三対の翼
山の麓は広葉樹の森が鬱蒼としており、如何にも魔物が潜んでいそうな暗い場所ではあったが、そんな気配は一切なかった。
「ねえねえ、本当に魔物いないのよね」
「いないからみんなで一緒に行くんだろう」
ベルがおどおどしながら俺に聞く。いや俺に言われてましても。
今回もこのクエストに参加した人たちと竜の山まで行くことになっている。今回も単独で行くのは自殺行為だとおもっているためだ。
死なないけどね。
「いやぁ、竜の山に行けるなんて夢が叶ったよ」
「竜の山。伝承と伝説と入り混じる神の山……」
と、オカルトマニアがいいそうな会話が多数聞こえる。服装も登山するような服ではなかったためにそこまで登る予定もないのだろう。さらに彼らは武器を一切勿体無かった。
「今回竜の鱗集めのリーダーをします。登山の容量と同じように、今回は単独行動をなしに、皆さんで集めましょう」
親切な人がリーダーを務め、みんなが袋一杯の竜の鱗を集めたら戻るという話をする。
「ねえねえ。私もたくさん竜の鱗を集めたらいいのよね!」
「なんでお前下界に順応してるんだ」
「そりゃ私の世界ですもの」
あー、そうでしたね。
「とりあえず竜の鱗を集め終わったら即帰るぞ。お金を集めることがまず第一優先だからな」
「うん! かえったらまたお酒飲むんだよね」
「魔王討伐の資金集めだろ!?」
金の亡者と俺が俺自身に言っていたがこいつの方が亡者じゃないか?
森林を抜けると山の入り口に入る。といっても、もうその時点ではもう登山しており、開いた視界から後ろを見るとタストの街が見下ろせた。
茶褐色の粗い形をした溶岩がそこら中に落ちているため、この山は火山だと認識する。
「ではこれより竜の鱗の採集をします。各自解散で。なお、時間が一定立ったとき赤い狼煙を上げます。それを三度みたらこの場に集合。下山します」
そして俺たちは竜の鱗を取るために各自解散した。
「そもそも竜の鱗ってどんな色なんだよ」
ベルに尋ねると、ベルはんー。と少し思い出そうとする仕草を取る。
「様々よ? 基本は赤かったり、青色だったり、黒かったり、黄色だったり……とにかくなんか虹色って感じ」
ビスマス結晶?
「とにかく探せば出てくるわよ」
「さいですか」
改めて細かく砕けた溶岩を退けながら探すとたしかに虹色に光る鉱石を見つける。
「これが竜の鱗?」
確かに虹色ではあるが、どこか分厚いひし形の金属板の様なものだ。一つ見つかるとその近くにちらほらと見つかる。
「そういえば竜の鱗って一ついくらなんだろうな」
叩けば火花が散り、水にさらせば氷の様に冷たくなる性質を持つのならばそれなりに高価であるはず。
「私もこの世界に来たのはそんなに長くないわよ?」
「そりゃそうでしたね。金銭感覚もないただの馬鹿力女ですしっ!」
頭が吹っ飛んだ。
意識が戻ると、目の前にぐしゃぐしゃに砕けた俺の脳みそと頭蓋骨があったが、すぐに煙の様に消え去った。
「てめぇ! 本当に俺を殺すのやめてくれませんかね!?」
「私は神よ! 浪費癖なんてないわ!」
「ばっかやろう! 金貨二枚も使いやがってそれを浪費じゃないというやつはこの山に置いていくぞ!」
姥捨山ならぬ、神捨山だ。
「いやだぁぁぁ! 私を置いていくのはやめてぇぇぇぇぇ!」
「ならつべこべ言わずに手を動かせ!」
目が慣れてくると大体竜の鱗がどこにあるのかよくわかってくる。さっさと集めていくと小さい皮袋がずっしりと重たくなった。
それと同時に一度目の赤色の狼煙が上がる。
「ベルそっちは?」
ベルはおれに指を一本立ててくる。
「……一個だけか」
まぁ、そうだよな。と採取に集中した。
「ミチナシ!」
ん? なんか日陰が……。
それと同時に痛覚が走る。
「……え?」
唐突にじくじくとした痛みに判断できなかった俺はその痛みの元凶を見るとそれは巨大な羽根が腹を貫いていた。今ので俺は死んだのか。空を見る。
そこには馬鹿でかい鳥が旋回している。しかし鳥には程遠い。まるで異形の生き物に翼が生えている。
魔物だ。
「ベル……逃げろ」
「ミチナシ!」
「お前は他の人に魔物が出たといって一緒に逃げろ」
致命傷を受けた俺は生還者で修復される。今のうちに陽動をしてあの魔物を引きつけている間に他の登山者を避難させる。
「わかった! あとで合流しよ!」
「さっさといけ。馬鹿女神」
さて、どうしたものか。
旋回しているだけでまだ襲う気配がない。つまりこちらを警戒しているところだろうか。
とにかく相手に警戒をする。その間に手頃な石を探し出す。
するとそれに反応した魔物は大きく羽ばたくと五枚ほどの羽根がその風に乗り襲いかかる。目で捉えれる速さではあるが体が反応しない。その羽根の切っ先が腕と、太ももを貫き、そして運悪く脳天に突き刺さる。地面を抉る威力だ。二度目の死を招かれる。
「いってぇ……」
あいつは俺を殺しに来ていることがわかる。魔物の人間を絶対殺すという意思がちゃんとある様だ。
羽根の大きさはざっと人の身長くらいか。人を殺す事が安易だな。
そんな分析をしている暇はない。
右腕と太ももに刺さっている羽根は地面に突き刺さったままだ。身動きが取れない。
魔物は何度も羽ばたいた。
「……っ!」
左胸を貫く。修復する。
脳天に貫く。修復する。
右腕に突き刺さる。修復できない。
腹部を突き刺さる。修復できない。
修復ができない。
「やばいこれは死ぬ!」
動けない状況で、四肢は突き刺さり身動きが取れない。腹部には五箇所も羽根がつき刺さり、修復ができない状況だった。
串刺し公に殺された人の気持ちはこんな感じなのだろうか。
そんなこと考えている暇はない。
「うっごけよ!」
グイグイ引っ張っても抜けない。鉄とまではいかないが、鳥類特有の羽根の柔軟性を持ち合わせているために無理やり引っ張っても折れない。
血が出すぎて頭が回らなくなってきた。
「……ベル達は逃げれたかな」
鳥の魔物が飛来してくる。多分。俺を食べようとしている。だんだん降りてきた。
クソッ。一人ではなんもできないな俺は。
チートみたいな力があっても。何もできない。
唇を思い切り噛んだ。
刹那。
目の前に何かが現れた。それは影の様に黒い翼が、紫の光を点している。
三対の翼が、目の前で羽ばたいている。
白い髪が見えた。
「……ベル?」
白い髪を持つ女性は一人しかいない。
ちらりとこちらを見た少女の瞳は黒かった。
鳥の魔物が咆哮した。その声は威嚇だ。五箇所も穴が空いている腹が震える。
「あっちいって」
片手を突き出すと同時に黒い炎が生み出される。それは本当に小さい今にも消えそうな炎だ。そして少女は吹きかけるとその炎は爆発的に燃え上がり火炎放射器の様に魔物へと襲いかかる。
それに驚いた魔物はその場を逃げる様に逃げた。
……助かっ……た……。
助かるという安堵に、疲労が一気に襲いかかる。
そして俺は意識を失った。




