国民健康保険証はただの紙切れ
目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。
と言うわけでもなく、そこにあったのは階段だった。声も出ないままただ殺人ドラマのごとく転がり落ち続ける俺は第三者からしたら……ゴキッ
あ、どうも行止正義です。今一度目の死亡が確認されました。いや、さっき頚椎行かれたと思ったら瞬間的に回復してどうなることやらと思ってたけど、意外とあっさりしていてなんか……グシャッ
いや、これどうなん? まずなんでかいだんからおちなきゃいけないわけだ? というがさっきから頚椎から上が折れる確率高くない? なんでこんなに折れ……バキッ
フザケンナヨ! あいつなんでこんなところを蘇生位置にしたんだよ! 絶対あいつゆるさねぇ! というかあいつ名前なんだったんだ……ゴリッ
あぁ、もういいや。
そして、行止正義は考えるのをやめた。
というのは嘘だ。本当ありがとうございました。心底嫌な気持ちになるなんて何年ぶりだろうか畜生め。あ、いや、二度めの人生で四回も死ぬなんて嫌な気持ちになるどころのレベルじゃなかった。というよりそんな体験をしたのは俺だけだろうな。いやいたら怖いわ。この世界笑えるわ。
「首寝違えた…かも」
ついでにこの首の寝違えも直してくれるならいいのに。と思ったが、この時点でまず俺の正気度狂ってるな。SAN値チェックでもするか。いや、サイコロないや。
むくりと起き上がると、それなりに活気のある街だ。家の作りは少なくても鉄筋ではない。レンガとコンクリート、そして木材で作られており、その家がいくつも並んでいた。その通りを人が闊歩して俺を見る。見世物じゃねーぞ。という雰囲気をだすと、見なかったかのように動き出した。いや、本当居心地悪い。ふと転がってきた階段を見ると所々血が付いていた。猟奇的殺人現場かも。
「……人間いっぱい」
しかも中世感ある服を着てる。なんか浮き出てるな俺。
身の回り確認!
靴よーし! 異世界のだけど。
服よーし! 異世界のだ(略
武器なーし! そりゃまぁね。
スマホなーし! カバンに入ってたかな。あ、財布あるじゃん。身分証……使えないよな。うん絶対。身分証といっても国民健康保険だけどな。
うん。完全とは言わないが裸である。ここがどこかもわからない。だけど幸いなことはいくつかある。
まずはこの世界の言葉が読める。目の前に見える看板が意味不明な文字の羅列ではあるが、脳内変換されて一応読める。いや、もしかしたら意訳かも? でも読めなかったら日常生活できないもんね。やったぜ。
もう一つはここは人間しかいないらしい。現時点階段の麓から見ている限り特徴的な肉体個性がない。でも、ケモミミ属性がいたらまず最初に愛でるわ。うん。
そして最後に所持金がない! うん。クソゲー。いや、財布あるからお金……いややっぱりクソゲーだわ。
人生ゲームで借金生活スタートって嫌だよね。
とりあえずこの世界を生きていくにはどうにかしてイベントをクリアしないといけないなと思った。
行止正義【元学生、現無職】。目指す目標は、脱ニートだ。
「といっても、まずは何をしよう」
某箱庭ゲームだと最初にやることは木を切り倒すことだっけ? でも残念なことにここは街? のど真ん中。家の木材でも奪うか?
「わぁい、インモラルー」
その箱庭ゲームの思考はやめよう。さて、とりあえずあの美少女の話を思い出そう。
英雄、勇者、冒険者になって魔王討伐をしろとな?
ふざけるなと。与えられたものが不死身な体だけでどうやって魔王を倒せと。考える、思い出すだけでも腹がたつ。
「あー、もうほんとどうしたらいいものなのかなぁ」
最近のスマホゲームでもチュートリアルで懇切丁寧に説明してくれる上、ガチャで最高レアの武器とか手に入るのに。
いや、不死身の体の時点で最高レアなのか。