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いや、だからお前誰だよ。

 

 そもそも、俺自身はなぜ車に轢かれ、宙を飛び四肢爆散したのかよくわかっていない。


 えっと、最後に何をしていたのか思い出して見ましょうか。


 呑気に俺は死ぬ直前を思い出そうと試みる。

 思い出そうとするとそこは砂嵐だった。音声情報もなし、画面もなし、一人称視点? そんなものすらなかった。


 だめだこりゃ。


 そう吐き捨て思い出すことを諦める。風邪をひいたかのような気だるさと首の疲れ、そして脳の周りを締め付けるかのような頭痛に苛まれ自分の身の回りに起きていることを確認した。


 まず自分自身は何をしているのか。真っ暗闇のなか……現時点座っているのだろうか。背中と臀部に圧迫感があるわけだし……手の感覚はある。足の感覚もある。

 息はできていないが、苦しくもない。心臓の鼓動も感じない。


 うん。これは死んでるんだな。


「そうだね」


 突然の返事に俺は声を飲み込んだ。


「あれ? びっくりしたのかな?」


 楽観的な口調に返す言葉がなく、俺はどう答えようか悩む。とりあえず現時点で自分がどうにかしてほしいことを言うべきなのだろう。


 見えないからな。


「自分で目を開けれない?」


 目開いてないのか。あと開けれていたら言わないよな。


 その声は俺と同じ年齢だということは理解できる。ただし、誰なのか確認できない。聞いたことない声だ。


「ちょっと待ってね。調整するよ」


 は? 調整ってなにを……。


 突然瞼を強引に開けられたような痛みが走る。最初に網膜に焼き付ける光は刺激が強く、眉間に皺がよった。突如視界に入る光量に目が眩み、そして瞼を何かに貼り付けられている。


 眩しいし! なにしてんだよ!


「でも、こうしないと見えないわけだし…よっと」


 うぎゃぁぁぁ! 指! 指目に入ってるから! やめてくれ!


「開けてほしいのか、開けて欲しくないのかどっちかにしてくれないかな!」


 まずテープがなにかで貼り付けるなよ!目が乾くじゃねぇか!


「うるさいなぁ…えい」


 うぎゃぁぁぁ! また指で目をついたな! ちゃんと見えてなかったら呪うからな! 医療保険はつかえるのか!?


 ギャーギャー叫んでいるうちに光になれていく。

 そこはほんのりと灯りが灯されている空間だった。間接照明みたいな光がさらさらと流れる水の流れに乗っているかのような速度で俺の周りを囲むように回っている。そして、照明は俺だけではなく、目の前にいる何度も指を目に突っ込んだ犯人も囲むように回っていた。


「ようこそ、地獄へ!」


 いや、いきなり変な事言うなよ。あとその口調で地獄と言っても全然怖くないし。


「そりゃそうだよ。地獄じゃないんだし?」


 あ、そうですか。


 光が慣れてきたあたりで、その犯人の姿形を確認でした。白銀の髪を地面についてさらに床を蛇のごとく這わせており、その瞳は石榴のように赤くそして高潔さを醸し出す。そして、なにより息を呑むほどの美少女だった。


「? なにかな?」


 あ、いや見惚れた。


「そ、そうですか」


 美少女は照れた顔で髪をいじりながら満更でもない様子だった。ちょろいヒロイン……略してチョロインかな。


 ところで、俺はどうなったんだ。


「え? あぁ、ミチナシセイギくん」


 まさよしだ。


「いいじゃない。セイギで。かっこいいし」


 そうですか。と返事をする。すると美少女は腕を上にあげて高らかに唄い始めた。演劇上手な人なのかな。


「君は選ばれた勇者だった! 君は不幸にも車に轢かれ即死だった! あぁ! あわれ! ミチナシセイギ!」


 まさよしです。


「しかし君にはとある力が宿った!そうそれは」


 聞いてねぇのかよ。と嘆息する。そして彼女は握りこぶしを握り締めながら俺に答えを求めていた。とある力ってなんだっけと考えていたところ、ふと死ぬ瞬間のあれをおもいだした。レトロチックなゲームのサウンドエフェクトが流れそして、単語が一つ出てきたのを思い出す。


 生還者…と言う称号?


「そう! 君は幸運にも生還者という称号を得た。そして今日をもって君は異世界に転生して是非英雄、勇者、冒険者となって魔王を倒そうではないか!」


  ばぁぁん。という効果音が響きそうな勢いと、防波堤に当たる波があったら壮大なイメージを僕が勝手に脚色していたら勝手に終わった。その美少女は息をあげて頬を紅潮している。あぁ、恥ずかしかったのか。


 ……えーっと?


