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交渉と作戦

 と言ったものの実は対抗策なんて考えていない。

 しかも俺たちといって、事実いるのは俺だけしかいない。いるのは死なない馬鹿と寝ている温和な竜と人間が嫌いな竜だけだ。


 いうだけタダというのはこういうことだと、俺自身理解はしているつもりだ。未だとつもりだったになるのだろうが。


「どうやって倒すの?」


 もちろんこの言葉は俺に対して試している。青い瞳の(ルス)はそれを見越して問うてきている。


「飛べなくて、魔素もまともに使えなくて、手は掴むことしかできないその定命で」


 さりげなく貶されていく。多少頭にきたが、しかし冷静に考えた。

 そうだ。何もできない。


「何もできない種族は(わたし)たちに何ができるの?」

「……」


 そうだ、彼女は告げているのだ。貶しているのではなく、事実を告げている。

 お前なんか何もできない。何もすることができない。何も守ることができない。下等生物なんだぞと言い聞かせてくる。

 だから、聞くのだ。そんな状態でそんな状況で、何ができるのかと。

 それを理解した俺の顔を見た後にルスはため息をつく。


「何もしなくていい。私たちは平穏に過ごせばいい」

「人は」


 だから、口を開いた。


「人は、確かに何もできないし、手は物をつかむことくらいしかできない。けど、人は考える」


 横で寝ているルーナを見た。彼女は可能性を信じているんだ。

 だから俺が答えないといけない。歯を食いしばって、目の前にいる竜に人間には可能性があると。


「人はその臆病であるがゆえに、魔物の生態系を理解しようとこれまで生きてきたんだ。歴史を作って奴らに勝てるように」

「思い上がるな」


 戯言だといわんばかりに。青の竜は、子どもを見るように。翼に帯電する電気が爆ぜる。


「五百年だ。あんたたちを守ったのは五百年だ、それまでにあんたたちはなにができた」

「っ!」


 右手が感電し、思わず手を退けた。


「何もできなかったじゃないか。町を大きくするだけして、人は変わらなかった。何かが変わらことがなかったじゃない」

「それは違う。人が変わっていく、歴史を積み重ね人や力が変わらなくても意思や、技術は受け継がれ強くなっているんだ」

「それを戯言というんだ!」


 怒りに身を任せて彼女は俺の言う意味を無駄だと答える。何もできていないじゃないかと。彼女は言いたいのだろう。

 しかしなぜそこまでして彼女は俺に怒るのかわかっていなかった。


「もう一度聞く。何もできない、手は物をつかむくらいしかできなくて、考えることしかできない糞餓鬼(にんげん)


 同じように彼女は聞いてきた。


「お前【ひとりで何ができる】んだ?」

「……」


 考えろ。考えろ。

 俺になぜこうもして怒りを見せるのか。

 なぜ魔物を倒すという言葉に反応したのか。

 なぜ一人しかいない俺に一人で何ができると聞くのか。


 見える活路。しかしそれは活路と言うべきなのか、全くわかっていない。むしろそれは一か八かの話に近い。

 だが、青い竜がなぜこんなに怒りを見せる行為には必ず意味があることには変わりない。

 だから俺は……


「頼みがある」

「……」


 俺は両手を地面につけ、頭を下げる。それは昔日本に伝わった誠意を見せる行為。


 土下座だ。


「魔物を倒せる力を貸してくれ」

「……」


 つまりそう言うことだ。

 お前一人じゃ何もできない。お前一人で何ができる。【できないのならば誰かの手を借りることをしろ】。

 何も持てないのならば。何もすることができないのならば、利害の一致を集めろ。


「断る」


 思わず顔を上げてしまった。

 あれほど頼み込めと促しておいて断ることにもはや裏切りにしか感じない。


「と言おうと思ったんだけどなぁ。仕方ない」

「なら」

「だが、こちらの条件を飲め。検討するではない。これは絶対だ」


 利害の一致としてもお互いの条件はある。ルスは三本指を突き出した。


「一つ。魔除けの石は提供する。しかし過度な採取は許さない。

 二つ。お互いの領域を決め、領域の侵入は許さない。

 三つ。竜の認知をする」


 深くは聞くな。と言わんばかりに淡々と言う。

 それはお互いの存在を許し合う意味。あの人間を嫌う青い竜の提案だった。

 あの時、何が起きたのかわからない。

 しかし彼女は確かに、何かに心を突き動かされた。


「いいな?」

「もちろん」


 そして青い竜は初めて微笑んだのだった。




 だがしかし。どうやって奴を倒す? 第一に奴は鳥類だ。つまり飛んでいる。


「本当人間は使えないな」

「仕方ないだろう。そうやって人間は生きてきたんだから」


 臆病だから。何も持っていないから。密かに生きてきた。

 だが、可能性があるとすれば。


「人は魔物に襲われる」


 その魔物の習性を考える。魔物は人を探し出し、人を殺すために存在する。逆に言えば人ではないものであるならば襲わないと言うことだ。


「やっぱ囮なんだろうなぁ」


 やっぱ嫌なものは嫌である。だって攻撃されるんでしょ? 当たったら痛いじゃん? ひどい話死ぬじゃん?

 生き返るけどさ。


「人間は威勢のいい時だけ調子にのる」

「あの、さっきからずっと貶してばかりじゃありません?」


 隣で小言を言ってくるのはルーナではなくルスだ。ルーナは未だに眠っている。


「ルーナっていつも起きるの遅いのか?」

「……全のせいであんたは三度死んでいる。しかし傷を治すためにずっと起きていたんだ」


 あー、だから俺と話す気になったのね。


「だからと言ってそうやって貶すの良くないと思いまーす」

「ころすよ?」


 すいませんでした。


「やっぱり考えられるのは囮で俺が襲われてるときにお前達に攻撃してもらうことが一番だろうなぁ」

「そうなるわね……でもあんたは生き返るだけだ……」

「だから、同じことやめませんか?」


 溜息をもらし、頭をガシガシと書く。ふと思い出した。


「そういえば【魔素】といっていたが、それなんなんだ?」

「魔素とは全達が使える力の素。全たちはその力の素を使い、魔除けの石を作ったり、電撃をつくったりできるのよ」

「へぇ……それって人間にもできる?」

「できるけど死ぬよ?」


 ひぇっ……。死ぬの?


「全たちの使う力とは根本的な魔素のキャパシティが違うのよ。全たちにとってはほんの一部なのにあんたたち人間は全ての体を使わなきゃいけないとかね」

「……文字とか必要?」

「大体言葉に表すだけでできるけど。まず人間は全達の言葉を知る必要があるわ」

「言葉」


 座学は苦手なんだが、ましてや英語ではなく、イタリア語でもない言語……。


 大学のときに習った韓国語で頭が痛い思いしたのが懐かしく感じる。


「なにボケってしてるのよ」


 そう言いながらルスは指先で文字を書いていく。さらさらと書いていくその言葉はよくわからなかった。よくわからない故に。

 ……読める。


「雷?」

「なんで読めたの?」


 いや俺もよくわからない。しかしなぜ読めるのか思い当たる節があった。

 タストで見かけた看板は文字が読めなかったが、読み取ることができた。つまり【脳内変換】で文字を翻訳することができる。


「……さらっとチートみたいな能力預けやがって」


 そう。あの馬鹿だ。


「あんた本当に何者なの?」

「ただの……人間さ」

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