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ルーナシンセザリック

 場所はタストのギルド、ざわざわとこれまであったざわつきではなく突然放り込まれた爆弾に慌てふためく生き物の様な喧騒だった。

 あのあと、ベルの懸命な指示により冒険者達は全員被害を受けずに下山することができた。しかしベルの避難させた理由が山の崩れとかでもなく魔物が出たという話で誰も信じてくれはしなかった。

 ギルドの広場でベルは懸命に魔物がいると叫ぶが先ほどのように竜の山とは魔物が出ないということで有名な所だ。


「間違いないの! あれは鳥類の魔物だった! あの鳥類の魔物から逃げる様に指示をしたミチナシがまだ竜の山にいるのよ!」

「だがあの山は魔物が出てこないことで有名なところのはず。それがなぜ魔物が突如出て来たんだよ」

「わからないけど、出たのを見たの!」


 それは水を掛け合う論争だ。ベルが必死に現状を説明するがそれをちゃんと聞き入れてもらえず、間違った方向と根拠の提示をいう冒険者ばかりだった。


「私は! いまそんな話をしている場合じゃない! ミチナシがいま魔物と戦っているんだから助けに来てよ!」


 彼女の切なる声に誰も届かない。魔物がなんだの。倒し方がどうだの。そもそもそこに魔物がいたのかだと時間だけが流れていく。


 そんなのは嫌だ。と彼女は思う。

 せっかくのパーティが死んでしまう。

 気持ちに追い込まれ、涙が溢れる。


「お願い……助けてよ」

「こほん。……すぅーー。静かにしなさぁぁぁぁぁぁぁい!」


 鶴の一声に、冒険者達は静まり声の主を見た。

 その声の主はギルドの受付だ。


「いまは攻略も、対策と情報も大事です。しかしいまその話をせず、ミチナシさんを救出することが先決なのではないですか?」

「だが、ねーちゃんよ。俺たちが返り討ちにあったらいけねーんだ。それじゃ救出もできない」

「別に魔物を倒せとは言っていないんです。人を救出する。それだけのことでしょう?」


 それに。と受付はにっこりと笑う。


「竜の山には魔物が出ないのならば別に登って【嘘をついているミチナシさん】を救い出せばいいじゃないですか? それともなんですか? 魔物が出るわけがないがわかっていて行かないのはただの根性なしと捉えていいのでしょうか?」


 受付から根性なしと評される……それはクエストの質を下げられるということだ。それはクエストをこなすことで報酬を得る彼らにとっては日常生活(ライフライン)が途絶えるというもの。


「それにミチナシさんは魔物のリーダーを仕留めたお方なんです。私たちギルドにとっては重要な人材なのです」


 受付はそう言って頭を深く下げた。


「おねがいします。ミチナシさんを助け出してください」

「おねがい。ミチナシを助けてください」


 ベルも受付に習って頭を下げた。




 クエスト発注:竜の山にいる冒険者の救出。

 そのクエストに総勢三十名の冒険者が参加した。




 意識はあったが疲労感により体が動かなかった。短時間にも死と再生を繰り返すと体は疲労するようだ。

 確かに肉体の回復があったとしても疲れというのは取れなかった気がした。

 そんなのんきなことを考える暇があるのならば、さっさと疲れをとれと自分に言い聞かせたくなる。しかしまさか不死身の体に弱点があるとは思わなかった。

 今回わかったことは体内に残る系統のダメージは全て回復できないということだ。脳天ぶち抜かれて復活はできるが、例えば腹に串刺しした状態では回復はすれどその部分は回復しない。完全に元に戻すには体から異物を引き抜くか何かしらの対処をしなければならないってことだ。


「……あたたかい?」


 目を開けると真っ暗に近かったが、それは夜空だった。雲が一つもなく、静かな時間が流れる空気は冷たく、肺が凍るようだ。一つ大きなあくびをする。酸素が足りてない。しかし、その夜空は一枚ガラスを隔てているかのようだ。

 いや、腹部に何かが乗っていることに気づけよと俺はその時思った。


「……女の子?」


 そう、少女だった。白い髪を持ち、黒いワンピースは淫らにはだけていて、すうすうと寝ていた。

 まって、俺って何があったんだ?