「まぁ、行止正義くん。君は神様に選ばれた魂で異世界に転生したあと、魔王をぶっ倒してね!っていうやつですよ」


 すんごいメタいなその話。


「だよねー。だと思ったよ」


 がくーんと項垂れる姿。その姿に少し愛嬌があるなと思った。


 でも、俺は現実世界の人間なのに転生してなにか不都合とかないのか? 例えば『転生したとして周りの人たちがこの人いたっけ』という矛盾とか……?


「あー、その点なら大丈夫よ。現実世界。正義くんのいうリアルだね。そこの神様に『住所変更』をしてもらってその申請を私が受ければ完了よ。私の加護で、あなたはどこにでもいる英雄になるのよ」


 なにその引っ越し届け感。ちゃっちー……。


 彼女はジト目で俺を見ていた。キニシナイキニシナイ。


「で、どうするの? この世界に行きたくないの?」


 大変ありがたい話ですが、俺は別に英雄になりたいわけじゃないんだが。


「え、でもそうしないとその世界魔王に占領されちゃうのよ」


 他に英雄や、勇者、冒険者おれとおなじてんせいしたひとは?


「いたわ」


 ならそっちに頼めばいいじゃねぇか……いたわ?


「だけど恩恵(チート)を与え、私があーだこーだしていたら堕落して魔王討伐しなくなったのよ。困ったことにね。規約違反だと思わない?」


 ……えぇ…。


 堕落? つまり俺と同じ境遇になった奴らは全員力をつけて魔王を倒さず私利私欲に走ったってこと? なんてひどい…。


 じゃあ俺にも他の奴らと同じような事したら堕落してしまうかもしれないぞ?


「そのために正義くんにあげたのがその生還者という称号です!」


 いや意味不明なんだけど。


「説明しよう! 生還者とは、死んでもなんども生き返るというスキルなのだ!」


 それチートじゃねーしどっちかというと無限キノコもってるマ◯オじゃねーか! いや、どっちかというとゾンビか?


 いやチートだけどな? と改めて思う。何回も生き返れるというのは確かに強い。だけど、『強くてコンティニュー』もない環境の、ましてや現実世界で平凡な能力値しかない俺がその能力を持ったとしてもゼロはゼロなのだ。

 えぇー、と彼女は渋る。


「でも私これ以上何も出せないよー?」


 フザケンナヨ! てめぇさっきから都合のいいことばかり言いやがって!


 あぁ、体が動くならぶん殴りたい!

 とにかく。と胸元で両手を合わせる美少女。


「あなたにはこれから魔王討伐のために異世界に行って戦ってもらいます。そして【神の奇跡として広め私の信仰心の回復をお願いします】」


 おい、どう聞いたってお前、自分の欲求もさらけ出したな。何考えてやがる。


  なんか転生される魔法陣ぽいの出てきた。あ、ヤベェ。これはいかん。


「さぁ、頼まれてしまっては後に引けないミチナシセイギ!」


 まさよしだ。


  いや、そんなこと言ってる暇ねぇよ!


「夢と冒険の世界に、レッツゴー!」

「人の話をきけやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 お、やっと口が開いた。


「だからなんなのよ! さっきから!」

「いやだから、疑問はいくらでもあるぞ!? 俺がなんで選ばれて、なんで俺が魔王討伐をしなきゃいけないだよ!?」

「あー……めんどくさ」

「お前がやったことだろぉ!? 最後まで説明しろやぁ! こんな穴だらけの計画を俺は詐欺とみなしてクーリングオフするぞぉ!?」


  わかった。こいつあれだ。ただのめんどく下がりのクズだ。見た目だけ最高の中身がクズだ。


「だーかーらー。さっきも言ったじゃない。勝手に選ばれて、魔王討伐を任されて、信仰の回復を」

「そこ。 あんたは何者なんだ?」

「私? ふふん。私は女神よ!」

「……?」

「そこなんで黙って、えぇ? 何言っちゃってんの? この人。みたいな顔するのやめてくれないかな! 本当に私が頭おかしい人に見えちゃってるじゃない!」

「いや、そういう風にというか、もう第一印象でこいつ頭おかしいやつかもと思っているですよ?」

「なんですって!?」


  怒り狂いそうな勢いで怒ってる。いや、完全に怒ってるわー、この人。


「いいじゃない! そんなこと言うなら転生した先で私の信仰心がどれだけあるのか教えてあげるわ!」


  魔法陣ぽいの出した。やっぱ転生させる気だぁ!


「転生する前にお前の名前を」

「いい? 私の名前は……!」


  そして、今まで動かなかった心臓が動き出すと意識はゆっくりと消えていった。


  結局名前聞けてないじゃねぇか。

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