ルーナシンセザリックの慈愛
ルスが去った後俺はひとり夜空を眺めていた。その夜空は何度も見ていたわけではない。あの時の夜空は街灯によってまぶしくて何も見えなかったんだ。
人間は不完全で定命しか生きない存在か……。確かに人間は不完全だ。不完全で、傲慢である。だからルスの言っていることは正しいんだ。
この場所で彼女達はどれほど肩身がせまい思いをしていたのだろうか。
語り継がれず、彼女達がずっとタストを守り続けてきた。これほどの恩恵を受けながらタストの住人はなんで恩知らずなのだろうか。
色々と考えているとルーナが俺の様子を見にきた。
「人間さん……大丈夫?」
「……それは俺がこの天候に生きているか? の意味なのか、先ほど君のお姉さんから言われ続けた敵意に対してなのか?」
「りょーほう、だよ」
「……まぁどっちもといえばどっちもだな」
目の前に歩いてくる。服装が際どいなと思った。一言で言うなら童貞を殺すセーターみたいなものに近い。いや本当に際どいな。あ、でもスカート的なものは履いてるっぽい。
その童貞を殺すセーターを着ているルーナは俺の頭を撫でる。なでなでと子供をあやすように。
「……何してる?」
「撫でてるの。人間さん辛そうな顔してる。個も悲しいときルスお姉ちゃんによく撫でてもらって気持ちが落ち着いたから」
「ルスって意外と妹思いなんだな」
「そうだよ! ルスお姉ちゃんはいつもさみしいときに抱きしめてくれたり、撫でてくれたり、優しいんだよ! 人間さんは嫌いだけど……」
フォローをしようとする妹。なんて健気なのだろうか。
「そうなんだな」
「で、人間さんがつらそうな顔してたから個も撫でたらげんきになるかなぁって」
「辛そうな顔してるのか俺……いやでも、そうかもなぁ」
異世界の人とは言え俺も人間だ。あんなに真っ直ぐと人間が嫌いだと言われたら俺だけに言っていないとしても傷つくものは傷つく。
しかし、ルーナの行動はおかしいとすぐに思う。ルスのほうは俺を嫌っており触れることもしないし、俺の視界に入らず視線も合わせようとしなかった。その行動の真逆を行う彼女に、行動に興味が湧く。
「ルーナは人間が嫌いじゃないのか?」
そう。ずっと二人で過ごしてきているのならばお互いがお互いの思考を理解して同調するはずだ。ルスが双子の姉ならば年上の意見に賛同するはず。
しかし、ルーナの意見は彼女の真逆だった。
「んー。嫌いじゃないよ?」
「なぜ?」
「なぜって言われるとわかんないけど」
隣に座っていい? と彼女は尋ねてきたため、俺は快く隣に座ることを許可した。
「人間さんは、ルスお姉ちゃんのいう通り不完全で命が短いと思っているよ。だけど、個はその生きてる姿に羨ましいって思っちゃうんだ」
「羨ましい?」
うん。と彼女は答える。
「羨ましい。個は長い命だから偉いとか完全だと思わないよ。人間さんたちは長い歴史を築き生き延びている。魔除けの石……人間さんの方では竜の鱗だっけ。それを集めて魔物に対する武器を作ったりしてるんだもんね。人間さんたちでしかできないことがたくさんある。それを何度も何代も受け継いできたことがすごくて、個はすごいって思うの」
「すごい……ってまぁ、ざっくりしてるな」
でも、彼女はずっと見てきたのだ。
タストを。長い年月をかけて成長してきた竜の山に守られ続けられてきた町が大きくなるのを。
「あのまちはすごいよ。最初は本当に豆粒みたいに小さかったんだ! だけど、だんだん大きくなっていってね! それこそ最初は魔物がいつも襲ってくるようなところだったの。だから私たちがいつも護らないといけないって思ってたの! でもまちはかわった。いつしか自分で守れるようになって、強くなって私たちが見ない間に周りの魔物と戦えるようになった」
だから人間に興味を持ち、人間の定命であるが故に築き上げる歴史に興味をもった。
その彼女はにこにこしながら、翼を羽ばたかせながら
「だから個は人間さんが好きだよ」
「ルーナ頭おかしいな」
「なんで!?」
驚いた顔をしている。そりゃそうだ。長い命を持つものは短い生命に興味なんか持つわけがない。いやどこかにもあった。命の長さが合わないもの同士が一緒に暮らせど悲しくなるのは必然だと。だけどその短い彼の人生に付き合うことにしたという獣の娘の話が。
そんな悲しいことを知らないのだろう。彼女は。だから知りたいのだろう。彼女は。
「……ミチナシだ」
「ん?」
「ミチナシマサヨシ。俺の名前」
「ミチナシ……変な名前」
クスクスと笑う彼女に何も言えなかった。