 記憶をたどる。


 大雑把に言うと、竜の鱗を集めていたら鳥の魔物に襲われて、俺の死なない体が死にかけた。そしてピンチの時に白髪の女の子が現れて……。

 それがこの子か。と納得をした。


 いやするなよ。


 まずなんでこんなことになっているんだ? いやその前にこの女の子何者なんですか?


「……んー」


 あたふたとしていると少女は不満の声をあげると、パチリと目を開いた。あら可愛い。黒い瞳だね。


「……人間さん?」

「人間です」


 お前もだろう? といいかけて止まった。

 腰から生える三対の翼は膜状の翼。その翼はまるで竜のように雄々しい、そして彼女の頭部には髪留めと間違えるかのような灰色かかった角が生えていた。

 それはたくさんの人が見ればわかる、異形と示しているもので間違いはなかった。


「……生きてる?」

「生きていたら、心臓動いてないよね?」

「……」


 すりすりと胸のあたりを顔で押し付ける。ツノがちょっと痛いかも。耳もエルフのような長耳だ。ワンピースがはだけて胸元がちらりと見える。


「三番めかな?」

「?」


 少女がへんな顔をしてこちらを見ていたが気にしないことにした。そしてまたすりすりと胸元に顔を押し付けてくる。いや、女の子だな。うん。


「……んー。鳴ってる?」

「寝ぼけているのか? キミは」


 知能指数が下がる会話のようだ。一気になんでこうなったのか状況把握をしていたつもりがこの子の会話でいくつか忘却の彼方に捨てられた気がした。


「どいてくれるかな」

「なんで?」


 なんでって、いい大人が少女に乗っかられて胸元すりすりされていたら全ロリコンの人から羨ましい! 死ね! って言われかねないからですよ。


「ん……」

「なんでそんなに嫌そうなのですかね」

「なんか当たる」

「すいませーーん! だれかたすけてくださぁぁぁい! いやそれよりどいて!? 本当に! 心からお願いするよ!?」


 やっと降りてくれた。俺もガバッと起き上がり少し距離を取る。やや前傾姿勢で。


 いやさ? だってさ?

 可愛いじゃん? おっぱ……胸大きいじゃん? ましてや年下じゃん!?


 正直どストライクですよ。はい。幼女……じゃなかった。ロリ巨乳だ。いやぁ、眼福ですな。


「なんかへんなこと考えてない?」

「何も考えていないデスヨ」


 それより、服がボロボロになってきたな。と穴が空いている服の形をしていないボロ切れをみた。その姿をじっと見つめている女の子(可愛い)。


「名前は?」

「……ルーナ」


 月? とすぐに連想する。いやだって、俺の知ってる世界では月の名前はルナというし……。ルーナはバサバサと翼を子供のように無邪気に動かす。翼には紫色の発光する線が引かれており彼女の右腕の二の腕と上腕に同じように紫色の刺青が貼られている。


「ルーナシンセザリック、(わたし)の名前」

「ルーナ!」


 後ろで彼女の名前を呼ぶ。その声はルーナの声によく似ている。母親かとおもって身構え、後ろを恐る恐る振り向いた。

 ルーナだった。というのもルーナにそっくりの瓜二つといっても過言ではないほどの。双子とすぐに理解をする。しかしそのルーナと違い。翼は三対の鳥の翼だ。そして彼女の服装はルーナと違い、白く、ルーナと逆の腕に青い入れ墨が彫られていた。あと、すっごい怒っている。眉間にしわよせていて、その青い瞳は蛇のように鋭い。


「……ルーナ?」

「口を開くな、人間。(わたし)に話しかけるな」

「な……!?」


 声が出ない。口があかない。話す意思を【奪われた】。

 何かの魔法を使われたとすぐに考えるが、そんな兆候はない……と思う。


「ルスお姉ちゃんよくない」

「ルーナ。あなたも警戒をしなさい。不完全な生き物を助けても何も意味はないのよ」

「でも、困っていたら助けなさいと教えられた」


 え、何この状況。口も開けれない俺はその光景を見ているしかできなかった。


「……」


 スッと眉間のしわと伸ばすと、俺の中にあったものがなにか解かれた気がした。


「あ……声が出る」

「人間さん、お姉ちゃんは人間嫌い。ごめんね」

「いや、いいんだけど……君たちは?」


 俺はとりあえず現状を知りたかった。君たちはいったい何者なんだ?


(わたし)たちは双子。竜の血筋の」


 なぁるほどね。つまりこの子たちは竜の山の竜だってことなのね。



 んなあほな。

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