方の問題までの質問まで来ている……。
じっと黙って見ておこう。
「そ、そう! 信仰の力が足りないから願いを叶える力が足りないのよ!」
「神様なのに、信仰の力が足りないって……」
ベルが泣きそうになって、俺を見ている。その目は明らかに【へるぷみー】だろう。何で日本語じゃないかって? その方が馬鹿っぽく見えるだろう?
「そのために、ちょっとやることがあるから当分開けるけど……大人しくしていられるか?」
「うん! 個まだ歩けないから、お兄ちゃんの足手まといになりかねないし……」
何ていい子なんだろうかっ!
「ただ、ルーナ。お前その服はきわどいからやめてくれよ?」
「えっ?」
そう、ルーナの着ている服は背中ががら空きの手術を受ける時のような服なのだ。おそらく肌着も来ていない。
「言っちゃ悪いがその格好は明らかに水商売……えっとあれだ。女性が男性にお金をもらって……って何でこんな説明をするんだよ」
なんて言えばいいのかわからない。無い頭で考えるが特にいい言葉が出てこないために悩んでいると。
「これはミチナシお兄ちゃんをムラムラさせるためだけにしてるのよ?」
ダメかな? ってこれこれ。俺は幼女フェチになった覚えはありませんぞ?
いやでも五百年と考えたら大人……。
……幼女体型のババアか。
「合法なのか、アウトなのか。今の俺には難しいものだ」
一気に冷めた俺がいた。
俺はまたギルドへと赴くと、そこには顔見知りの冒険者達がいた。
竜の山で手伝ってくれたおっさん達だ。
「ミチナシさん!」
なんかアワアワした状態で俺に走ってくる。そして俺の名を聞いたことによって俺に敵意や殺意、その他諸々の感情が俺に襲いかかって来た。
「やぁ。皆様」
「てめぇどのツラ下げてここに来た」
まぁ、そうですよね。みなさんそんな顔をする理由は俺を知っている。エリナに盾にされる俺。逃げる島もない。ってこう言うことだろうな。というかお前仲介のために声をかけたのに。
「……えっと【商談】しませんか?」
俺は冷や汗を流し、にへらとだらしなく笑いながら言った。
「商談? ふざけやがって。俺らを何だと思っている!」
「冒険者。勇ましく魔物と戦い、そして敗れた者だよ」
「こんのっ!」
右頬を思い切り殴り飛ばされる。床に叩きつけられるように倒れると、エリナが止めに入り、他の冒険者がおっさん達を羽交い締めにしてとりおさえようとするが俺はそれを制止した。
「てめぇは人を貶すことが好きそうだな。そんなに人を貶すなら奴隷商にもなれってんだ」
「そんなことをしたつもりはない。俺はいつまでもおっさん達をかっこいいと思っている。だからせめて、話を聞いてほしい。これはおっさん達のためでもあって、俺たちのためにすることなんだ」
嘘をついていない。俺は本心をちゃんとおっさん達に言った。
おっさん達はお互いの顔を見合わる。
「もし断ったらどうする?」
「話を聞いてもらうためにどんなことでもする。例えば十分丸々殴られ続けられてもいいし、全裸でタストを歩き回っても構わない。しかしそれをしたからには必ず話を聞いてもらうことを約束してもらう」
正直な話。何でもしますから。という言葉は好きじゃない。嘘に感じるし、それを言った暁には何をされるのか考えるだけでも身の毛がよだつ。
「……わかった。お前の話を聞いてやろう」
「!」
「ただし、それはギルドの介入が大前提だ。ギルドがこの商談の仲介として立ててもらう。そしてもし、俺たちがこの商談を不公平だと感じたらすぐにでも破棄をし、ギルドとお前、ミチナシマサヨシにその商談で得るはずだった報酬を払ってもらう」
「え、えーっと……それはこちらにメリットがありませんけど」
「それでいい」
即答したことによって、エリナがえぇー!? 叫ぶ。何だよ。少し前まで乗り気だったのに。
「それとこれは違いますよ!? なんで私たちギルドも報酬を払うことになるんですか!?」
「この仲介の快諾したのはエリナだろう? なら最後までやるのがギルドの仕事だろう」
「それはそうですけど……」
「それに、俺はこの商談を絶対成功させる自信がある。それに乗るか乗らないか、エリナとギルドに任せる」
エリナはでも私単体の権限でできるわけじゃないしでも、この商談がうまくいけば利益はかなり出るだろうしうーん。とブツブツ言いながら悩んでいる。
「翌日また来る。その時に返事が連絡してくれ」
「お、おい。まだ話が」
「悪いが今回は色々とやることがあるんでな」
そう言って俺はギルドから去る。




